百十四話
コボルトを味方に引き入れて、オーガー等の巨人族を撃ち破ったことで、魔王についてた各種族は人間側へ使者を送ってくるようになった。コボルト族の族長は、それらの使者に対する応対を引き受けてくれたのでランスローやガレスも感謝をしてるみたい。
後方の砦までの治安維持などは、コボルト族の戦士団が引き受けてくれるようになったし、最初は人間側ともギクシャクしてたけど、時間と共に和らいだようだね。魔王っていう共通の敵もいるんだし、いがみ合ってるヒマなんか無いんだけどね。
ランスローは教育に従事してる者達を招いて、コボルト族の子供に対する教育を任せたんだって。ただし、マナーや常識等はコボルト族の従来の物もあるので、そのすり合わせ等には気を使うらしい。一方的な押し付けは反感を買うだけだもんね。
コボルト族の子供達は読み書きや算数といった知識の習得が楽しいらしく、砂漠の砂が水を吸収するような勢いで勉強してるらしいよ。体育では内力の基礎練習から行っていて強大な敵に対して屈する事のない実力を子供のうちから身につけさせるとのこと。
また農業や漁業をしている者達を招いて、コボルト族の非戦闘員に対して実践的な指導をしてるらしいけど、これまた好評のようだ。族長のトシュウさんも人間側に味方して正解だったと喜ぶ反面、どうして祖先は魔王に味方したのだろうかと考え込んだりもしてるらしい。地理的に閉鎖されてる場所だし、魔王の出現地域の近くだし、私は仕方なかったと思うけどね。
戦ってた頃は雑魚だとしか思ってなかったけど、軍事教練で鍛えてみると人間では敵わないような良い動きをするんだよね。犬っぽい顔してるだけあって集団としての連携も素晴らしい。何故、魔王軍では、これを活かさずに使い捨ての駒として扱ったのか理解できないよ。このままいけば、遠くない将来にコボルト族からも英雄が生まれると思う。
ガレスも同意見のようで母国カレドニアとクロヴィアに対して、コボルト族に対する偏見などを持たないように、国民に持たせないようにと何回も使者を送り、手紙を送ってた。とても賢明なことだと思うんだよ。魔王と共に戦う為に育成してるのに、つまらない偏見から離反されて敵になったんじゃ、どうしようもないもんね。
こんな状況の中で私はニコやランスローに頼んで、軍の中でも屈強な兵を500人ほど選抜してもらったんだ。そう、いよいよ魔王の城へ攻め込もうと思うんだ。その準備を見ていた族長のトシュウさんが話しかけてきたのよ。
「アルマさん、我々コボルト族も内力を学んでおりますし、あと10年とは言わんが5年ほど待ってもらえればコボルト族の精鋭が数千、いや数万人は誕生しますぞ。さすれば魔王に対しても楽に戦いを進める事ができましょう」
「ありがとう。でも、時は今だと思うのよ。こっちに恭順の意を示してる連中も、いつまた寝返るかもしれないしさ。そうなったら、コボルト族の若者が、また大勢死ぬよ。人間も、獣魔族も。厳しい戦いになるけど戦って魔王を討つ。それでトシュウさんの孫が大きくなる頃には昔話にしたいと思うよ」
トシュウさんは黙って頭を下げた。
10日後に500名の精鋭が集まったんだ。結構立候補者が多くて、選抜には苦労したってランスローが言ってたっけ。これであとは魔王の城を目指して落とすのみ、だね。魔族達の大半は迷ってる。コボルトのように人間と共に生きるかどうかを。連中は魔王が勢いを取り戻せば、すぐに魔王の元へ集結するだろうね。それを責める事は出来ないんだ。だって、ずっとそうしてきたんだからね。でも、これで終わらせよう。勇者抜きで魔王を倒せば、人間優位は決定的になるのだからね。




