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百一話

 6000人を引き連れて砦の建設予定地に戻ってみたら、アラディンが満面の笑みで出迎えてくれたのよね。きっと、この労働力に歓喜してるんだろうけどさ。


 アラディンは連れて来た兵士の中で、内力を使った石切りが得意な者を選抜すると、四チームに分けて昼夜を問わずに交代で仕事をさせたのよ。勿論、私も徹底的にこき使われたわね。


 それから大きな石を切り出したりは出来ないけど、細かく切ったり削ったりが出来る者達は、砦に面した山肌を加工する作業に従事させられていた。


 それ以外は切り出された石材を、ひたすら積み上げていたんだよ。ちょっとした変化があったのは、それから三日後でフォボスの長老が大砲や弓矢を持ってきた時かな。


 あの緩やかな、でも長く続く上り坂で長老配下の人々は大砲を押し上げる事は出来なかったんだよ。そこで急遽、石材を積み上げてた兵士から500名ほど輸送係に任命したんだ。さすがに内力を身につけた兵士は、大砲の重さを物ともせずに上まで上げてたよ。


 その他にも火薬や弾、弓矢を次々に砦に運び込んだけど、ここでアラディンは内力を使えない長老の兵士達に、大砲の設置をやらせるって言い出したんだ。



 「ニコの部下にやらせた方が早いと思うわよ?」

 「俺も、そう思うよ」

 「じゃあ、何故やらせるのよ?」

 「魔族戦で最大の防御は、こちらから攻める事だと俺は思う。その攻撃の役割は内力が使える連中だ。つまり、この砦には残せない。だったら、今のうちに内力が使えない連中で、大砲の移動が出来るかどうかを試すべきだし、移動させられないとしたら、大砲を向きも含めて固定してしまうか考えなくちゃいけないだろう?」



 アラディンは敵の進軍に合わせて大砲をある程度移動させ、より射線を集中させたいんだって。それで大型の魔族が来た時も対抗できるようにしたいんだってさ。そう聞いてしまったら反対はできないよね。私達もなるべく多くの戦力を連れていきたいしね。

 どんなもんか興味あったんで、長老の兵士達が大砲を設置すんの見てたんだけどね。……さぼってたんじゃないからね? スロープをとても緩やかにしてたんで、内力なくても大丈夫だったみたいだね。その分、移動距離が長くなったけどさ。

 兵士が大砲を移動させるのを見て、少しでも不具合があればアラディンは修正させてた。スロープで石があれば削って滑らかにしたりとかね。火薬なんかは雨に濡れない、各大砲から補充しやすい場所に設置してるけど、補充に来た人間で身動きが出来なくなったりしないように通路をひろげるように指示してたね。

 弓兵の配置にも気を配ってるみたいだね。大砲は弓の通用しない上級魔族を主に攻撃するみたいで、下級の魔族相手の時は弓矢を使う事を想定してるみたいだよ。こちらは何しろ坂の上だから、下へ向けて射る分には相当な威力を発揮すると思うんだけどね。アラディンの配置を見る限り、相手が雲霞の如く押し寄せても、こちらの射た矢は豪雨の如く降り注ぐと思うよ。

 正直な話、内力を使って防御力を高めても回避力を高めても、この砦へ進撃するのはイヤだね。私が魔族を率いる大将だったなら防御の固い上級魔族を前面に出して盾としながら、その背後に下級魔族を配置して進軍させて、砦に近寄ったら下級魔族の数に物を言わせて壁に取り付かせる、かな。試しにアラディンにそう言ってみたんだけどね。



 「上級魔族ってのは、例え戦術の為とは言え下級魔族の盾になるのか?」

 「ならないかも」

 「なったとしても、それなら大砲で上級魔族を砲撃してやればいい。同時に弓矢も上級魔族の後方を標的にして射てやれば一気に殲滅できるだろう。その辺は臨機応変に指揮官が指示できるか、だな」



 アラディンは取り出したメモに、指揮官の教育が課題なんて記入している。壁に取りつかれた時の対処、なんて書き込みもしていたわね。その夜、私はアラディンに呼び出しを受けたので訪ねてみたんだよ。


 そうしたら今の壁に大砲の設置と、弓兵の配置を記した図面を見せられた。そしてフォボス側にも壁を作ると言われたのよ。その二つの壁の間に、頑丈な建築物を建てるんだってさ。

 


 「フォボス側に壁はいらないでしょ?」

 「いや、これは魔族に突破された時、このフォボス側の壁で食い止めるんだ。突破した敵を逃さない為の壁だ。そして頑丈な建物から魔族を攻撃して殲滅する」



 なるほどね。魔族が壁に取りついたら、なんて私が言ったもんだから真面目に対策を考えたんだね。



 「敵襲!!」



 後で知ったんだけど、山肌の大砲設置場所で作業してたニコの部下が見つけたみたいだね。やたらに夜目が利く子なんだって。お手柄だから頭を撫でてあげなきゃね。




 

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