四十七話
「おかしい……解せぬ……」
そんな声が聞こえたので私は振り返った。そこにいたのは難しい顔をしたニコだった。
「なによ? どうかしたの?」
「先生か。俺は、ここへハーレムを作るために来たんだ」
「あんた、二言目には、それを言ってたもんね」
「この首都は陥落の危機を迎えてたよな?」
「今だって、その危険の真っ最中なんだから気を抜いちゃダメよ?」
「それだ!! それなのに、この雰囲気はどうだよ。絶望感がまるでないし、下手すると、その辺の女の子でも弓の腕前が凄いじゃないか」
「結構な事じゃないの。いざって時には戦力として頼りになるわよ」
「はぁ~……俺の考えてたのと違うんだよなぁ」
この世の終わりといった感じの表情をしてるので、私はオデコを突いて注意してやる。
「あんたね、今だって一斉に魔族が攻撃してきたら全滅するわよ。その為には、もっともっと皆に鍛えてもらわなきゃダメなのよ。皆が内力を鍛える事に熱心になってるんだから歓迎すべきことでしょ!?」
「そうなんだけどさぁ、美少女の危機に颯爽と俺が現れて魔族を倒す。そして俺に惚れて美少女はハーレムに入るって夢が叶えられそうにないって気がするんだ」
まぁ確かに、そうかもね。
直接戦闘で魔族を倒せる女性は、姫様と一部の女性兵士だけなんだけどさ。
遠くから弓矢で射るんだったら一撃で仕留められる娘は増えてるからね。
「先生」
「なによ?」
「おっぱい触らせてくんない?」
「絶対にイヤ!!」
「じゃあ、さきっちょを摘まむだけで我慢するからさ」
「その先っちょが一番大事なんでしょーが!!」
「ダメかぁ。本来の予定じゃ、もう2~3人ほど侍らせて酒池肉林を楽しんでたはずなんだけどな」
ろくな予定じゃないなぁ、本当にもう。
「今は首都が包囲されてるし余剰戦力もないけれどね。でも、カレドニアからの援軍が来て包囲してる魔族を殲滅したら、チャンスがあると思うわよ?」
「そおかなぁ?」
「首都の他は占領されてるのかもしれないし、虐殺されてるかもしれないし。だけど、そこで怯えてる女の子を救出したら、きっと感謝されるわよ」
「そおかなぁ?」
「そうよ。可愛い彼女が出来たら、さっきの揉ませろって話を喋っちゃうよ?」
「それは困る!!」
「それに私はニコのお母さんと似たような年齢なのに、まだ母親の胸が恋しいわけ?」
「先生は母さんと同じ世代とは思えないくらい美少女だからオッケーなんだよ。しかし、先生が母親だったらマザコンでもいいや。それだったら、ちょっとくらいオッパイ吸わせてくれる?」
「絶対にイヤ!! イヤったらイヤ!! アルスだったら何をされても許しちゃうし、アレスとアリスなら揉もうが吸おうが構わないわよ」
もっとも、あの三人は今更そんな事をしたがるとは思えないけどね。
アリマが抜けたせいか、アルスに対する感情も愛情でいっぱいなんだ。今なら私は心からアルスが大好きだって言えるのが嬉しい。
ただ、そのかわりにアリマと私に別れてしまったせいか、どこか空虚な感じがするのよね。
まぁ、そのうち何とかなるでしょ。
ニコと別れた後、部屋に戻ったらアレスが来た。
「ニコに嫉妬するって言われたよ。そんな事を言われても困るよなぁ」
「あんたには、シータがいるものね?」
「シータがいなくても、この年齢で母親の胸に甘えたりできないだろ」
「普通は、そう言うよね。ニコにも言ってやんなよ」
そうするよと言いながらアレスは出ていった。
そんなアレスと入れ替わりに、アリマが来た。
「シーラは?」
「協会で治療の手伝いをしてるよ。ヒマなんで姉貴のところに遊びに来たんだ」
「ふ~ん、まぁ適当に寛いでなさいよ」
「おう、そうさせてもらうよ。ところでさ」
「なぁに?」
「ニコの奴がアリスに絡んでたぜ?」
「変ね。アリスはシーザーと恋仲になったから、ニコはアリスには絡んだりしないはずなんだけどね」
「いやいや、ニコもそういった絡み方をしたんじゃないさ」
「じゃあ、どんな風に?」
「姉貴に甘えられて羨ましいってさ」
「ニコめ、アレスだけじゃなくてアリスにまで言ってんのかぁ」
「姉貴、俺は甘えちゃダメなのかよ?」
「なに、あんた私の胸を揉んだり吸ったりしたいワケ?」
「うんにゃ、俺と姉貴は同一人物だったからな。甘えていい対象には加えて欲しかっただけだ。アルスは俺にとっても夫と呼んだ関係だし、アレスとアリスは俺の娘と呼んでも良いはずだろ?」
「そうだけど、二人には言わないでよ? 説明すんの面倒だしさ」
「分かってるよ。とにかく俺だけ仲間はずれは寂しいだろ?」
仲間ハズレは寂しいって……私って、有馬竜児って、そういう男だったっけ?
私とアリマは、本来の有馬竜児の人物と微妙に違うような気がするなぁ。
「分かったわよ。仲間に入れるわよ。だけど、アンタは対外的には弟なんだよ? 姉の胸に甘えたりしても良いとか広言したらシーラが、どんな顔するかしらね?」
「そいつぁ、マズイな。もっとも、俺と姉貴が重なっていると見抜いた娘だし大丈夫だと思うけどな」
「分かったわよ。今後は子供達と夫に加えてアンタも入れておくわよ」
「頼んだぜ!」
アリマの奴は晴れ晴れとした顔で帰っていった。
お前もアレスを見習って、私離れしろよな。




