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百六話

 砦の建設と完成はアラディンに任せて、私達は更なる進軍を開始したんだ。ここから先は人間はいないんだよ。いるのは魔族だけ。そして私が考えているのは魔族の切り崩しなんだ。小型魔族、ゴブリンとかコボルトとか、けして魔王が好きで従ってるワケじゃない連中だね。力がないから、仕方なく従ってる連中、こういうのを私達の方へ引き込むんだよ。


 ニコの部下達は魔族と人間のハーフで階級的に最下層にいた。その時の経験で小型魔族の言葉を覚えている者も多いわけよ。今回はね、それを利用させてもらうわ。まずニコの軍から500、カレドニアから500を出して合計1000名の部隊を10隊編成したのよ。一隊は私の直属部隊にして、それ以外は魔族の領土を進軍してもらうの。勿論、どういうルートを進むかは随時細かく伝令で報告してもらうのよ。


 そして進軍中に小型魔族達の村を見つけたら、言葉を話せる者達が交渉にあたるわけ。魔王ではなく勇者の側に寝返れとね。そして、その見返りに人間の国の市民権を与え平等な権利を持たせるし、教育なども施す。優秀な者は国政にも参加させよう。とか何とか、小難しい理屈はどうでもいいんであって、早い話が仲良く暮らせる世の中を作るから参加しろよって言うワケね。


 私が直属の隊と共に陣を構えていると、早速伝令が来たんだ。わりと近い場所にコボルト族の村があるって言うのよ。近いから私が出向いて村の代表者と話し合いの席を設けたわけ。コボルト村の村長は年齢は分からないけど、土佐犬みたいな顔で妙に威厳があるのよね。



 「この村の代表を務めるトシュウだ」

 「私は人間の軍の代表者の一人、アルマよ」

 「我々と話し合いがしたいそうだな?」

 「そうよ。このまま戦いを続けても無益だと思わない?」

 「だが人間とは長年に渡って殺し合いを続けてきたのだ。今さら和平などできると思うかね?」



 うん、必ずそう言うと思ったよ。



 「互いに恨みもある。それは分かるよ。私だって大事な人を無惨に殺されてるんだよ。でもね、互いを許せずに戦い続けたら、その果てにあるものは何だと思う? 虐殺あるのみよ」

 「お互いの遺恨を忘れて水に流すか。それも良いかもしれない。だが、古来より我らは魔王様の味方をしてきたのだ。今さら勇者の味方を出来ると思うのかね?」

 「でも、あんた達が魔王に味方したところで、上級魔族の盾にされるだけでしょ?」

 「それは勇者の味方をしても同じではないか? 対魔王戦で捨て駒にされるのがオチではないか?」

 「少なくとも、あんた達の意思を無視して捨て駒にする事はないわよ」

 「捨て駒にすると認めるのだな?」

 「戦いにおいて、各々の役割ってものがあるのよ。魔王が勇者の村を滅ぼした時、私のお腹には勇者の血筋が生まれる可能性があった。その可能性を守る為に、私よりも強かった男が捨て駒になったよ。自らが進んで行うのと、強い者に強制されて嫌々やるのじゃ意味が違うよ」

 「我々の意思を尊重すると言うわけか」

 「勿論、私達は長年殺しあってきた仲だもの。すぐに上手くいくなんて思わないし言わないよ。だから納得いかなきゃケンカすればいいんだよ。でもね、殺し合いはやめよう。時間をかけてお互いを理解しよう。そういうことなのよ」

 「だが……魔王様に逆らう事は死を意味するのだ。お前の言う事に魅力は感じるのだが……」

 「強大な力を持つ者に抑えつけられる恐怖って奴だね。でもね、今、魔王はどこにいるのよ? 勇者の覚醒を恐れて魔王の城に閉じこもってるじゃないの。今までは、コボルト族のみで、あるいはゴブリンや他の獣人族と共に戦うしかなかっただろうけどさ。今度は私達がいるんだよ。勇気と誇りを持って立ち上がりなよ」

 


 土佐犬みたいな顔をした村長は、目を瞑り長いあいだ考えていた。ここが種族の運命を分けると思えば悩みもするだろうね。私はその決断を黙って待っていたんだ。


 

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