二十六話
ランスローとガレスとシーザーは、久しぶりに剣技大会に出場するそうで、私達も見物に来いと誘われた。
私はアルコンから出るのは十七年ぶりだよ。王都は商業都市アルコンから、さらに北へ行くとあるそうだ。
「アレス、シード、ニコ、お前らも大会に出てみろよ」
ガレスが爆弾発言をした。
「出れるの?」と私が聞くとニヤリと笑って答えてくれた。
「王国全土から代表が集まる。そいつらに試合を挑んで倒せば出場の権利を奪い取れるってワケだ」
そういうハプニングも剣技大会の楽しみで、多勢の人がいる所でやれば見物人も喜んでくれるそうだ。
私はアリスに一瞥をくれる。
その意味が分からないアリスじゃないので、ニンマリ笑って頷きを返してくる。
ガレスは男三人に声をかけたけど、私達も実力的に劣るわけじゃない。だから密かに私とアリスも出場してやろうと思ってるのだ。
しかし、口に出したのは三人を激励する言葉だけ、サプライズな演出をしてやろうじゃないの。
息子達はガレスと一緒に、カモを探しに行った。比較的に弱いだけなんだから油断すんなよ〜
見えなくなるまで見送った後、アリスと共に強そうな奴を物色する。ほどなくして強そうな奴を見つける事ができた。
「私はあれをやるよ」
「あれは、ちょっと強くない?」
私が指差した騎士は、長身で細身の男で騎士としての型は、ランスローに似てるかもしれない。引出しの多いタイプって感じ。私が指差した事で相手も私に気がついた。
「お嬢さん、私に何か用ですか?」
近くで見ると優しい顔立ちで、優しい声をしている。
「ねえアリス、聞いた? 私の事をお嬢さんって呼んでくれたよ」
「子供っぽいだけよ。それより早く言いなさいよ」
なんだよ、冷たいなぁ。
私は騎士さんに真っ正面から向き合うと、丁重にお願いしてみた。
「騎士様、剣技大会の出場の権利を譲って下さらない?」
本人が答えるより速く、隣にいた騎士が爆笑していた。
「アーサー殿に出場の権利を要求するなど、なんて愉快なジョークなんだ」
「あら、本気なんだけどね」
「去年の優勝者に挑戦、しかも小娘如きが!? 笑わせてくれるものよ」
ここでアリスが切れた。
「そちらのアーサー様が強いのは分かってんのよ。そんな事を一々説明してもらわなくても大丈夫よ。アーサー様の強さを自慢する前に、自分が強くなるように努力しなさいよ。このザコ!」
「女性と思って優しくしてれば生意気な!」
「なによ、アーサー様は優しく声をかけてきたけど、あんたはバカにしただけでしょ!大会にも出れないクセにさ!」
「私も出場者だ!その辺の騎士と一緒にするな!」
アリスは私を見て言った。
「母さん、私はコイツにするわね。アーサー様のキンギョの糞さん。私と勝負しなさい。こんな小娘に負けて権利を渡すのは恥でしょうから、そちらの好意で譲ってもらった事にしてあげるわよ」
「躾けってもんが出来てないな、俺が教訓をくれてやろう!」
周りの見物人が歓声を上げた。
それを聞いて、観客が次々と集まってくる。
あのマーシュと戦うなんて、あの娘は大丈夫なのか?
そんな声が聞こえてきた。
あのキンギョの糞は意外と強いらしい。
観客の一人が開始の掛け声をかける役を引き受けてくれた。
そういう役を引き受けるのも、観客にとっては名誉なんだそうだ。
「始め!!」
マーシュは遠い間合いから、一足で飛び込んでくると上段からの一撃を振り下ろす。
以前、私がガレスと戦った時は、勢い余って地面に刺さった剣を踏んづけて落としたんだけど、マーシュの時はどうなるかな。
アリスは微動だにしない。真っ二つに斬られた、ように見えた。
観客の中には、アリスが死んだと思って悲鳴をあげた者すらいた。
でも、斬られたのは幻影でアリスはマーシュの背後に回っている。
マーシュの膝の裏を蹴ると、マーシュは土下座をするかのように跪く。
その首へアリスは剣をピタリと当てた。
何人かの観客は一斉に叫んだ。
「勝負あり!!!」
他の観客の大歓声が上がる。
アリスは見物人達へ優雅に挨拶をしてみせた。
「皆さん、私は前座にすぎません。次は、こちらの女性がアーサー様と出場の権利をかけて戦うんですよ。きっと名勝負になりますから楽しんで下さいね」
くぉら、アリス!
ハードルを上げんなってばさ。
よし、次は私だな!




