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百二十九話

 「アルス、今まで、どこで何をしてたの? 私は死んだとばかり思っていたのに」


 私が聞くと、アルスは肩をすくめて答えたのよ。


 「あの村で死ぬつもりだったんだけどね。村の仲間達がボクだけでも逃げろって言うんだよ。わりと背恰好の似ている者が身代わりになった。ボクは仲間の死体の下に隠れたんだ」

 「だったら、私と一緒に行けば良かったのに」

 「ボクの子を身篭った人と一緒に行けば、見つかった時に諸共に殺されるじゃないか」


 確かにそうかもしんない。でもシングルマザーって生きていくのは厳しいんだぞ。

 子育てなんか、シーナがいなかったらどうなっていたことか。

 

 「カレドニアからエドリアル大陸に行くとき君の様子も見たんだよ。元気そうで安心したっけ」

 「あぁ!? 私に一目会おうとは思わなかったわけ!?」

 「いや、だって、会えば生きてるってばれちゃうじゃないか」

 「あの時点では魔族なんか、私の存在すら知らなかったわよ! それに私がウェイトレスをしてるの見てんだったら、お金の一つも送りなさいよ!!」

 「そんなことしたら、ボクの事がばれるよ」

 「ばれないわよ。私の美貌をなめんじゃないわよ。あのとき、酒場には私のファンが大勢いたし、カエル顔の商人に愛人にされそうにもなったし、もしお金を送ってきても、私は親切な足長おじさんだとしか思わなかったわよ、たぶん!」

 「え~っと、そこまで怒らなくても良いんじゃないの? それにお金のことばかり、ちょっとがめつくないかい?」

 「甘い!! 甘すぎる!! 私がね、勇者の村を出てきて一番後悔したのは、あの村の廃墟からお金を掘り出さなかったことよ!」

 「アルマ、それって火事場泥棒じゃないか? そんな泥棒みたいな真似をしなかったこと後悔してるのかい?」

 「当たり前よ! 人間ってのは崇高な目的を持とうが、目先の生活が大事なのよ! だって生きていかなきゃいけないんだもん! 子供を産んだ後だって仕事できないけど、食べなきゃダメだし、そしたらお金はどんだけあっても困らないのよ。 死人に金銭は必要ないけど、生きてる者には必要なのよ。それほど私が苦労してるのを見ていながら知らん顔たぁ! いい度胸じゃないか!」

 「悪かった、悪かったよ」


 アルスは私がギャンギャン怒鳴ってることに辟易としてるみたいで、何とか私を宥めようとしている。そしてお世辞のつもりなのか、妙な事を言い出した。


 「ボクもアルマには会いたかったんだよ。でも会わなかった。何故だか分かるかい? 会えば君を抱きしめたくなるからだよ。君の身体の温もりを知ってしまった後では、抑制がきかなくなるじゃないか。魔王を倒す事など忘れて、ずっと君と愛し合いたい、とね」


 父親がいきなり生々しい事を言うもんだから、アリスは真っ赤な顔をしている。


 でもね、アリス。

 今の一言で分かったよ。

 こいつはアルスじゃない。他の何かなんだってね。


 私が口を開く前に、アリマが唸り声のような声を出す。そしてアルス、のような者に向って怒鳴った。


 「お前はアルスじゃないだろ!? お前は誰なんだ!!」

 「そういう君こそ誰なんだい? 初めて会ったと思うんだけどね」


 アルスも不快そうに返事をした。


 アリマは子供達をチラッと見た後、私を見つめる。子供がいるけど言ってもいいか? そう目で聞いている。いや、聞いているというより、「言うぞ? 言ってもいいよな? もう我慢できねぇ!」そう言ってるんだよね。仕方が無い。私は頷いた。








 

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