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百二十八話

 「アルス!?」

 

 私とアリマが同時に叫んだ。そう、魔王の玉座にいたのは、あのアルスだった。私を抱いたあと、外で戦う勇者の末裔達の所へ去っていった。


 魔王の大軍を相手に、必ず死ぬと分かっていたはずなのに、気負うこともなく自然体で、私に生涯忘れることは無い笑顔を見せて背を向けたんだ。


 子供達を育てながら、時々だけどね、思い出してたのよ。私に背を向けたアルスは、どんな表情をしていたのだろうか、と。

 いつだって、どんな時だって穏やかな顔をしてたから、あの最後の戦いの時でさえ、厳しい表情をしてると想像できなかったんだ。


 「母さん、あれが父さんなの? 本物なの?」


 アリスが聞いてくる。

 本物なのってね。

 そう、それなんだよ。私はアルスの首が無い遺体を見たんだ。全身傷だらけで、鎧もグシャグシャになって、離れた場所に落ちてた。

 今にして思えばだけどね。あの遺体をアルスと断定したのは、私があげた腕輪を遺体が装着してたからなんだよ。


 もしかしたら生きていたんだろうか。

 人は自分の信じたいものを信じる。

 他人事ならば私は笑って偽物と断じるかもしれないけれど、生きてたっていう、わずかな可能性に、私はすがりつきたいんだ。


 「あの状況で生きてるはずがない。あれは偽物に違いない。騙されるなよ、姉貴!!」


 アリマと私は同一人物だけど性別が違う。その分、冷静に観れるのかもしんないね。私がフラフラとアルスに向かって歩き出すのを、肩を掴んで止めようしてる。


 「アルマ、久しぶりだね」


 アルスの声が私の耳に届いた。

 懐かしい声だった。

 でも、ちょっと違和感。

 息子のアレスは、アルスに良く似ているのよ。親子だから当然なんだけどね。アルスを偲ぶ時、私はアレスと話をした。ふとした仕草、話し声、話し方、その全てが父のアルスに似ているんだ。アレスを通してアルスを見ていたと言っていい。でも、二人は似ている別人だから微妙に違う。でも、ずーっとアレスを見ていたから、そっちがアルスの仕草や話し方だと、いつのまにか刷り込まれてたんだね。

 私がアルスに感じた一瞬の違和感は、多分それなんだろうと思う。


 「そっちの二人は、ボク達の子供かな?」

 「そうだよ、アルス」

 「名前を教えてもらえるかな?」


 アレスとアリスは私の隣に並ぶと、それぞれ名乗ったのよ。


 「アレスとアリスか。ボクの名前からつけたのかな。でも、安直なネーミングだね」


 微笑ながら毒を吐く。そうだった。コイツは虫も殺さぬ顔でキツイことを言うんだった。


 「大きくなって父親に抱きしめられるのなんて、イヤかもしれないけど……ボクは子供達を抱きしめた事がないんだ。一回だけでも我慢してくれると嬉しいな」


 アリスはフラフラとアルスの元へ行きそうになるけど、アレスが手首を掴んで引き止める。そして私の顔を見ている。父の元へ行ってもいいのか? あれは本当に父なのかと目で私に訴えている。アレスに手首を掴まれたアリスも我に返った表情で私を見ている。

 そうだよね。私はアルスの胸に何も考えずに飛び込みたいけど、本物なのか見極めなくちゃね。でも、どう見ても本物にしか見えないんだよね。

 どうやって偽者と見破るか、あるいは本物と見極めるか。私とアリマとアルスの三人しか知らない事を聞き出すしかないよね。

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