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百八話

 半月ほどトシュウが村長を勤める滞在していると、次々と使者が帰ってきた。使者が言うには人間の領域に近い村は、人間の味方になっても良いとの返事だったそうだ。しかし上級魔族の居住領域に近い村々は表面上は私達人間に敵対する方を選びたいと言ったとか。



 「なによ、その表面上は敵対ってのは?」



 私はコリーみたいな顔をした使者に聞いてみたんだけどね。



 「人間同様の権利を得られて同等の生活ができるのであれば味方したい。それが彼らの本意です。しかし近隣にオーガーの集落もあり、裏切りが発覚したらオーガーが襲ってきて村は全滅してしまうのです。従って人間の部隊が説得に来たら、その村の戦士団は人間達の部隊の帰り際を襲いたい、との事です」

 「それやったら殲滅するって言った?」

 「勿論です。襲いかかった戦士団のうち、半数は戦死と称して人間に味方をし、あとは返り討ちにあったということで村に戻り、戦闘不能ということで以後の出兵を控える、と申しておりました」



 つまりヤラセか。魔王に忠誠を尽くすため人間と戦闘したって形を見せたいわけだね。コリーは頷いて言葉を続けた。



 「我ら獣人族は兵を出さなくて良いと言ったアルマ様の言葉を伝えて、無理に合戦を演じる必要もないとは言ったのですが、どうせ無傷の戦力があれば魔王側に徴兵されてしまうので、戦死したということで人間側へ行かせたいと。戦う必要が無いのであれば、輸送や土木作業の要員として使って頂きたい、との事でした」



 なるほど、確かにそういった要員は欲しいところね。だけど帰り際を襲うってのは芝居でも反対ね。偶発的な事柄で本当の斬り合いになってしまうかもしれないからね。万が一でも、そういった危険は避けたいのよ。コリーは頷いてから「では、どのように?」と尋ねてきたので、私も考えながら答えたの。



 「申し訳ないけど、もう一度使者として行ってもらおうかしらね。表面上は敵対したいと言った村々で、戦士団を集めて、こちらと合戦しましょう。この村に近い位置で最初に合戦を行うわ。そして内々に味方になってくれる兵士は戦死したって事で、この村に来てもらいましょう。案内役のコボルト族を数名ほどトシュウさんに貸してもらうわね」

 「なるほど。案内役のコボルト族を前衛に入れておいて頂く事は可能でしょうか?」

 「できるけど、何故?」

 「さきほど、アルマ様が仰った偶発的な事故を避けるためです。我々の村は人間世界の一員というのを心から信じておりますが、あちらの村の者達は、ヤラセとはいえ、いざ人間と対峙したら信用しきれないかもしれません」

 「なるほどね」

 「ですが我々が前衛に混ざっていれば、遠く離れていてもニオイで分かります。混ざってる者達の精神状態などもニオイで理解できますし、裏切るかどうかの判断はつくでしょう」

 「ニオイで分かるわけ?」

 「分かります。極度の緊張状態にある場合など、ニオイは変化しますから」



 ニオイで精神状態まで分かるのかぁ……、将来は犯罪が起きた時にコボルト族の鼻が嘘発見器になったりするのかしらね? ともかく、素晴らしい提案だったので即採用させてもらったわよ。



 「でね、その後、こちらが追撃するからね。その時にタイミングが重要なんだけどオーガー達に救援要請を出しなさい」

 「そんな事をしたら、本当の戦になりますよ!?」

 「勿論、オーガーとは本気で戦争するのよ。その時にオーガーに怪しまれないように、敗走する連中はケガしたように見せかける必要があるわね」

 「そこは大丈夫でしょう。半数が討ち取られて逃げたとなれば、例え無傷でも奴らは疑いません。何しろ我々を臆病者だと見下してますから」

 「そうなの? ならケガしたメイクは最低限でも構わないかしらね。とにかく、オーガーを応援に呼ぶのよ。呼ぶ理由はオーガー達を納得させるためよ。コボルト族が人間に負けて自分達に救われたのだとね。そうすれば疑いはかけられないわよ」

 「了解です!! 早速、そのように伝えましょう! 合戦の日時はどのようになさいますか?」

 「それについては、後日に他のコボルト族を使者に出すよ。だから、いつでも出来るように準備をさせておいてちょうだい。もう一回村へ行って準備を整えさせるとしたら、どのくらい必要かしら?」



 コリーは少し考えて答えたの。



 「そう、ですね。私が村へ急いで行って5日。他の村々へ集合をかけ準備するのに5日。合計で10日もあれば大丈夫かと思います」

 「それなら、もう5日を予備日にしましょう。私達は10日後に出発するわ。そうすれば15日後に、そっちへ到着するからね」

 「了解しました」

 「それと、あなたが行くときに、他にもう2~3人ほど連れて行きなさい。何かあったら連絡できるようにね。こっちも連絡要員を数名連れていくわ」



 トシュウほど恐くないけど、コリーが牙をむくような表情をしたのよね。私はこれが威嚇ではなく笑ってるのだと経験で分かってるので、何が可笑しいのか聞いてみたのよ。



 「万が一にも本当の衝突にならないようにと、細心の注意をしてくださってるので嬉しくなりまして、それでつい笑いが出てしまいました」

 「そりゃあ、もう仲間なんだし、変な事故や殺し合いは避けたいじゃない」

 「仲間!! ありがたい話です。我らコボルト族は群れを大事にします。これからは人間族も含めて群れだと認識するようになるでしょう」

 「それは嬉しい話ね。じゃあ、コリー。頼むわよ」



 おっと、コリー犬に似てたから内心でコリーって呼んでたんだけど、うっかり口に出しちゃった。コリーはキョトンとした顔でこちらを見ていたけど、口を開いてこう言ったのよ。



 「私、名前を名乗ってませんでしたのに、よく御存知ですね」

 「そりゃあ……面倒な任務を引き受けてくれてるんだもの。当然でしょ」

 「ただの使者でしかありませんのに……感激です!」



 そう言ってコリーは、再び使者として出かける準備をするため去っていった。

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