三十五話
私が剣を振り下ろすと、トカゲ野郎は腕で受け止めようとした。
たぶん、人間の攻撃なら腕で受け止めても大丈夫だったんだろう。
けど、今は易々と魔族の腕を斬り裂く。
易々ってほどでもないか。ゴリッとした感触がくるもんね。
「きさま!? 何をしたのだ!!」
「さっき説明してたの聞いてないの? 内功を使ってるんだよ。私は別の世界の勇者だったんでね」
「許さんぞ! 殺して内臓を食らってやるぞ!!」
「殺せたんなら遠慮なく食べても構わないわよ。でも、私を殺せるかな?」
私はもう一度、トカゲ魔族の腕に斬撃を加えて斬り落とした。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
「今度は私が、アンタの腕を食べてあげる。ヘビの肉は固めの鳥肉みたいだって聞くけど、爬虫類の魔族はどうなのかしらね?」
「人間風情が生意気な!」
「トカゲ野郎に言われたくないわよ」
私は背後に回りこむと、魔族の背中から腹へ剣で突き抜く。アレスとアリスも難なく足や胴体を斬り裂いている。
「内力のコントロールは身についた?」
二人の体からは金色のオーラが吹き出している。それを見ろと言わんばかりだね。
他の連中も、それぞれにオーラを放出して戦っている。ガレスは巨大な魔族を一刀両断か。
他の連中も魔族を簡単に倒している。
50体のうち、半数は一瞬で斬り伏せた。
なんだ、こんな事なら、もっと早く教えて魔族の居城に攻めこめば良かったんだ。
そう思ったのも束の間で、気がつけば皆の動きが悪くなっていた。
息が荒くなり精彩を欠いている。
変だなぁ?
内功の使い方を知らなかったとはいえ、武術の達人だし内力は充実してるはずなんだけど……
元気よく動き回って戦ってるのは、私と子供達だけになっていた。
子供達が私と同様に動けてるのは私の血をひいてるせいかな。
やはり他の世界の勇者の技はダメなのか。
でも、オーバーブーストと考えると優秀だよね。
「イマダ! ミウゴキデキナイヤツラヲ コロセ!!」
まだトカゲ魔族の奴、生きてたのか。
さすが爬虫類はタフだね。
手足を斬り落とされて身動きできないトカゲ魔族に近寄ると、さすがに恐怖を感じるのか逃げようともがいている。
「クルナ!」
「安心してよ。もう嬲ったりしないよ、武士の情けでトドメを刺してあげるからさ」
「ヤメロ!」
「それは無理だね。アンタはアルスの仇だもの。アンタへの供養として腕は美味しく食べてあげるからさ。じゃあ、成仏してね」
剣を振り上げると、トカゲ魔族の頭へ振り下ろす。
頭を撃ち砕いて息の根を止めた。
これでアルスの仇の一つは取ったね。
あとは魔王だけだ。
私がこうしてる間も子供達は戦っていたけど、何しろ敵の数が多い。
魔族達は、それぞれに標的を定めて攻撃をしようとしていた。
このままじゃあ、仲間に犠牲が出ちまうよ。
「皆、内力を練って私らの背後に超加速で来れない!?」
王を守るアーサーを除いて、全員が地面にへたり込んでいる。
シーラが回復魔法を唱えているけど、果たして間に合うかどうか。




