百二十五話
何回目の砲撃を行ったのか。途中で数えるのも止めたんだけど、砲術士達は、的確に砲弾を叩き込んでいて、とても良い仕事をしてくれてる。
「敵の地上構造物は、ほぼ破壊できました」
そんな報告が入ったので砲撃を中止して、次の作戦を実行する事にしたんだけどね。絶え間なく砲撃していた事で、いつの間にか砲撃音に慣れてたみたい。
ここは戦場だと言うのに、やけに静かに感じるんだよね。怒号や悲鳴も聞こえてこないんだよ。
瓦礫の向こうに敵の兵士が見えるけど、そいつも戸惑うように周囲を、そして、こちらの方を見てる。
これだけ破壊して大砲の恐ろしさを見せつけたんだから、逃げれば良いのにさぁ。ボケーっと、こっちを見てんじゃないよ、まったく。
「アルマ先生!このあとは!?もう突撃してもいいか!?」
ニコが赤い布を見た牛みたいに興奮して、私に早く攻撃させろと、せっついてきた。女の子にセクハラする時以外で、こんなに興奮してるのは初めて見たかもしんない。これはレアな体験だね。
「今俺の悪口を考えてたろ?」
「か、考えてないよ?」
「先生は顔に出るから分かるんだよ」
ニコの奴、相変わらず変なとこで鋭いなぁ。何て言おうか考えてたら救い主が現れたんだよ。
「母さん!次の指示を!」
「あ、あぁ、ごめんね。ニコ、どうでもいい話は、あとにするよ」
「ちッ!誤魔化しやがるつもりだな?」
執念深いなぁ、もう。
「わかったわよぅ。じゃあとことんまで話そうか。あんたは突撃の指揮を取れないから、誰かルージュを呼んできな!」
「なにッ!?突撃すんのか!?それなら話はあとだぜ!!突撃の指揮は俺がやるんだ!!」
ニコの奴、散々私に絡んできたくせに、それを忘れたかのように指示を出せとうるさい。
「ニコは敵の城へ突入しなさい。徹底的に破壊したはずだけど、瓦礫から敵が襲ってくるかもしれないから、油断すんじゃないよ」
「了解だぜ、先生」
「獣人族はニコの後続よ。あんたらの同胞がいたら保護しなさい」
「了解しました」
「大砲は、まだ撃てるかしら?」
「まだやれます。残弾も十分にあります」
「次は城を撃ちなさい。目標は窓や狭間よ。城は巨大な岩盤を加工してるから、大砲も効果がないかもしれないけどね。でも、窓や狭間は弱いはずだから」
「お言葉ですが、ここからでは命中させるのは不可能かと思います」
「いいのよ。目的は窓や狭間から、ニコの部隊に攻撃をさせない為なんだからね。言わば牽制なのよ。近くに命中しただけでも敵は驚くわよ。だから気楽に練習だと思って狙い撃ちなさい!」
「了解しました!」
練習のつもりで、と言ったのが効いたみたいで、各砲門は十分に狙いを定めているみたい。おかげで、ドドドドッて聞こえてた砲撃音が、ドン、ドン、ドーンと間隔が開くようになった。
ニコも突撃したがってた割には、丁寧に慎重に制圧してるみたい。城門から城を目指して着実に進んでいるわね。
そして奥へ城へと近寄る度に、獣人族が負傷者を抱えて戻ってきたんだよ。その殆どが魔王に味方した獣人族だったね。抱えてきた者は身内や友達なんだろうね。もう大丈夫だ。とか、戦争は終わりだ。とか声をかけてる。
そうだね。
見たこともない未知の兵器、大砲を前にしても逃げずに頑張ったんだ。魔王に義理は果たしたよ。あんた達の戦争は終わりだね。
生き残って良かったね。
お疲れ様。




