二十九話
王都は広い。誰か知り合いと偶然に出会う程度には狭いんだけど、特定の人物を探し出そうと思うとメチャクチャ広いんだよ。
「もう面倒だから、宿屋に帰ろうか? 私らは出れるんだし」
「お母さん、根気無いなぁ」
「ねぇ、この剣技大会の間だけで構わないから、私達は姉妹って事にしない?」
「え~? なんでまた?」
「だってさ、母娘っていうよりも姉妹って方がウケがいいよ、絶対に!」
「まぁいいけどさ」
よし、美人姉妹で大会優勝を目指すよ!
それにしても、そこかしこでザワザワとうるさいなぁ……
「なんだろうね? そこら中で皆で大騒ぎしちゃってさ」
「おか……姉さん、それ素で言ってるの?」
「なによぉ、呆れたみたいにさぁ」
「お、姉さんがアーサーさんを負かしたのが原因なんだよ。誰が優勝するかで賭け事してるらしいけど鉄板の優勝候補が消えたんだもの。大混乱してるのよ」
「私に賭ければいいのにね」
「どこの誰かも分からない女の子に大金を賭けられますかってのよ」
「女の子? えへへへへ」
「本当は二人の子供持ちの三十路女なのにね~」
んだとぉ?
「あ!? いたたたっ!? ごめんなさい! 許してよ、お姉ちゃん」
「最後の言葉に免じて許してあげるわ」
ハイパーうめぼしを食らって涙目になってるアリスに私は慈悲を与えてやったのよ。
お姉ちゃん。なんて良い響きの言葉だろう。
「母さん! アリス! こんな所にいたの? 探したよ!」
アレスが遠くから走ってくる。シードとニコがいないね。
でも今は、もっと大事な話をアレスにしないとダメなのよ。
「アレス。よく聞いてちょうだい」
「どうしたの、母さん」
「アレス、私の事はお姉ちゃんと呼ぶか、アルマと呼び捨てにしなさい」
「何でまた……」
言いかけたアレスの腕を掴んでアリスが耳打ちをしてる。きっと、ハイパーうめぼしを食いたくなければ母の言うとおりにしとけ、とかアドバイスをしてんだろうけどさ。
「子持ちししゃものクセに生意気な設定だよなぁ」
聞こえたぞ、アレスゥ!!
私の全身から黄金の闘気が噴出した。それを感知したアリスは小さく悲鳴をあげて後ずさる。
「やぁ、ボクの可愛いアルマ。そんなに怒るんじゃないよ。アルマに似合うのは笑顔だけだよ」
おおっ!? アルス!!
「さぁ、こっちへおいで。ほら、アルマ」
「え? う、うん」
私はアルスに腕を掴まれてベンチへ連れていかれる。アルスがベンチに座ったので私は隣へ腰掛けようとしたんだけど、アルスに腰をつかまれた。
「違うよアルマ。座るなら、ここだろ?」
そう言って私を膝の上に座らせる。
「アルマ、大会出場の権利を勝ち取ったんだってね、おめでとう」
そう言うとアルスは私の頬にキスをした。私の全身から力が抜ける。アルスに体を預けて夢心地になってしまう。
「アルス、宿屋へ帰ろうよ。今なら私は三人目の子を産んであげてもいいよ」
「分かったよ。大会が始まるまで離さないから覚悟するんだよ?」
「うん」
アルスがお姫様抱っこしてくれたので、私はアルスの首に手を回して抱きしめる。
「アレス? なに……してるの?」
アルスの動きが、ギシッと止まる。何故か肌は汗ばんでいるようだ。薄目を開けて声の主を見るとシータが立っている。シータは怪訝そうに私達を見ていた。
そこへアリスが走っていき、シータの首に腕を回して引きずっていく。
「アルスゥ、早く宿屋へ行こうよ。私をうんと愛してよぅ」
「あ、あぁ、勿論だよ」
宿屋までお姫様抱っこで移動して、部屋のベッドに横たわる。もう私はアルスの為すがままだ。上着を脱がされ、ズボンを脱がされ、あれ? 下着は脱がさないの?
アルスのたくましい腕を枕にして、その体に身を寄せる。さぁ思う存分、私の体を蹂躙してよ。
アルスは私の背中に手を回して優しくポンポンと叩き始める。
待ってよ、それじゃあ、まるで子供を寝かしつけるみたいじゃないか。
でも、私は逆らえない。闇の中へと意識は落ちていった。




