百話
カレドニアから5000、ニコから1000の兵隊を借りる手筈はついたんだけど、これだけの人数が出発する為には、準備に二日ほどかかるって言うんだよ。
時間が勿体無いんで、私は先に出る事にしたのよ。フォボスの連中には信用してもらってると思うけど、6000の兵隊が来たら、あまり良い気はしないと思うんだ。
だから、私が先に行って砦建設部隊が通るって、知らせておくんだよ。それなら安心出来るよね?
これからは私の事を、気配りのアルマって呼んでくれても構わないわよ?
建設部隊の指揮はルージュに任せて、私は一足先にフォボスへと戻ったんだ。長老達には砦建設要員が、間も無く来るので通して欲しいと頼んでおいたよ。勿論、快く承諾してくれたからね。ここでルージュ達と合流するか、それとも先に砦の建設現場へ向うか迷ったんだけどね。スレッジがひょっこりと顔を出したんだ。そういや、こいつってば、いつのまにか見なくなってたなぁ?
「アルマ姐さん、ちょっといいですか?」
「あんたってば、いつのまにか姿を見なくなってたけど、どこへ行ってたのよ?」
「スヴァルですよ」
「何で、そんな所へ行ったのよ?」
「俺が行っても砦の建設の役には立ちませんからね。だったら姐さんが直接見ない場所を偵察に行った方がいいと思ったんで」
「なるほどね、じゃあ早速教えてよ」
「了解です」
スレッジは、どこから話すか少し迷ったみたいだけど、長老と同じ地形から始まったのよ。一つ違うのは内部構造について言及した事かしらね。
「まず入口ですがね、横幅が5メートル、高さは2.5メートル、奥行きは10メートルくらいなんですよ」
「低いわね」
「それがミソなんですよ。小型の魔族なら問題ねぇんだが、トロールやオーガは頭が天井にあたる。スムーズに動けないときたもんだ」
「だけど、あの巨人達は内力を身につけるか、よほどの剣技、槍術を操る剛勇無双の騎士や戦士じゃないと倒せないわよ」
「連中は火を使ったみたいですな。魔族が入って来たら、十分に引きつけて油か何かを投げつけて火で焼き殺したんです」
「根拠はあるの?」
「天井に煤がありました。それと煙が外へ逃げるように、天井の高さは若干ですが入口の方が高かったんですよ」
スレッジが言うには奥は狭い通路が入り組み、初めて入る者には内部構造が把握しにくいらしい。一階部分というのは元々は近隣の村人が戦争などの災難を逃れる為の隠れ場所で、必要に応じて拡張していくうちに、今のようになったらしい。一番奥の緩やかな傾斜を登っていくと、落ち着いて居住できる生活スペースがあるんだって。高さにして地上から200メートルほどのようだ。ここは外から光を取り入れる事ができるようになっていて、長期に生活する事を考えて作られてるみたい。
水は頂上から流れ落ちてくる滝が近くにあって、そこから水を引いてるんだけど、その水を利用して畑まで作ってるって言うから驚きだよね。
こんな小さな村のようなものが、この200メートルのを最初に350メートル、500メートル、700メートル、850メートルと5箇所もあるんだって。そして頂上は直径が数キロに渡る台地で、ここは植物も生い茂ってるし、雨によって水も常に供給されてるから水も豊富。そこへ町を作って生活してるっていうんだ。
まさに天空の都市だね。いいなぁ、行ってみたいなぁ。
「現在は地中にある5箇所の隠れ村は、都市の防衛要員の詰め所のような役割を果たしてるそうで、何かあれば、それぞれの詰め所から一階へ応援が駆けつけるって仕組みですな」
「でもさ、一階に大きな魔族や魔物が入れないってのは分かったけど、数で押されたら突破されそうなもんだけどねぇ? その辺はどうなってんのよ?」
「それですがね。敵を迎え撃つ場所ってのがありましてね。ちょっとした広場みたいなんですが、そこに到るまでの天上裏ってのか、二階ってのか、そこから槍を一階に向けて突き落としたり、大きな石を落としたり出来るんですよ。通路の左右の壁にも穴が開いていて、そこから槍を突き出したりするらしいんです」
