第7話
どこかの偉人は言いました。
―超えられない壁なんてないさ―
まるでヒーローが言いそうなくらいカッコいいセリフです。僕もここぞって時に言ってみたいセリフのベスト10には入ってます。
だがしかし。
だがしかしですよ?
誤解や批判を恐れずに言うなら、それは嘘なんではないでしょうか?
世の中には決して超えられない壁というのが多々あります。
時間の壁然り。お小遣いの壁然り。二次元の壁然り。
そう……そして僕の目の前にそびえ立つ自宅の玄関ドア然り。
…………こんばんは。自宅に入れない佐藤博人です。
時間は深夜の三時。
考えてみれば、今の僕は紙一枚持ち上げることの出来ない、深窓の令嬢もビックリの非力な存在でした。物に触れることは出来ても動かすことが出来ない僕にはこの固く閉ざされたドアを開ける術がありません……。
何たる不幸!!
くそぅ。この鉢植えの下にある合鍵を使ってドアを開けるだけで自宅に入ることが出来るのにっ!
せっかく自宅まで戻ってきたのに家に入れない。そんな現実になんとなく諦めがつかなく、しばらく家の周りをウロウロしてしまいます。
なんだか、買い物に出かけて、欲しい物が売れ切れていた時の微妙なやるせなさに似ていますね。なんかこう……本当は売ってるんでしょ? みたいな……。
でも結局は開いてる窓がある訳でもなく……。
まぁ、あと数時間もすれば家族も起きて仕事や学校に行ったりするだろうし、その時入れ替わりで家に入ればいっか。
そう前向きに諦めて、僕はドサリと玄関前に腰を下ろしました。
……。
やることが無いので空なんかを見上げて見ます。
冬の空には僕が唯一知ってる星座のオリオン座が……三つの連なる星を囲むように四つの星がキラキラと輝いています。
どうせ、その他の星なんかはろくに見えやしないと思ったいたんですが、意外にも他の星も多く見えましました。
オリオン座とキラキラ光っている星々を眺めながら、ふと思います
そういえばオリオン座っていつ誰に教わったんだっけ?
えーとえーと。ああ、そうだ。中学二年の時、タケシ君に教わったんだ。
急によにがえった記憶に僕は意識を過去に飛ばします。
中学2年の冬、流星群が話題になりました。なんでも数百年に一度の大流星群だったそうです。
テレビのニュースでもよく取り上げられていて、当日、学校では誰と見に行くかの話題で持ちきりでした。
僕も中学時代、いつも一緒に行動していた仲間連中と深夜に見に行く約束をしていました。僕たちは星なんかには大して興味なんか無く、ただ突然降って湧いたイベントに興奮していただけな感じですが。
深夜、僕は母親が用意してくれた温かい夜食と毛布とその他いろいろを持ち出して、あの土手に向いました。
土手には約束の二十分前に着いたのですが、そこにはすでに友達が全員集合していました。
「ヒロ、お前が最後だぞ!!」
友達の一人が僕に言います。
約束の二十分前なのに全員集合。待ち切れなかったのは僕だけじゃなかったみたいです。
僕たちはビニールシートを敷き、各々が母親に作ってもらった夜食をそこに広げ、皆でワイワイと食べ始めました。
冬の寒空の下、毛布に包まりながら食べる温かいご飯は、一種の非日常であり、だからこそより一層、美味しく感じました。
食べ終わった後はみんなで雑談。なかには毛布の温かさと夜食の満腹感からか、眠り始めてしまう奴もいましたが、そんな奴は皆でビンタを一発入れて気合を入れてやりました。
そして、ついにそろそろ流星群が見え始める時間帯になり、皆が夜空を食い入るように見つめます。
しかし流れ星は一向に流れません。
まだかまだか、と思っていた僕たちは少し白けた気分で冬の夜空を見上げていました。
「本当に流れんのかなぁー?」と、友達の一人が言います。僕も同じ気持ちでした。見上げる夜空には動かない星ばかりが輝いていて、流れ星は一向にその姿を見せません。
そんな時です。タケシ君が、「オリオン座の左上の方を見た方がいいとかって、テレビで言ってたよ」と言ったのは。
「まずオリオン座ってどれよ?」友達の一人が言います。
「アレだよ! アレ!!」
タケシ君は夜空の一角を指さし説明します。
しかし、僕たちにはそれが何処のことを差しているのかが分かりません。
するとタケシ君は財布から小銭を取り出してビニールシートの上に、斜め三つのコインを囲むように四つのコインを置いてオリオン座の図形を即席で作り、夜空とコインの図形を指を差して「アレだよ」と言います。
僕たちの視線はしばらく夜空を彷徨っていましたが、一人が「分かった!!」と叫び始めるなり、次々とアレだアレだ。とオリオン座を見つけていきます。僕も見つけました。
三つの連なる星を囲む四つの星の星座を。
するとその時、
「おい! 今、星流れたぞ!!」
と友達の一人が声をあげます。
「まじかよ! どこどこ!?」
「オリオンの左上!!」
僕たちも慌ててオリオンの左上に視線を飛ばします。すると……。
「すげぇ」
「ああ……」
そこには最初の流れ星を皮切りに沢山の星が白い線をひき流れていました。
それから数時間、僕たちは数百年に一度の大規模な天体ショーを堪能しました。結局親たちが迎えに来るまで僕たちは夜空を見上げ、騒ぎ、声を上げ、手を叩きました。バカみたいにテンションが上がりまくっていました。
誰かが冗談を言い、誰かがそれに乗っかり、誰かがそれを蹴落とし、一斉にみんなで笑う。確かにあったそんな時間……――、
皆の声が遠ざかり、ふと我に返る僕の上には、あの日と同じオリオン座があります。
不思議なことに、あの日の星座を見ているだけで沸々と気力が漲ってきます。
―それじゃあ、ヒロさんまた明日ですね―
彼女との約束をした明日。イリヤさんはどうやら僕に見せたいものがあるみたいです。それが一体なんなのか分かりませんが、分からない。そんなことにさえ今の僕はワクワクしてしまいます。
そんなソワソワした気持ちで、僕はオリオン座を見つめ続けました。あの日の記憶を思い返し、明日に思いを馳せながら、星が消えて見えなくなるまで、ずっと。
予定に無い話を書いてしまいました。
でも個人的にはこんな青春物語が好きだったりします。
次話から物語を動かしていきます。
なるべく早く次話を投稿するつもりなので、どうぞ宜しくお願いします。
評価、感想おまちしておりまーす!^^




