三十二話
私は魔王が、まだ世界を本気で滅ぼす気はない、と見てるんだ。
何しろ奴は勇者の村を滅ぼした。
楽しむ為に世界をゆっくりと滅ぼす気なんだ。
私はランスローに聞いてみた。エドリアル大陸には、いくつの国家があるのかと。
「スラール王国を中心に大小合わせて10国くらいはあったのではないかと思います」
「今は?」
「分かりません。クロヴィアと、その近隣のマース王国は健在と聞いておりますが、それ以外はスラール王国を挟んで大陸の向こう側でしたから、王国が滅びた後はどうなっているのか……」
この17年の間に滅ぼされた可能性もあるんだね。
勿論、頑張って戦って生き残ってる可能性もあるんだけどさ。
近隣のマース王国にも魔王軍は攻め込んでいるんだろうか?
マース王国が大した事が無いと判断すればクロヴィアを滅ぼして、いよいよカレドニアに侵攻するって事もありえるわけだよね。
もう国王の判断は、どうでもいいや。
国王には国家と国民に対する責任があるもんね。
けして自分の命惜しさとは思いたくないけど、それすらも、どうでもいいや。
アレスとアリス、二人はどう思うのか、だね。
アルスでさえ勇者が現れないとダメだと考えていた。
二人は? 私をジッと見ている。
ダメだね、私の判断を待っているようでは。
困っている人を、意味もなく殺されている人を救いたいって気持ちが湧き上がらないとダメだ。
言われたから行くんじゃダメだよ。
「お母さんは、どうするの?」
アリスが聞いてくる。不安そうな顔をしている。
「私は……行くよ」
「じゃあ、俺も行くよ」
「じゃあ俺も行くよ、だって? 私が行かないと言ったら、アレスも行かないのか?」
「だって母さん一人じゃ危ないだろ?」
「私より弱い奴がいたって足手まといなだけだよ」
「そんな言い方しなくても!」
アレスを拒否する私の言い草にアリスが怒る。
「二人が16になった時に言ったことがあるよね。この世界の勇者は、勇者の血筋からしか現れないって。この世界の皆は勇者に頼りすぎだよ。私はこの世界の他力本願なところが大嫌いだ!」
シーザーは勇者には強大な力が与えられますから、と私に言った。
「神様から選ばれた勇者には特殊な力が与えられるって話は、アルスからも聞いたけどさ。そんな能力が無ければ人を助ける気持ちすら持てないのかな? 魔王に蹂躙されてる人達は可哀そうですねって同情してれば気は済むのかな?」
アルスへの義理は二人を育てた事で果たした。私はここまでやってきて何だけど、勇者の血筋を否定しよう。
勿体つけて、いつまでも勇者を選ばない神を否定してやろう。
「先生、私も行く!」
いつの間にか、シーラが来ていて同行を申し出てくれた。
「あんたね、まず間違いなく死ぬんだけど、構わないの?」
「先生と男性が分裂し始めてるんですよ。もしかしたら、男性が分離されるかもしれません!」
打倒魔王じゃなくて好きな男を得る為なんだね。まぁ、いっか。
「先生、俺も行くぜ!」
名乗りを上げたのはニコだった。死ぬかもよって脅かしてみたんだけどさ。
「安全な勝ち戦でハーレムは作れないじゃないか。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ!」
私はニコの頭を叩いてやった。そのセリフは私の出身世界の英雄が言ったんだぞ。
ハーレム作る為のセリフにしやがって、本当にもう、こいつは。だけど、魔王相手でもブレない所は褒めてあげよう。




