十二話
カエル夫人から、2〜3年は遊んで暮らせるお金をもらったんだけどね。
こういうのは、たくさんあるように見えても、使うとすぐに消えてしまうんだ。
まだまだ頑張って働くよ。
そんなこんなで、村を出て来て一ヶ月以上が過ぎたんだけど、最近調子が悪い。
なんかもー、すんごい眠い。
しかも風邪でも引いたのか、身体が熱っぽい。
おまけに胸が張って仕方がない。乳首も敏感になって触ると痛いくらい。
夜は寝苦しいし、どうなってんのよ。
何より困ってるのは臭いなんだよ。
今までは気にならなかったけど、最近は違う。
酒場のタバコと酒の臭いが、たまらなく嫌なんだ。こんな状態じゃ働けないよ。
職場の同僚に愚痴ったら
「アルマ、もしかして妊娠してんじゃないの?」
と言われた。
そうなのか、これが妊娠なのか。
こんなに鬱陶しい症状が出るとは知らなかった。
つわりだけかと思ってた。
だけど、やったね、アルス!
お前の子供ができたよ。
勇者の血筋は生き残るんだ。
じゃあ無理しないで、赤ちゃんを産むまで仕事を休もうかな。
いや、もう少しだけ働きたい。
そんな時、あのカエル富豪が来襲してきたんだ。
「先日は済まなかったね。ワシも反省して、今は仕事に集中しとるよ」
あ〜、美人の奥さんが愛人を整理するって言ってたよな。
「聞いたが妊娠で難儀しとるそうじゃないか。ワシの屋敷で出産すれば良い。産むまで全てワシが面倒を見ようじゃないか」
「それは奥様も同意なさってるのですか?」
「えっ!?・・・も、勿論だとも!」
この狼狽ぶり。奥様に内緒で来たな?
危ないな。
カエルめ、妊娠した人妻を手篭めにしようと狙う変質的な願望か、それとも出産直後の弱った所を狙う気か?
ちなみに人妻ってのは私だぞ。
黙って考える私を見て脈ありと思ったのか、カエルが一生懸命に口説いてくる。
くぉら!
私の両手を握るんじゃない!
距離をつめてくるなってば!
カエルの体臭はタバコに酒と、今の私が一番嫌いな臭いを発散してる。オマケに太ってるからか汗臭い。そしてそれを誤魔化す為に香水だと思うけど、バシャバシャと体に吹き付けてやがる。
汗臭い臭いと、強烈な香水の香りが私に襲いかかる。加えてタバコと酒の臭いも、私の胃袋を締め上げた。
私は目が回ってカエルに抱きついてしまった。カエルが私を逃がすまいと、強い力で抱き返してきた。
もう・・・ダメ・・・
「おうええええええっ!!」
ごめん、吐いちゃった。
カエルの服がゲロまみれ。
これ、つわりかな?
このシーンがアニメだったなら、光の粒子が口からこぼれ落ちるんだろうね。
カエルが逃げ帰って頭痛がするほどの悪臭は消えた。
あ〜、スッキリした。
多少、床を汚したの掃除しなきゃ。吐瀉物はカエルの服についたので、床はほとんど綺麗!
ありがとうカエル!
私は心の底から感謝するよ。できれば、もう来ないで欲しいけどね。