「難攻不落って奴かぁ……クロヴィアで城を砲撃してきたのを使ったら、どうなんだろうね?」
「あれですか? こんな天然の岩盤に向けて撃ってもダメじゃないですかね? 入り口を間違えて潰してしまえば掘り出すのに時間がかかりますし、スヴァルの連中は頂上で自給自足できますからね。屁みてぇなもんじゃねぇですか?」
「空を飛べる魔族がいたとしたら?」
「クロヴィアの攻防戦じゃあ見ませんでしたぜ? だから、いても数が少ないでしょうし、その村の場所を探し出せるまで飛び続けられますかね?」
「そうねぇ……でも夜になれば灯りで分かるんじゃない?」
「ですなぁ、しかし、その村って奴も太陽の光を取り込む為に幅が1.5メートル、高さ2メートル前後の採光窓を何個か設けてるんですけどね。奥行きが3メートルくれぇあるんですよ。空を飛べる奴の大きさは、どんなもんですかね?」
空を飛ぶ奴ってのは見た事がないんだ。だけど、勇者の隠れ里を襲った連中はカレドニアに見られてないんだよね。だから空を飛んできたってのが、一番分かりにくいんだけど……。そういやぁ人に変身できるのがいたっけね。
「人に変身できる魔族がいるじゃないの。そいつらは、どうやって対処したんだろうね?」
「一番簡単で厄介な方法ですぜ。守備隊は6部隊いるんですがね。メンバーの入れ替わりってのは、頂上にいるときに欠員を補充するだけで、途中で補充はしないんですよ」
「途中ってのは?」
「一番初日に一階の守備を任された部隊は、次の日は200mの村で勤務します。次の日は350mの村、次は500mの村、最後が頂上の町で完全休養ですな。それを6部隊で回してるんです」
「つまり、戦闘で誰か死んでも頂上へ行くまでは補充されないのね?」
「そうです。補充なんて言って紛れ込めないし、応援に来る、または応援に行く前後の部隊だってメンバーの顔は覚えてるんです」
「紛れこめないってワケね」
「そうです。そんな上級の強い魔族が来てしまった場合は、わざと騙されて狭い通路や空間に誘いこんで、武器を突きつけるんですよ」
「連中の欠点って、本来の強力な力を発揮しようとしたら元の姿に戻らないとダメじゃなかったかな?」
「姐さんの仰るとおりですがね、戻った瞬間に狭い空間に挟まれて身動きできずに嬲殺しですぜ」
そんなに凄いんだね。しかし、それならスレッジはどうやって入ったのよ?
「私はシーフギルドを通して情報を得たんですよ」
「そいつらに手引きさせたら、中に入れないかしらね?」
「いやぁ、ダメでしょうな。私は辛うじて200メートル地点の村までは見せてもらえましたがね。それ以上はダメだと断られました。ただ、姐さん達が言ってる事は伝えましてね。それには共感してくれたようなんですよ。だから色々と教えてくれたんですがね」
「シーフとしての仲間意識もあるけどスヴァルへの帰属意識も強いってことか」
「それで姐さん。スヴァルはどうするんで?」
「今は放っておくわよ。砦建設が大事だもの。でもね、その後は殻に篭るヤドカリ野郎を引きずりだしてやるわよ。内力ってもんがある以上は魔族を相手に戦えるんだもの。自分達だけ安全な場所に引き篭もるなんて許さないわ!!」
スレッジは手を叩いて笑っているけど、あんたも参加させるからね。
「本気ですか? 内力を持ってたって手強いですし、人間同士で殺しあってる場合じゃないと思いますがね」
「ああいう連中を凹ませるためにはね。一人の犠牲者も出さずに、数百、数千の人間を頂上へ連れていくことなのよ。だから正面から正攻法では攻めないわよ。多大な犠牲者をだしたら、こっちの上層部が躊躇してしまうもの。そうなればスヴァルは余計に自分達の方法が正しいと思い込むでしょうよ。まぁ見てなさいってのよ。スヴァルの奴らったら、あとで吠え面をかくことになるわよ。うふふふふ」
「姐さんを敵に回したくはないですなぁ。しかし、その言動は完全に悪役っぽいですぞ」
一滴の血も流さずに難攻不落の都市ってのを思いっきり陥落させてやるわ!
だけど、その前にまずは砦の建設だね。
私はスレッジと共に、ルージュの部隊へと合流することにしたのよ。