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第5話 はじまりの夜

 どうしよう……?

 

 黒猫を追いかけて土手まで走ってきたまではよかったんですが、土手の階段を上っている間に猫を見失ってしまいました。

 

 ああっ!! 僕ってヤツはいつもこうだ。ここぞって所でキメきれない、なんてダメな男なんだ。

思い返せば中学校時代、好きだったカナコちゃんに告白しようと思って、朝下駄箱にラブレターを忍ばせて、放課後の体育館裏に呼び出したまではよかったものの、その日に行われた数学の抜き打ちテストで赤点を取って、放課後に補習を受ける羽目になってしまい、カナコちゃんを小一時間待ち惚けさせてしまったこともあったけ。告白? もちろんダメでしたよ。というより、謝ろうと慌てて近寄ったら、涙目でビンタされたっけ。くそぅ。

いや、違う。猫だ。今は終わってしまった事に想いを馳せている場合じゃない!


 僕はもう一度あたりをぐるりと見渡してみます。でも見えるのは舗装されたアスファルトの道と街路灯の僅かな灯りに照らされた土手の斜面の緑だけです。もしかしたらまだ近くに居るのかもしれませんが、圧倒的に灯りが足りません。せめてもう少しでも灯りがあれば探すこともできるのにっ!!


 灯りが……灯りがあれば、と、ぶつぶつ呟いていると、急にフト眩暈に襲われました。でもそれも一瞬。すぐに回復して意識もはっきりします。

 はて? 幽霊になったのに眩暈を感じるだなんて変な感じです。と、首を傾げようとして気づきました。


 僕の前方一メートル先の空中に青白い火の玉が浮かんでいることに。


 ……え? えええ!? エェェ――――――――!?


 なぜ突然に怪奇現象!?


 幽霊となってしまった僕ですが、さすがにコレは怖すぎます! お仲間意識なんてあるはずもなく、ジリッ、と一歩後ろに下がります。

すると、まるで僕に追随するかのように、下がった分だけ火の玉が僕に近づきます。ってなにソレ!? 怖いんですけど!?


 一歩下がると、一歩分近づいてくる火の玉。


 ははは……。うん。逃げよう!!


 僕はくるりと体の向きを反転させて全力疾走でその火の玉から逃げ出しました。そして走りながら後ろを振り返ってみると、火の玉も本領を発揮したのか、とてつもないスピードで僕を追いかけてきます!! 


 無理!! 止まったらヤラれるッッ。


 走って走って走って。

 

 ついには土手の鉄橋下のほうまで逃げて来ました。

 恐る恐る後ろを振り返ってみると、なんとか撒く事ができたのか、火の玉は居ませんでした。


 助かったのか?


 無いはずの心臓がバクバクと脈打つ感覚がします。

 足がガクガクと震えてその場にズルズルとゆっくり座り込みます。


 なんだったんだ……?


 僕は自分の胸を手で押さえながら今の怪奇現象について考えます。

 鬼火、狐火、人魂、火の玉。いろいろ言い方があるかと思いますが、先ほどまで自分を追いかけていた謎の火の玉。よくマンガやアニメで見ることのあるアレです。

あまりに突然の出来事でとっさに逃げてしまいましたが、もう少し情報収集するべきだったんでしょうか?……いや、無理だな。だって怖いですし。


 黒猫は見失っちゃいましたし、突然出現した火の玉からは全力逃亡。

はぁ……。結局なにも得ることができず、謎ばかりが残ってしまいました。


 足の震えも治まり、さて移動しようかと立ち上がった瞬間、


「まったく。君は少しばかり臆病すぎやしないか?」


 と、子供特有の変声期前の男か女か判断できない曖昧な声で話しかけられました。


 ギクリと全身が硬直します。


「まぁ、慎重と言えば聞こえは良いけどね」


 声は僕の後ろから聞こえます。

 ゆっくり。ゆっくり振り返ると、


「でも、ボクを追いかけてくるくらいだし、勇気が全くないわけじゃないんだよね」


 そこに居たのは見失ったはずの一匹の黒猫。


 え? まさか今、コイツが喋ったのか……?


 金色の瞳と漆黒の毛色を持つ黒猫を驚愕の気持ちで見つめます。

 

 いや、ちょっと待て!


 と、猫を見つめながらすぐさま心の中で自分に言い聞かせます。 

 

 猫が喋るか?

