三十七話
魔族が襲撃してきた事で、剣技大会は中止になった。
私が教えた内功は疲労が激しいという欠点はあったけど、オーバーブーストとして考えると有効だというので、王都にいる兵士に教える事となった。
王様から直々に頼まれたんだから仕方ないよね。
内功の使い方を覚えた連中も一緒に講師役を引き受けているので、全軍に教えるのも時間はかからないと思う。
王様は国内の守備兵を遂次入れ替えていくつもりみたい。
ある程度目処がついたら、私はクロヴィアへ出発しようと思ってる。
王様からの依頼で王都に残るので、役人が手配してくれた宿舎に移動したけど、とても豪華で嬉しい。
それだけ重要視されてるんだよね?
でもそれは王都に残る口実みたいなもんなんだ。
もう一人の自分が何なのか、それを確かめたいからね。
夜中に私の部屋へ人が訪ねてきた。
それは、もう一人の私、男性の私だった。
「待たせたな」
「別に深夜に話す事でもないと思うんだけどね」
「俺とお前が同一人物だって知られても構わないか? 子供達にはショックが大きいと思うぞ。母親が元男性だなんて話」
「信じないと思うよ。あんたと私が同一人物だなんて」
「まぁな。だけど、必要の無い波風を立てる必要はないだろ?」
そりゃそうだわね。
私はアリマをソファに座らせると、お茶を入れてから対面に座った。
アリマはわずかに眉を顰めてる。
「で、ずばり聞くけどさ。アンタは何者なのよ?」
「だから俺は、お前だよ。ただし、男性のお前だ」
「こうして話してる以上、同一人物であるはずがないわよ。つまり、アンタは他の誰か、だよ」
アリマはため息をついた。
「こうして対面で座るのは対決してやろうって意識の表れだって、元の世界にいた時に何かで見た気がするけど、お前は正にそのつもりだろう?」
ちょっと図星を突かれた気もするけど、信用できないもんね。
「図星か? 俺は確かに女性の体になって面喰ったんだよな。だけど、いつの頃からか、どこか他人事のように見ている自分に気がついたんだ」
「ほら、やっぱり別人なんじゃないのよ」
「まぁ聞けよ。こうして別れたから聞いてみたいんだけど、お前はアルスを愛してるか?」
「なっ!? な、なによ、いきなり! そりゃ、愛してるわよ。悪い?」
「いや、悪くないよ。俺はアルスは良い奴だって思ってる。でも、愛情はねぇな。友情だけだ」
「アンタに愛してるって言われたら、アルスも困るでしょうね」
「まったく同感だ」
コイツ、何が言いたいのかなぁ……
「俺が前の世界へ飛ばされた時は十代だった。そこで五年ほど過ごして、こっちへ来たよな?」
「こっちに来て、17~18年くらいかしらね?」
「最初の人生と同じくらいの年月か。だけど、こっちは密度が濃いよな。子育てはしてるし」
「そうね、それは否定しないわよ」
「その年月の中で、アルスに対する感情や子供に対する感情、男性と女性では違う部分が多いと思うんだよ。さっきのアルスに対する気持ちなんて分かりやすいよな。子供だって可愛いけど、俺にとっては産ませるもので、自分が産むもんじゃなかった」
「それで?」
「シーラと風呂に入ったとき、あの娘の体を見て抱きたいって思ったか? 俺の幻影を見てフェロモンを出しまくってるのを見ても何も感じないか?」
「だって同性だもの」
「でも、心は異性なんだぜ? だって心はアリマ・リュウジなんだから」
言われてみれば確かに。
でも心は肉体に支配というか影響されるんじゃないのかな?
そう言ってみた。
「それだ。肉体に影響された結果、男の俺と女の俺と分離し始めた。それをシーラは見ていたんじゃないか? 長い間、女として生活していた為に、アルマが主体となり俺は異物として吐き出されたのかもな」
「つまり、性差による違いが、私とアンタの個性になってるけど、それ以外は同じなワケね」
「そうだよ」
肯定するとアリマは、私の隣に座る。
そんなに対面で座るのがイヤかな?
「そりゃイヤだよ。さっきまで自分だった女性に敵視されかけてるんだぞ」
分かったわよ。
悪かったわよ。
これから、どうすんのよ?
「勿論、姉ちゃんの味方をして魔王を倒すよ。そして平和になった世界でシーラを嫁にする」
「元の世界に帰らないの?」
「帰らない。ここには姉ちゃんもいるしな」
「今、気がついたけど、姉ちゃんって私?」
「年齢差もあるし、その方が良いと思わないか? とにかく、よろしく頼む」
結果的には強い味方が出来たのかな。




