百三十一話
アリマが支援を受けてから、即座に斬りかかる。女の私では非力な分、アルスに力負けしてたけど、男のアリマなら関係ない。
「いや、驚いたな。アルマとクセが一緒だね。同じ流派だったのかい?」
「同じ流派でも、男女じゃ変わるだろうが!!」
剣速とパワーがアルマの130%増とか計算したんだろうか? アルスがアリマの攻撃に順応できている。
このままだとマズイ。あたしもアルスの偽物に斬りかかった。あたしと目を合わせたアリマは頷いた。私達は性別は違うけど同一人物。互いの考えは分かる。アリマはが剛の剣なら、あたしは柔の剣。アリマが力なら、あたしは速さ。アリマが一撃を重視するなら、あたしは手数を重視。アリマが上半身を攻撃するなら、あたしは下半身を攻撃するのだ。
アルスの偽物は攻撃を捌ききれず、腕を、足を、体を、そして顔も斬り刻まれていく。でも血液は出てない。斬られた箇所から、異形の肉体が形成されていく。
もはやそれはアルスの皮を被った化け物でしかない。見ている者達は全員が理解してるのに、化け物だけが分かってない。
「姉貴よ、もう下がった方がいい」
「なんでよ?」
「同じアルスの顔なのに、奴の笑顔の何と醜悪なことか。品性が違うと、笑顔一つ見ても全然違うんだな。姉貴の中に残るアルスの思い出が汚れる」
こいつ、いい奴だなぁ。あたしとは思えないよ。
「大丈夫だよ。あたしには二人の子がいるからね。二人の中にアルスはいるよ。いつも、いつでも会ってるよ」
「そうか。なら、さっさと始末しちまうか」
あたし達は更に激しく攻撃を加え始める。しかし化け物も、アルスの フリをして騙すのは無理と悟ったらしい。怪物としての全力を発揮し始めた。
一撃をもらって子供達の前まで吹き飛ばされる。すぐに飛び起きて化け物に攻撃しようと身構える。
「お母さん」
「なによ? 母さん忙しいんだけど」
「私達を見てお父さんを感じてたの?」
「まぁね。あんたも一緒にアレスをパチモンアルスとしていじったじゃん」
「そうだけど、アレスは男だもの。私を見てもお父さんを感じる?」
よくぞ聞いてくれたわ!!
アレスは出会った頃のアルスなのよね。でもアリスは、その前のアルスなのよ! そう男ではなく男の子だった頃のアルス。ヒヨコのアルス。超可愛いんだよね、全身にキスしたいような、舐め回したいような、そんなかんじ!!
熱く語り終えて周りを見ると、室内が静寂に包まれている。おかしいな? 化け物とアリマが激闘を繰り広げてるはずなのに。
あいつら、戦闘を中止して呆れたように、こっちを見てる。変なとこで共感してんじゃねーよ。
「うえぇえぇッ!? 私見て、舐め回したいとか考えてたの!」
「あんたじゃないわよ。男の子版アルスを、よ!」
あたし、そんな変かな?
「言っておくけど、肉親を失った寂しさは、人それぞれの方法で埋めてるのよ?」
例えばアレスは。そう言いかけたら、「え!俺!?」とハトが豆鉄砲食らったような表情で、アレスが叫ぶ。
やめてよね。アルスによく似た顔で、間抜けな表情するのはさ。
「アレスはね、夜中に鏡を見て一人芝居してるのよ。アレス、よくやったな。父さん感心したよ。とか言ってんのよ」
「うわぁぁぁ!! 母さん見てたのか!?」
「うん見てた。あたしも感心したわよ。やるなアレス。さすが我が息子。アリスが鏡を見てやるなら、時間移動して幼いアルスに会ったって設定よね」
アリスお姉ちゃん、すごーい。とか言われるワケよ。たまんないなぁ!!
「ち、チクショウ!! 恥ずかしくて体が燃えそうに熱い!みんな父さんに化けたお前のせいだッ!! 小さな肉片に至るまで、全部消滅させてやるぞ!!」
「戦いは我の望むところよ!! だが貴様のそれは、ただの八つ当たりだ」
うん、そこはあたしも不本意だけど、化け物に完全同意かな。アレスを追って、あたしも戦いに参加する。アリマも同じタイミングで斬りかかる。
「小さな頃のお父さんかぁ。ちょっとやってみたいかも。萌えちゃいそう。となれば、あんなの早く始末しなきゃね」
これで四対一、もはや勝負は決したね。化け物が卑怯だとか喚いてるけど、お前が言うな。勇者の村を襲った時は、もっと酷かったろーが。
やがて化け物は動かなくなり消滅した。なんだろうねぇ、ラスボス倒したのになぁ。
「なぁんか、締まらないんだよね」
「お前がアルスの話をしたからだ」
アリマに突っ込まれた。あたしのせいかよ。
「虚しい・・・勝利だった・・・」
勝手に虚しくなってんじゃないわよ。アレスの後頭部に気合いを入れてやる。
「いてッ!」
「やるこたぁ、たくさんあるんだよ! シャキッとしな!!」
そうなんだよね。戦後処理、やることは多いのだ。