三話
気がつくと俺はベッドに寝ていた。
暖炉の火が赤々と燃えていて、何とも心地良い暖かさだ。
体を起こして周囲を見渡す。
もしかして、俺が気絶してる間に仲間が助けてくれたのかもしれない。
しかし違うようだ。
俺の知ってる部屋ではない。
ドアが開く音がしたので俺は振り返った。
「目が覚めたかい? 君は森の中で倒れてたんだ。森には魔物もいるし、狼や熊だっているんだよ。運が良かったね」
俺の目の前にいるのは、気の良さそうな好青年って奴だ。
身のこなしを見ても武術か何かをやっているようで、かなり強そうだ。
「すまないが、ここはどこなんだ?」
俺は自分の口から出た声に驚いた。これは俺の声じゃない!
思わず立ち上がって、自分の手を見る。
何て華奢な手なんだろう。しかも目線が低い。まるで女か子供みたいだ。
「いきなり立ち上がって大丈夫かい?」
好青年が心配そうな顔で見ている。こいつ、いい奴だな。
「ここは、カレドニア大陸の南端にある名も無い村なんだ」
「カレドニア大陸だって?俺は世界を旅してたけど、そんな大陸はないぞ」
「君って、男みたいな喋り方をするんだね。魔王が支配してる時代に世界を旅するなら、そうなるのかな」
「魔王なら、もう倒されたぞ」
「君は何を言ってるんだ? このまえ、スラール王国が滅ぼされたじゃないか」
「スラール王国?」
「君、世界を旅してたんだろ? カレドニア大陸の隣にあるエドリアル大陸最大の王国じゃないか。魔王と対等に戦かえる国は、スラール王国だけって言われてたんだ。それを知らないなんて」
さすがの好青年も妙なモノを見る目で、俺を見ている。
そして分かってしまった。
ここは異世界なのだ。
しかも、また魔王がいるという。
まぁいいか、この世界の勇者に手を貸して、二匹目の魔王を倒そうじゃないか。
俺は立ち上がって、窓へ向かおうとした。
外の景色を見てみたかったんだ。
元の世界と、召還された世界、そしてこの世界。
景色は同じなのかなって思ったんだ。
そして、俺はソレを見た。
とんでもない美少女がそこにいた。言っちゃ悪いが元の世界や召還された世界でも、こんな美少女は見たことがない。
思わず自分の胸に手をあてる。結構、大きいな。しかも何だか敏感だし・・・。
「なぁ、あの女の子は誰だ?」
「君・・・鏡を見た事がないのかい? あの女の子は君だよ」
なんてこったい・・・異世界へ飛ばされただけじゃなくて、女の子になっちまったとはな。
「こうなったら、この世界の勇者の所へ行かなきゃいけない!」
「なんの為に?」
「お前は良い奴だが、俺が言う事は荒唐無稽すぎて信じられないだろう。でも勇者なら信じてくれる。俺は勇者と共に魔王を倒して元の世界へ戻らなきゃならないんだ」
好青年は何か迷う素振りを見せた。でもそれは一瞬だけだった。
「ボクと一緒に村長の所へ行こう。勇者について色々と知ってるんだ」
「連れてってくれ!俺は必ず勇者の役に立てるんだ」
「凄い自信だね」
なんだかなぁ・・・妹でも相手にするような態度が気に入らないんだよ。
でも仕方ないか、見た目は可愛い女の子だもんな。おまけにバカで無鉄砲な子にも見えてるはずだし。
おっと、そういえば礼も名前も言ってなかったな。