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十六話

 ウチのチビ達は5歳になった。最近、気になる事があるんだ。

 アルスは勇者の証がって言ってた。それは何だろう?

 あの頃の私は、体は女になっちゃうし、結構自分の事でいっぱいだった。

 だから勇者の証と言われても、多分痣みたいなもんが体に浮き出るんだろう、くらいにしか考えなかったのだ。

 勇者の証は生まれた時からあるのだろうか?

 それとも、自分が魔王を倒して世界を救うのだと自覚した時に、初めてそれは現れるのだろうか?

 私が最初に召還された世界、そこはその世界の人間が勇者と認定すれば勇者だった。

 出来る限りのバックアップを受けて戦う事ができた。

 この世界は勇者は神が選ぶ。

 選ばれた者には勇者の証が現れる。

 私には、そんな痣は無かった。

 私はこの世界にとっては異物でしかなく、良く言っても客でしかない。

 勇者の村が滅ぼされた時、私はアルスの子を宿す決意をした。

 勇者に選ばれなかった私が、この世界にしてやれる事は勇者の血脈を残す事だけだ。

 妊娠した時、生んだ時、まだ先だって思っていたんだけど、もう5歳だし、そろそろ証ってのが現れても良いんじゃないのかな?

 まだ早いかな?

 子育てとかで、シーナに相談すると必ず笑われたんだよね。

 近所の子育てのプロとしか思えないお母ちゃん連中とか。

 歩くのが他の子より多少遅れたって大したことないよ!

 なんて言われてさ。

 勇者の血筋は絶対に秘密だ。だから、こればかりは他人に相談できないんだけどね。

 もしかして子育ての時のように、笑われるような心配してるかな?

 こんな時だよ、アルスが生きてたら、とか思うのは。

 まぁ、いっかぁ!

 私はもう覚悟を決めたよ。

 最悪、孫の代に勇者が現れるかもって。

 元の肉体、男性としての私が魔王を倒したのは20代半ばだった。

 この世界に飛ばされて、この女性の体になった時、初めて鏡を見た時の自分自身を見た年齢の印象は15~16歳だった。

 それが正しいなら、15歳だとしてその1年半後にアルスに種付けされて16歳半、1年後に出産して17歳半、子供が5歳だから今は22歳ってところかな。

 15年後に子供が生まれたとして、37歳で孫が5歳になったら証が出るとなったら、42歳か。

 でも待つんだ、私!

 孫で勇者の証が出なかったら?

 その15年後で57歳の時に孫が曾孫を作る、そして曾孫が5歳の時に勇者の証が現れたら、その時の私は62歳。

 うん、まだ現役で魔族共と戦えるぞ!

 その時までには、勇者が現れて欲しい。

 それ以降は、さすがに厳しいと思うんだ。

 15年後で77歳、その5年後に証が玄孫に現れたら82歳。

 無理だ。

 絶対に無理。

 5歳の玄孫が魔王と戦うには最低でも10年は修行が必要だ。

 そうなったら私は92歳。

 でも、そうなっても勇者が現れなかったら?

 そしたら子供と孫と曾孫と玄孫に囲まれて大往生する時に言うんだ。


 「私のォ、屍を~、越えてゆけぇ!!」


 なんてね。

 

 「ねぇ、お母さん。お母さんってば!」

 「アレス。道場じゃ、お母さんって呼ぶんじゃないっ!先生って呼びな!物事のケジメってなぁ大事なんだよ!」

 「分かってるよ、おか、先生。でもね、道場の先輩達がね。心配してるんだよ」

 「心配?なんの?」

 

 そこへアリスも会話に加わってきた。

 

 「あのね、お母さんってば、さっきからニタニタ笑ったり、そうかと思えば、この世の終わりみたいにガッカリしたりしてたのよ」

 「そうなんだよ。それで、先輩達から弟子としてではなく、我が子の立場で何かあったのか聞いて来いって言われたんだよ。ボクは愉快だから、放っておけばいいと思いますって先輩に言ったんだけどね」


 アリスよ、私はニタニタと表現されるような笑みを浮かべてたのかい?

 お母さん、大反省だよ。

 アレス、その「ボクは愉快だから」って言い草。

 アンタの父さんに、そっくりだよ。

 さて、皆を恐がらせたのか心配させたのか微妙だけど、先生の威厳を取り戻さねば!


 「じゃあ、今日は当てたら確実にぶっ殺しちゃう技を教えるよ!必ず敵を殺すから必殺技って言うんだからね。マンガみたいに何発当てても死なない偽物の必殺技とは、全然違うんだからね~」

 「おか、じゃなくて先生!」

 「何ですか?アレス君」

 「そんな物騒な技よりも、基本の大事な技を教えて下さい」


 私の子のクセに正論を吐きやがる。

 誰に似たんだよ。

 仕方ない。

 基本技を教えるか。

 

 

 

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