 答えはノー。猫は喋りません!!

 当たり前なことです。だとしたら答えは一つ、誰か僕に話しかけてる人が別にいる!!


「おいおい! 猫を使って話しかけてくるなんて、ちょっと悪ふざけがすぎるんじゃないか!?」


 大きな声でその誰かに喋りかけます。


「そもそも、猫が人様の言葉を理解するわけないだろ!!」


 そう言った次の瞬間、僕の体は空中を舞っていました。

 

 はて?

 何故、僕の身体は宙に舞っているのでしょうか?


 と思ったのも一瞬。僕の身体はすぐさま地面に墜落し、痛くはないものの不快な感触を全身で味わうハメになりました。

 

 今のはいったい…?

 

 二度目の驚愕で目を白黒させていると、なにか柔らかいもので頬を押さえつけられました。


「いやいや。ボクが君の言葉を理解できないと思われるのは、さすがに我慢できないね」


 そう言って右前足で僕の頬を踏みつけながらキラーンと光る瞳で黒猫は「わかったかい?」と僕に言い放ちます。


 まさか今の事はこの黒猫は起こしたのか……?


 黒猫の金色の瞳を驚愕して見つめます。


 そして、そんな僕を二つの金色の瞳が見つめ返してきて理解しました。

 唐突に。

 理屈じゃなく……もう認めるしかありません。この黒猫は人の言葉を理解して喋ったり、さっきみたいに僕を吹き飛ばしたりできる、普通ではない埒外の存在なんだということを。


 ……はい。と僕がコクリと頷くと、黒猫は満足そうに僕から少し離れてチョコンと座ります。

 そのままなにも話さず僕の方をジッと見つめてきます。

 おそらく起き上がりなさいってことなんでしょう。

 

 僕が素直に起き上がり座る(なんとなく正座です)と、黒猫が喋り始めました。

 

「まずは自己紹介からだね。ボクはミラ。君は?」

「えっと、佐藤博人です。皆からはヒロって呼ばれます」

「ヒロ君だね。じゃあヒロ君、君はもう自分が死んでしまっていることを理解しているのかい?」


 と、唐突に黒猫……ミラさん? は重大な事を話し始めました。


「えっと、はい。まぁ、一応」

 

 混乱する僕をよそにミラさんは立て続けに質問してきます。


「死後どれくらい経っているんだい?」

「死因は?」

「生前の実家はこのあたりなの?」

 

 その一つ一つに答えて、矢継ぎ早の質問が終わった頃を見計らって今度は僕から質問を投げかけます。


「あの……。ミラさんあなたは一体? 僕をどうする……」


つもりなんですか? と言おうとした言葉は結局最後まで言えず、ミラさんの様子を伺うに留まります。

 でもミラさんは僕が最後まで口に出さなかったところも理解して、答えてくれました。


「ボクも君と同じ幽霊さ。猫のね。君には紹介したい人がいるんだ。本当なら土手を上った処で会えたはずなんだけど、君がいきなり全力で逃げ出したりするから、ボクが追いかけてきたってわけさ。

――っと、噂をすれば。おーい! イリヤ!!」


 そう言ってミラさんは僕の後ろの方に駆け出していきます。

 僕が首を後ろに回して見てみると一人の女性がこっちに向かって歩いてきてました。

 途中しゃがんで、ミラさんを腕の中に迎え入れ、そのまま抱き上げながらこっちに歩いてきます。

 遠目からでも凄く綺麗な女性だということは分かりましたが、近くにきて絶句します。

 外国人特有の綺麗な銀色の髪の毛にブルーの瞳。きめの細かい滑らかな白い肌と女性としての魅力を完璧に内包したスタイル。

幽玄の美。

まさに彼女のためにある言葉だと思いました。


 そしてそこで気づきました。彼女の体が僕と同じように薄く透き通っているということに。


「こんばんは。とてもいい夜ですね」

 

そう言って彼女はニコリと微笑みかけてきました。



 この日、僕はお仲間である一匹と一人に出会いました。

 突然幽霊になって始まってしまった僕の第二の人生(?)。もし、始まりがどこだったのかと思い返すことがあるとすれば、一匹と一人に出会ったこの日の夜を思い出すはずです。

ヒロイン一応でました。イリヤちゃんです。

ちょっとだけですけど、次回からはどんどん出番を増やしていきますね。


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