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第3話

こんばんは。もやもやした気持ちを抱え込んでしまった佐藤博人です。


 結局、家に居づらくなってしまった僕は、父が窓を開けた時にスルリと横から抜け出し、ふらふらと賑やかな夜の町の中を歩いています。


 僕の実家のある町は、いわゆるベットタウンで近くにはコンビニしかありませんが、電車で一駅、二分。徒歩でも二十分程度あるけば駅前のそこそこ栄えた隣町に着きます。

駅前には沢山の居酒屋さんが乱立していて、今の時間はどこのお店も大きな声で呼び込みをしていて大変賑やかな感じです。

 

ほっとします。今はこの賑やかな雰囲気の中にいないと、どんどん悪い方に考えがいってしまいそうです……。


駅前の噴水のある広場のベンチに腰掛け項垂れます。


正直、精神的に参っています。

自分はいったい何なのか? どうなってしまうのか? 

考えてもどうしようもないのに、この考えを止めることができません。


そして、そんな考えに没頭してしまっていたからなのか、若いサラリーマンが丁度、僕の腰掛けていた場所と同じところに座ろうとしていて……、

あ……。

と、気づいた時には僕は弾き飛ばされて、地面に寝転がって夜空を見上げていました。

 ……ああ、触覚は感じても、痛覚は感じなくなっているのか……。

 弾き飛ばされた時に打ちつけた頭を擦りながら新しい発見に乾いた笑いが口から洩れます。

空に浮かぶ月は見慣れた半月。周りから聞こえる客寄せの声。急ぎ足で駅に入ってくサラリーマン。仲間内で騒がしく盛り上がっている大学生たち。ギターを片手に夢を歌う若者。


全てがいつも通りの日常で、おかしなところは一つもありません。僕を除いては……。

つい一週間そこそこ前には僕も自然とそんな輪の中に居たはずなのに、そんな営みの輪から弾かれ、幽霊となって地面に一人寝転がっている自分。

 寂しいな……。そんな思いが胸を満たし、いつまでもここでふて寝をしていたい気分になります。

でも、いつまでも寝ているわけにはいきません。このまま地面に寝たままだと、通行人に蹴り飛ばされてしまいますから。

 

僕はのろのろと起き上がり今度は壁際のほうに移動して腰を下ろしました。

 そのままなにを考えるでもなく、ボーっと駅前を行き交う人たちを眺めます。


 どれくらいボーっとしていたのか、ふと気づいた時には駅前の人通りはまばらになっていて、賑わっていたはずの駅前は、まつり後の会場のような少し寂しい雰囲気に変わっていました。

 駅前に設置されているデジタル時計を見てみると時間は深夜の零時半。もう終電もありません。終電に乗り損ねた人たちもマンガ喫茶や深夜の割り増し料金のタクシーに乗り込んだりと一人、また一人と居なくなってついに誰も居なくなってしまいました。


 死んでから眠ることができなくなった僕は夜が嫌いです。家でも家族が全員寝てしまった後は出来ることもなく、ソファーに横になって朝が来るのを待つだけ。時計の秒針が一秒、また一秒と時を刻む音だけが部屋に響いて精神的にきつかったです。

 

 まぁ、ここなら秒針の進む音が聞こえてこないだけ幾分かマシかな?

 そんなことを考えながら地面にゴロンと横になった瞬間。


 ニャー。


 どこからか聞こえてくる猫の鳴き声に首だけ動かしてみると、僕が最初に座っていたベンチに一匹の金色の瞳を持つ黒猫が僕の方に顔を向けながらちょこんと座っていました。


 ニャー。


 また一鳴き。


その黒猫はなにをするでもなくただベンチに座って僕のいる方をずっと見続けています。まるで僕を観察するように……。


……まさかな。


 よく動物には幽霊や超常のものが見えるなんて話を聞きますが、僕が前に読んだ本によると、どうやら猫などが遊んでいる途中で唐突にピタリと動きを止めて部屋の片隅や虚空を凝視する時があるのは、猫の高性能の嗅覚や聴覚が気になる匂いや音をキャッチして、その匂いや音の正体を確かめるために部屋の片隅や虚空といった人間には何もないように見えるところを凝視するのだそうです。そして匂いや音の正体が判り自分で納得すると遊びを再開したりするそうです。

つまり、動物には幽霊や超常のものが見えているのではないか? という疑問は人間の勘違い。事実は好奇心を刺激された動物が謎解きをしているだけ、という話に落ち着くわけです。


 だからあの黒猫もなにか好奇心をそそるものがこっちにあって、たまたま僕がそこに居ただけということなんでしょう。


 まぁ、でもしかし。

黒猫はいまだに僕の方を見続けています。別に僕自身が見られているわけじゃないと頭で分かっていてもなんとなく居心地が悪いです。まるであの金色の瞳は全てを見透かしている。そんな気持ちにさせられます。


 僕はそんな猫の視線から逃げるように立ち上がり、反対側の方に移動して腰を下ろそうとして、そして気づきました。

 

 黒猫が首を動かして、移動した僕をずっと視線で追っていることに。


 なっ!?


 偶然? たまたま黒猫の好奇心をそそるものが自分の移動した場所に移動した? それとも……。まさかそんな……。


 頭の中をぐるぐるといろいろな考えが回ります。


 ニャー。


 一鳴き。


 ビクッ。と僕の体が反応します。

 

……気のせいなんかじゃない。見えてる。あの黒猫は僕の存在を明らかに認識している。


 降って湧いた出来事にどうすればいいのかと途方に暮れていると、アクションは黒猫のほうが起こしてくれました。


 ピョン。とベンチから飛び降りると小走りで僕の居る方とは反対側に走り出して、すぐ止まり、こっちを見て、


 ニャー。


と、また一鳴き。きっとついてこいってことなんでしょう。でも、突然の未知に遭遇した僕の体はまるで動き方を忘れてしまったかのようにピクリともしません。

黒猫が金色の瞳で僕をじっと見つめてきます。


ニャー。


黒猫は最後にそう一鳴きして僕を残して走りだしました。


早く追いかけなければ。という何とも言えない焦りが僕を急かします。でも焦れば焦るほどうまく体は動きません


――くそ。動け! 動け! 今、動けなかったら二度とあの猫には会えない! そんな気がする。だから動け!!


必死に自分の体に言い聞かせます。


そして……。


一歩踏み出した僕はすぐさま弾かれたように走り始めました。黒猫を追って。


これが運命の出会いになるとも知らずに。


遅くなりました。第三話です。


サブタイトルはいいのが思いつかなかったので無理に付けませんでした。

なので今後もいいのが思いつかなかったら多分つけないと思います。


次回ヒロインでますよ! 宜しくお願いします!

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