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百四話

 オーガーやトロールを中心とした魔族軍は、夜が明けたら即攻撃してくると思ったんだけどね。攻めて来なかったよ。勿論、これは私達にとっては万全の補給をする絶好のチャンスだったわ。いつ攻めてくるかと気にしてたから、補給作業の効率が悪かったけどね。


 そして二日後の朝、魔族軍は姿を見せたんだ。私は山肌の狙撃部隊のところへ行って、敵の軍団の様子を見たんだけどね。今度は小型の魔族だけじゃなく、大型の魔族の姿も目立ってる。今度はさすがに敵も油断してないわね。油断してくれた方が私達は楽でいいんだけどさ。



 「姐さん、敵もバカじゃねぇなぁ。弓の間合いを気にしてるようだぜ」



 いつ来たのか、スレッジが私に言った。そしてもう一人、アラディンが言う。



 「アルマ、大砲を撃つか? 何とか届くと思うぞ」


 

 一瞬、撃って相手の出方を見るべきか、と思ったんだけどね。敵には知られてない未知の兵器を、ここで使うのは勿体無いわよね。大砲は温存すると答えて、なおも魔族軍の動きを見ていたんだけどさ。ついに相手も腹を決めたみたい。ジリジリと弓の射程を測っていたようだけど、一気にこちらへ向って小型魔族が走り出したんだ。



 「構え!!」



 サラが皆に指示を出す。私はサラの指揮に口を挟むことなく、黙って流れをみていたんだ。異変はその時に起こったんだよ。というのは、小型魔族は武器を抜いて山肌を駆け上がって来たんだ。これは私も驚いたんだ。小型魔族の運動能力ってものを舐めてたかもしれない。私でさえ、こうなんだからサラが驚いて命令を出すのが遅れたのも、仕方が無いって思うんだけどね。これが不味かった。山肌に構築していた狙撃場所の比較的下に位置する場所が白兵戦の場所になっちゃったんだ。



 「撃てっ! 撃てっ!!」

 「敵が白兵戦を仕掛けてきたわよ! 武器を取れるものは備えて!!」

 「狙撃できる者は乗り込んでくる後続の小型魔族を撃てッ!!」



 複数の命令が飛び交う中、小型魔族と私達とで乱戦になってしまったのよ。サラは私に指揮権を返す事を告げると、乱戦の中へと飛び込んで行った。私はすかさずスレッジにサラの援護を頼んで、乱戦の現場から離れたの。だって、混乱の中にいたら全体が見えないし、指揮ができないものね。

 後詰兼補給の為に用意した500人の半分、250名を乱戦を有利に導く為の応援として派遣したのよ。大砲や火薬、矢などの補給や移動の為に通路は広くしてあるし、人数を増やして相互に連携して戦えば何とかなるでしょう。サラやスレッジもいるしね。

 残る250のうち、100名は残りの弓兵を守る為の援護としたの。もう100名は後方の砦や壁へ向うための通路を確保というか、守る為に向わせたわ。そして最後の50人は乱戦になって弓を射ることができない弓兵の代わりに配置したってわけよ。


 そうこうしてる間に、敵は先程とは違って弓など気にせずに進軍してくる。小型魔族は人間では利用できないような僅かな足場を使って、次々と狙撃場所へと乗り込んできていた。乱戦は極みに達して、なおも拡大していく。そんな山肌を横目にオーガーやトロール達の大型魔族は悠々と通り過ぎていく。



 「アラディン! 大砲はいける!?」

 「おう! こないだは間に合わなかったが、今なら4門使用可能だ!」

 「じゃあ、あの長く延びた隊列に均等に当るように照準をつけて砲撃してちょうだい」

 「大型魔族全体に大砲の恐怖を教えてやるってワケか! 了解だ!!」



 大型魔族の先頭から最後列まで、均等に距離をおいて照準を合わせる。アラディンがこちらを見て、手を上げた。照準が定まったのだろう。私は腕を上に上げて、大型魔族の隊列目掛けて指し示しながら、大きな声で命令を発したんだ。



 「撃てッ!!」



 声が聞こえたのか、それとも私の腕の動きを見て命令を発したのか。アラディンの腕が振り下ろされた。4門の大砲が爆音を響かせる。その轟音に驚いて乱戦がピタリと止んだ。敵も味方も、この時ばかりは戦いを止めたんだ。

 そしてほんの僅かに遅れて、大型魔族の隊列の中に着弾したのよ。あれほど大きな巨人達が、まるでオモチャの人形のように空中に吹き飛ばされてた。たぶん手足の骨なんて、いえ全身の骨が粉々に砕けたんじゃないだろうか。直撃を食らった奴はミンチになったんじゃないのかな。

 大砲が次の弾を装填してる間、乱戦に巻き込まれてない弓兵達が、敵目掛けて矢を射る。何が起きたのか分からず、呆然としてる大型魔族達へ次々と命中していく。一方で大砲の音に驚いていた敵も味方も、矢が大型魔族に刺さり、うめき声をあげて倒れる姿を見て我に返ったみたい。

 小型魔族達の三分の二は戦闘を止めて次々と撤退していく。残る三分の一は戦闘を継続してるみたいだけど、それは退路が断たれている為らしい。私は戦闘を中断し、逃げる者は追撃せず逃がしてやるように指示を出した。

 武器を収めて下がる人間を見た小型魔族達は、どこかホッとしたように逃げ去っていく。これってスラール王都で小型魔族達の、妙な人間臭さを見てなかったら皆殺しにしようって思っただろうな。



 「砲弾装填準備完了! アルマ、どうするんだ?」

 「こいつらの戦意を徹底的に砕いてやらないと、いつまでも守りを強いられるわ」

 「つまり、撃つんだな?」



 アラディンは砲撃箇所を私に聞かなかった。きっと如何に撃てば大ダメージを与えられるかって考えてるんだろうね。大砲に関してはアラディンの方が断然上なんだし、任せておけばいいよね。アラディンは大砲と弓矢を組み合わせて的確にダメージを与えたんだ。その結果、大型魔族は残存兵力を十分の一、しかも無傷の戦力無しの状態にまで追い込んだのよ。恐らくは事実上の壊滅だよね。


 こうして、敵の進撃は食い止めることに成功したんだけど、あの乱戦のせいで、こちらもかなりの被害を蒙ったのよ。小型魔族が登ってくれないように改善しなくちゃダメだね。

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