二話
俺は・・・そう俺は、ある日、いきなり異世界へと召還された。
魔王を倒して欲しいと、他力本願な連中に拝み倒されて、それでもイヤだと断ったら元の世界に帰さないと脅迫までされた。
仕方なく引き受けて5年間。
色んな奴らと出会い、そして別れて、時には笑い時には涙して、ようやく・・・ようやく魔王の城に到達することができた。
艱難辛苦を乗り越えて、ようやくだ。
そして魔王が目のまえにいる。俺の仲間が奴の眷属と戦い倒していく。
俺は、俺達は魔王を追い詰めたのだ。
「勇者よ。貴様の存在を知った時に、部下などに任せず自らの手で殺しにいくべきであった」
「泣き言か? 最後まで聞いてやるから早く言え。無いなら殺すけどいいか?」
「私の全魔力を使って貴様の存在を、この世界から消し飛ばしてくれるわ!!」
「ふざけんな! 悪あがきしてねぇで、とっとと死にやがれ!このクソッタレが!!」
試練の迷宮の奥深くに隠されていた、闇を切り裂く破邪の剣が魔王の鋼よりも硬い体を、紙のように容易く斬り裂いた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
魔王は断末魔の声を響かせて消滅した。世界の重苦しい雰囲気が晴れたような気がする。
これで、やっと元の世界へ帰れる。
可愛い恋人も出来たから、この世界へ残るって選択肢もあるんだが・・・
まぁ、それは後で考えよう。
「リュージ!お前、なんとも無いのか?」
魔王を倒した事で眷属も消えたのか、それとも倒してきたのか、仲間の戦士が心配して俺の所へ来た。
「何の話だ?」
「俺が応援に駆けつける途中で、お前と魔王が一騎打ちをしていた。お前が魔王を斬るのと同時に魔王の魔法らしき光が、リュージに命中してたんだ。体は何とも無いのか?」
「大丈夫だ。痛みも感じないし、お前に言われるまで魔法が命中してたなんて、気がつかなかったよ」
「そうか・・・それならいいんだが・・・」
魔王の城に突入した仲間達が、続々と駆けつけてくる。
まぁあれだな、どれだけ大勢で敵の本拠地に突入しても、やってくるのは敵のボスを倒した後ってのは、お約束だよな。
もし俺がこの世界へ留まるなら、この魔王の城を勇者の居城にしてもいいな。
世界を旅するうちに、仲良くなった女の子達を呼び集めてハーレムでも作ろうか。
「リュージ、なんか悪人の顔をしてるよ?」
「失礼な。この魔王の城を俺の家にしようかと思ってただけだ」
旅の仲間の魔法使いにして恋人であり、王国の第三王女のメイリンが話しかけてくる。
もちろんハーレムを作ろうか、なんて考えてた事は言わない。
後が恐いからな。
「ねぇリュージ。元の世界には帰らないよね?」
「あぁ、どうしようか迷ってる部分もあるけど、メイリンがいるからな」
「じゃあ、その体から出てる光は何なの?」
またしても言われるまで気がつかなかった。これが何を意味するのか俺にも分からない。
「リュージ!お前、それさっきの魔王の魔法なんじゃないか?」
「まさか!? あれは不発だったんだぞ」
そういえば魔王は、何て言ったんだったか・・・俺の存在を世界から消し飛ばすって言ったんだ。
俺は殺すって意味だと受け取ったんだが、もしかして違うのか。
「リュージ!? リュージってば!! あ、あなた、体が消えかけてるわよ!?」
俺は自分の手を目の前にかざしてみる。うっすらと消えている。
そうか、文字通りの意味だったのか!
俺をこの世界から消す、異世界か異次元か知らないが、この世界から飛ばすって意味だったのか。
足元が崩れ落ちるような感覚に襲われる。建物が崩れてるんじゃない。空間が歪んで、その中へ俺だけが落ちてるんだ。
遠くからメイリンの声が聞こえる。仲間達の声も・・・。
俺はもう、二度とあの世界へ戻れない。何故だか、そんな気がした。