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百十六話

 トシュウさんが来たのは数日後だったんだけどね。正直な話、呼ばなきゃ良かったかな~って思ったよ。だってさぁ、おどおどしてる土佐犬の顔を連想して欲しいな。情けないでしょ? 先日のコボルト族の子も相当に怯えていたけどさ。そこで分かっているべきだったよ。



 「私も出席しなければダメかね?」

 「そりゃあ参加して欲しいわよ。魔王を倒して平和な世界を築くのに、人間だけではなく他の種族も交えた多種族国家を作るのよ? その最初の参加種族がコボルトなんだしさ」

 「そうか、仕方が無い。覚悟を決めるとしよう」

 「トシュウさんさぁ、怯えすぎでしょ」

 「魔王に次ぐ支配者なんだぞ。我らコボルトは強大な力を持つ竜族に頭を下げて生きてきたのだ」



 そう言って頭を抱えてるトシュウさんには、最初に感じた威厳はカケラもなかったね。まぁ苦手意識ってのは、簡単に排除できないと思うけどさ。

 トシュウさんが来るまでに、ランスローやガレスの部隊が到着して、いつでも攻撃できる準備は整えてあったのは、竜族にも相当なプレッシャーを与えていたみたい。交渉の使者を送ったら、あっさりと承諾したものね。こっちも恐いけど、意外とあっちも恐いと思ってるのかも? それならお互い様だよね。


 交渉の為に集落に入ってみたんだけどね。竜族は支配階層の部族のわりに質素な生活してるみたい。家なんか石造りで私達人類と、ほとんど同じだね。だけど、その中には王都で倒したトカゲ野郎が大勢潜んでいるんだと思って、それなりに心の準備をしていたんだけどさ。実際に見た連中の姿は私達に近いんで拍子抜けしたよ。

 肌は灰色でワニのような太いシッポがあるんだけど、それが遠くから見た竜族の特徴かな。

 近くで見てみると、前腕の辺りにウロコがあって、それ以外はわりときめ細かくて滑らかそうな肌をしてたよ。それで目がね、爬虫類の目なんだよね。なんか無機質っていうのか、感情が無いっていうか感情が読めないっていうべきか、上手く言えないけど爬虫類独特の目をしてるんだ。

 そして身長が高い。目の前に出てきた連中は、どれもこれも2メートルを越えている。竜族の代表者は女性であるためか、竜族としてはやや小さいけど、威圧感は他を圧倒するほどに強い。



 「我々と交渉したいそうだな?」


 

 大きな屋敷の中に案内されて、私がイスに座るのと同時に、竜族の代表者は言ったのよ。だから私は頷いたんだけどさ。トシュウさんは完全に無視されてるなぁ。まるで眼中に無いって感じだね。トシュウさんは私の背後に立って、気配を限りなく無に近づけてる。無視されて、コレ幸いって態度もどうかと思うよ。



 「ずいぶんと大勢の兵を連れて来たようだが無駄なことだ。我々の一族は例え子供であっても、人間如き千でも万でも蹴散らす事ができるのだぞ?」

 「確かに個で戦えば竜族に勝る種族はいないわよ。それは認めるけどね。でも、その認識は古いのよ。20年前なら1対1000でも勝てなかったでしょうけどね」

 「今でも勝てないだろう。そして、これからも」

 「だから、その認識は古いんだってば。カレドニアの王都で、私は竜族を討ち取った。あの時、人間で対等に渡り合えたのは、私と弟くらいだったのよ。でもね、今はあんなにいるのよ」



 私は仲間逹がいるであろう方向を指差した。



 「ウソだ。人間風情が、そこまで強くなれるはずがない」

 「ウソじゃないよ。今まで勇者が魔王を滅ぼした事は何回もあったけど、人間が軍を率いてここまで攻めてきたのは初めてでしょ? 魔王側の雑兵でしかなかったコボルトが寝返ったのも、ね。だから、貴女は交渉の席についたんでしょ? 違うのかな?」

 


 代表者が黙ったんで、私はここぞとばかりに喋った。



 「私は魔王を滅ぼすよ。魔王は勇者じゃない、普通の人間達の手によって滅びるんだ。今は内力を操れる人間が主力だけど、あと何年かすれば、内力も使えない普通の人間達が火薬と大砲を携えて戦列に加わるし、内力を身につけたコボルトも参加するんだよ」



 竜族の長は黙っているコボルト族を見つめた。ここで初めてコボルト族に興味を持った感じだね。トシュウさんはガチガチに緊張していたけど、一つ深呼吸してから口をひらいた。



 「我々は人ともに、この世界で生きていくことを決めた。考えてみれば我々は魔王の配下として長年人間と、勇者と戦ってきたが世界を支配する事はできなかった。しかし、共存共栄することで世界へと出て行くことができる。我々は共存共栄という未知の、だが希望に満ちた未来へかける。もしも、そこへ竜族が加わるのならば、全種族が歓迎し、敬意を払うことだろう。だが、それはあくまでも対等な、平等な関係の中で、だ」

 


 あれだけ怯えていたのにトシュウさんってば頑張って喋ったね。


 

 「コボルト族が、ここまで言うとはな。だが、そうだな。人間がどこまでやれるのかを試しても良いかもしれんな」

 「私達を試すって? どんな風に?」

 「魔王様は魔族でも選りすぐりの猛者を城に配置している。今、魔王城にいるのは魔族でも最強の軍団であり、そして人間達を滅ぼせという強硬派の集団でもある。見事、そいつらを滅ぼして見せるがいい。お前達が魔王様を討ち取り城を陥落させた時、もはや人間達との共存に反対するものはいないだろうよ」



 つまり、この集落にある結界を発生させる装置を壊しても良いって事なのね?

 


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