四十一話
「じゃあ、何故勇者は現れないんだ? 過去の歴史で勇者は、どれくらいで現れたんだ?」
一つの王国が滅ぼされたらか。もうスラールが滅びてる。今、またクロヴィアも滅びようとしてる。それ以前に隣の大陸には十カ国ほどあったと言ってたよね?
それらの王国が滅びても、大陸一つが魔族の支配地域になっても現れないのは、この国の過去の歴史から見て普通の事なのかな?
「確かに過去の例を見ますと、一つの王国が蹂躙されたあたりで勇者様は登場してますね」
シーラが教えてくれる。
「今回に限って言うなら、勇者は登場できない理由があった。その資格を持った者が幼かったから登場できなかったんだ」
「だったら、兄さん。もうアレスとアリスは十分に成長してるんじゃないかな?」
シーザーとシードが話してると、アリマも会話に加わった。
「それでも勇者は現れない。可愛い甥と姪を弁護するわけじゃないが、こいつらが勇者の資質に欠けてるとは思えないんだよな」
アレスとアリスは申し訳なさそうに俯いてるけど、それ以外の面々は大きく頷いてる。
私も親の欲目で言うわけじゃないけど、アルスに大きく劣ってるとも思えないんだよ。
そもそも、そのアルスでさえ勇者の証は現れなかったんだからね。
「じゃあ、何が過去の事例と違うと思う?」
アリマの問いに誰も答える事ができない。皆が黙っているとアリマは私をジッと見つめている。
私に答えろってか?
「わ、わからないよ」
素直に答えると意外そうな顔をされた。
「答えは俺達だ。姉貴と俺は異世界で勇者と呼ばれてた。その世界で魔王に吹き飛ばされて、この世界にやってきたんだが……」
「異世界の勇者が存在してる事が原因だって思うわけ?」
私の言葉にアリマは大きく頷く。
「姉貴がいなければ勇者の血筋は途絶えてた。だけど、もしかしたら勇者の村が知られたのは姉貴が原因だったかもしれない。姉貴が別の場所に現れていたら勇者の村は残ってたかもしれない」
「その場合は勇者の村は存続してるけど、私達異世界の勇者の存在が原因で勇者は現れないと?」
私の言葉にアリマは、また大きく頷く。
「異世界の魔王が何を意図して俺達を異世界に飛ばしたのか。こういう事だったのかもしれないな」
「だったらさ、私とアンタが死んだらどうなるのかな?」
「もしかしたら、その途端にアレスとアリスに勇者の証が現れる、かもしれない」
じゃあ、私達は死んだ方が良いのかも……
「絶対に反対だよ、母さん!」
「そうだよ! アリマ叔父さんの意見は仮説じゃないの。死んでも証が現れなかったら死に損だし、魔族に対しての強力な戦力が減っちゃうんだよ!?」
アレスとアリスは絶叫と言っても良いほどに大きな声で反対してる。
イヤだなぁ、確信が持てるまで死んだりしないよ。
「確かにな。今、死ぬのは早計だ。何しろ、お前達には姉貴の血も流れてる。これがどういう事だか分かるか? アレス、アリス」
アリスは少し考えてから答えた。
「異世界の勇者である母さんの血を受け継いでる私達は、異世界の勇者と看做されて勇者の証が発現しない可能性がある?」
「その通りだ。異世界の魔王の最後の呪いにしてはショボイと思ったけどよ。なかなかどうして、えげつないマネをしてくれるものだよな」
私は暗澹たる気分になった。




