百二十四話
城壁を粉々に砕いた後は、城壁から城までの建造物を徹底的に破壊する為の砲撃を開始するのだ。どうせ篭城戦に備えて矢とか食料とか、城壁に登ろうとする我が軍の兵士に向けて落とす岩だの何だのと、色々と貯めこんでるに違いないよ。それを粉々にしてやるんだ。
私はそういう意図を説明して、砲撃の照準をあわせるように命じて静かに待った。
「アルマ様、準備完了です」
撃てと命令するため腕を振り上げると、そこへシーラが待ったをかけたのよ。
「先生! 今、城のほうで魔法防壁を展開したようです」
「ん~……それってさぁ、大砲みたいな物理攻撃を防御できるの?」
「わかりません。これほどまでの破壊力のある攻撃は、今まで魔法しかありませんでした。だからあの魔法も大規模攻撃魔法を防御するためのもの、だと思うんですけど……」
シーラも自信が無いのか、最後は声が小さくなっていく。
これは、どういう意味だろう?
この攻撃を新しい魔法だと思っていて、それで魔法防壁を展開したのか。それとも物理攻撃に対抗して、それに応じた防御魔法を即座に編み出したのか。
「魔法防壁が二重三重に展開されていきます」
姉のシーラと共に城を見ていたシータの報告を聞いて私は指示をだした。
「魔法防壁は気にせず、当初の指示の通りに敵の城へ砲撃を行うよ!」
「ちょっと待って下さい。敵の魔法防壁は良いのですか?」
シーラが問いかけてきたので、私は逆に問いかけたのよ。
「魔法防壁は敵の攻撃を防いだら消えてしまうの?」
「いえ、一定の時間は展開し続けるはずです。私が知ってる魔法と同じなら、ですけど」
「なのに、敵は何重にも展開してるよね。向こうも防御できるか分からないのよ。展開してみて防げたら儲けもの、くらいの感覚なんじゃないかな?」
「なるほど……」
シーラと話したことで魔法防壁についても、整理ができたように思ったのよ。これで安心して攻撃できるってもんだわ。全砲門が私の号令を待って待機していたので、私は砲術士を見渡した。目が合った者達は私に頷きを返してきたの。「いつでも良い。早く撃たせてくれ」そういう意思を感じとれたわね。
私は大きく深呼吸すると号令を発したのよ。
「全砲門! 照準はいいわね!? 撃て!!」
10門の大砲が一斉に火を吹いた。ドドドドッと、大砲を発射する轟音が轟きわたる。近くにいた者達は耳を押さえながらしゃがみこんで耐えている。攻撃する側で、この有様なのだから敵からすると、本当に恐怖の音だろうね。そういえば異世界に渡る前、花火大会の音が嫌いだっていうお年寄りがいたのよ。
花火なんて綺麗だし、大空に咲く花火の美しさは誰でも、特に女性は好きなものだろうって思ってただけに、嫌いだって言ったお年寄りの事を妙だなって思ってたんだ。男性だけじゃなくて女性でも嫌いって人がいて、一度何故嫌いなのかって聞いた事があるのよね。
そしたら戦争の時の空襲で焼夷弾の音が、そっくりだったんだって。どれくらい似ていたのか私には分からなかったけども、トラウマって、こういうのを言うのかなって思ったっけ。
たぶん、この大砲を経験した近くに砲撃を受けた敵兵達も、夜中に飛び起きるくらいの恐怖を心に刻むんだろうなぁ。でも、それも生き残ってたらの話だけどね。
そんな考え事をしてる間にも二回目の一斉射撃が行われて、二発目の砲弾が撃ち込まれていた。そして大量の土砂と建造物の破片と、運の悪い敵兵が吹き飛ばされていた。




