百三十二話
戦後処理は他の連中がやってくれるそうだ。あたしらは、城内を探索してる。掃討戦は終わったみたいで、城内は静かなもんよ。
「恥ずかしい・・・恥ずかしい・・・」
アレスはまだブツブツ言ってる。こういうところがアルスより劣るのよね。
「今となっては、どうでもいいけどよ。アルスも双子も、何故勇者として覚醒しなかったんだろうな?」
ホントにどうでもいいな。アレスがこんなんだから、雰囲気を変えたくて話題を提供したんだろうけどね。
「子育ての合間に考えたのは年齢説ね」
勇者の資質が覚醒するのは、13〜15歳まで、とかね。私が出会った頃のアルスは18歳くらい。覚醒するには年齢が高すぎたのよ。
「それだと俺とアリスの説明が出来ないよ?」
立ち直ったのか、アレスが意見を言った。うん、アレスの意見はもっともだね。だから、あたしの仮説は間違いだと思ったわけよ。
「間違いと切るには早くねーか? こいつらに勇者の資質が無かったと考えれば、姉貴の説はまだ生きているぜ」
あ、子供達がショックを受けてる。
「その可能性も無きにしも非ず、だけどね。あたしは母親として子供達の資質を信じてるんだよ。変なことを言うなよ、ばか」
「悪かったよ」
それにしても、城内を探検してんのに宝物庫の一つもないのか。まぁいいけどさ。
「先生、絵画がたくさんある部屋を見つけましたよ〜」
シーラに誘われて部屋に入ると、人物画が一面に並んでいる。たぶん歴代の魔王や、その候補だろうか。色々な種族が描かれてるので、世襲ではなく実力主義なんだろう。
「これ見て!!」
アリスが叫ぶので見にいった。あんだけ大きな声を出すんだから、きっと面白いに違いないよね。
「どぉれぇ、見せてみい」
アリスが指差す方向に、あたしに瓜二つの人物画があった。
「こりゃあ、あたしによく似てるわ」
「これ、お母さんよ。絶対間違いないわ!」
「あんたね、そんなにあたしを魔王にしたいわけ?」
「そうじゃないけど、でもこれ! お母さんの髪の毛って、どんなに梳いても撫でつけても、ここだけ頑固に跳ねるのよ!」
アリスは絵と私を交互に見て同じだと言う。こんなの偶然の一致じゃん。
「そう言われると、これも同じだ!」
今度はお前か、アレス。
「この絵の母さんは微笑んでるけど、実は内心でイライラしてる。ほら片方の眉が、クイッと上がってるだろ!?」
「ホントだ。お母さんのクセ、そのまんま」
え、あたしって、そんなクセあるの?
「そうか、それでか。なんか見えてきた気がするぞ」
アリマが一人納得したように頷いた。
それからはアリマが話を進めたのよ。
まず最初の世界から別の世界へ勇者として召喚されたこと。無事に魔王を倒したけど呪いをかけられて、この世界に飛ばされたこと。
気がついた時には、あたしの姿だったこと。いつの間にか、あたしの意識が前面に出てアリマの意識は後ろから見てるような状態だったこと。
「私、先生とアリマさんの姿が重なってみえたのを覚えてます」
シーラが補足してくれる。この子ったら、その時からアリマに惚れてたんだっけ。
「先生、そんなこと言われたら恥ずかしいですよぅ」
ああ、シーラごめんね。
「俺は疑問に思ってた。何故、女になったのか。アルマは後継者争いか何かが原因で亜空間に封印されたんじゃないか? それでこの世界に飛ばされた俺と激突融合したのではないか?」
あたしも疑問に思ってたことだし、真剣に考え始める。
「アルマが亜空間にある時の生死は分からない。仮死状態だったのかもしれない。心も融合したことで、アルマの心も活性化した。ただし、俺に強い影響を受ける形でだが。やがて水と油のように分離していき、俺は追い出されて実体化した」
そうだとしても、あたしの意識はアリマなんだよね。あたしは女の肉体に入り込んだアリマの心が分裂したんだと思ってた。
女性の肉体に合うように最適化されたアリマの心の一部なんだって。そして男性部分が肉体と共に弾き出された。
う〜ん、どっちなんだろうね。
「もう、どっちでも良いんじゃない? どちらでも母さんは、俺の大事な母さんなんだしさ」
「アレス、今度は母さんじゃなくてアルマで言ってみて!!」
「ヤダよ!」
がぁ〜ん!! ショックだわ!! 息子が第二次反抗期になった!!
「なってねーし!!つーか、言ったら親父ラブが再発して壊れるだろ!!」
「お母さんがお母さんである限り、心の問題はどうでもいいのよ。それより重要な事があるじゃない」
なにそれ?
「わかんないの? 勇者の血に魔王の血が混ざっちゃったんだけど、どうすんの」
全員の血の気が、ざぁ〜っと引きましたマル
「あ、あはははは! 勇者不在でも何とかなるわよ!! 魔族を束ねて、魔王の入る余地のない社会体制を作るわよ!!」




