二十四話
アリスは私を姉と呼ぶ事で油断させようとした。私は完全に引っかかったんだけど、何とか勝った。
それを見ていたアレスは、よりによって同じ手を使って勝とうと考えてるらしいけど、何度も同じ手にかかるかっての。
ふふふふ
お姉ちゃんなどと呼んだ瞬間、その頭に教訓を叩き込んであげよう。そしてミゾオチに三段突きって名前のアドバイスを入れてあげる。
地獄の苦しみだけど、シーラが回復してくれるからね。母の与える愛の鞭を受け取りなさい!
アレスは剣を中段に構えている。私はアレスに悟られないように、じわじわと間合いを詰めていく。
あと少し進んだら一撃を叩き込んでやろう、そう思っていた。
その時、アレスは剣を下げた。
絶好のチャンスだったけど、何をする気なのか見たかった。私の好奇心が勝ったのだ。
アレスは無造作に、もう一歩踏み込んでくる。何をする気か知らないけど、もう一歩進んだら撃つ。
しかし、アレスはそれ以上、踏み込んで来ない。私はアレスの顔を見る。アレスは、どこかで見たような懐かしい邪気のない笑顔を浮かべていた。
「アルマ」
「母親を名前で呼ぶんじゃないよ!」
「アルマ、君は相変わらず猛々しいんだね。子供を立派に育ててくれて、ありがとう」
ア、アルス!?
アレスめ、卑怯な真似を!
でもダメだ。目から涙が止まらないんだよ。溢れ出してくるんだ。
「アルスゥ〜、私は頑張ったよ〜、うわあぁ〜ん!」
「あ、かあさ、いや、あのアルマ?」
「私はもう、アルスとは親子ほど年も離れちゃったしさぁ〜、こんなのイヤだよね〜?」
「そ、そんな事ないよ、たぶん父さんが生きてたら、そう言うと思うよ!」
「じゃあ、抱きしめてよぅ!頭を撫でてよぅ!うわぁ〜ん!」
「な、泣かないでよ、母さん。抱きしめぶはぁ!?」
私はアレスの腹にゼロ距離からの一撃を叩き込む。頭が下がった所へ、すかさずアッパーを決める。
アゴが上がって私の正面に来た時、掌底をピタリとアゴに当てた。そして全身の力を動員して、掌底からアゴへと送り込む。
「ぶはぁ!?」
無様にアレスが吹き飛んで転がる。
「あんたね、アルスを装うなら貫きなさい!最初の微笑みは、アルス本人かと思うくらいだったのに。母さんとか言いやがって」
「だって、あんなにマジ泣きするとは思わなかったしさ。誰だって驚くよ」
アリスが転がってるアレスを助け起こして抱きついた。誰を選んでも構わないけど兄弟はやめときな。
「アレス、父さんの真似してよ」
「え〜!?」
「お願いだよ、お兄ちゃん」
「初めましてアリス。ボクはアルス、君の父親だよ。こんなに可愛い娘がいて、とても幸せだよ」
「お父さ〜ん、大好きだよ」
「ボクもアリスが大好きだよ。母さんを大事にしてやってほしいな」
む〜、似てるなぁ。
「アレス、私にもやってよ」
「母さんまで!?」
「いいじゃんか、やれってのよ」
「アルマ、君は黙っていれば絶世の美女なのに惜しいよね」
「本物のアルスだ!」
「え!? 父さんは嫌味っぽい事を言ったりしてたのか!?」
「え!? これ嫌味なの? 普通に褒められてるんだと思ってた」
この日からアレスは、私達から簡易父さんとか、パチモンアルスとか呼ばれるようになった。




