第2話 幽霊検証
どうも。精神的な苦難に遭遇してしまった佐藤博人です。
燃えつきました。……いえ、体ではなく精神がです。体はとっくに灰になってるんで。
まるでどっかのボクサーのように真っ白になった気持ちで帰りの車に乗り、たったいま実家に帰ってきました。
母は家に着くなりすぐ僕の仏壇に向かい、そこに僕がよく愛用していた遺品を並べてくれます。シェーバー、腕時計、携帯電話、本、…………そして神社恋愛☆巫女服彼女たち戦争。
うっうっうっ。何故? 何故なんですか!? 母さん! こんな処に飾っちゃったらお線香をあげに来てくれる人たち全員にばれてしまうじゃないですかッ! しかも遺影の写真の僕、満面の笑みじゃないですか……。
満面の笑みの横にあるディープな属性のギャルゲー。
これが生前の罪なのでしょうか? 僕はいまある種の裁きを受けているんでしょうか?
あんまりです。こんなのってないよッ…!
仏壇の前から逃げ出した僕はリビングのソファーに腰を下ろし、真剣に成仏する方法を考えています。精神的に一刻の猶予もありません。
そもそも何故、成仏できないのか?
未練? いえ、たぶん違うと思います。家族にゲームを発見されてしまったことが未練になりつつあるような気がしますが、そもそもばれる前から成仏できなかったんですから、きっと違います。
一度発想を変えてみましょう。そもそも幽霊とはなんなんでしょうか?
僕のイメージでは宙に浮いていて、壁などをすり抜けることができたり、理解不能の超常の力で異常現象や呪い的なことをおこしたりと、そんなイメージです。
では、僕はそういったことができるのか?
そういえば死んでから成仏のことばかり考えていて、幽霊的なことは一度も考えたことがありませんでした。
さっそく実験です。
その一。宙に浮く。
何回もジャンプしてみましたが浮けませんでした。
その二。壁などをすり抜ける。
無理です。普通に激突します。
その三。超常の力は使えるのか?
普通に使えませんでした。
その四。物を持つことはできるのか?
触ることは出来ましたが、動かすことは出来ませんでした。強力な接着剤で固定してあるかのように紙一枚動かせなかったです。
その五。人に話しかける。
母に話しかけましたが、まったく気づいてもらえませんでした。
いろいろ実験してみましたが結果は芳しくありません。あ、でも全く無駄だったかというと、そんなことはありません。いくつか解ったことがあります。
その一。僕の体は幽霊らしくうっすらと透き通っているのですが、肌の色などは健康的な感じで幽霊のイメージである青白い肌じゃありませんでした。体がないからなのか影は無く、鏡に映ったりもしません。
その二。どうやらこの幽霊の体は物に触れることは出来ても、その物の行動を遮ることは出来ず、吹き飛ばされてしまうということです。どういう事かというと、例えば僕が先にイスに座っていて、家族の誰かが僕に気づかずそのイスに座ろうとした場合、僕の方が一方的に衝撃みたいなもので吹き飛ばされて、家族の誰かのほうは普通にイスに座ることになります。これは別に人じゃなくても同じみたいで、母が洗い物をしている横で蛇口から流れ出る水に触れようとした時も水に接触した段階で手の方が弾かれてしまいました。
でも動いていないもの。例えば椅子などには普通に座ることが出来ました。
その三。食事、排泄、睡眠。それらの全てが必要ないみたいです。
――っと、こんなところでしょうか? 気づいたらもう窓から見える外は暗くなっていました。たったこれだけ調べるだけでもそれなりの時間がたってしまったみたいです。
台所では母が夕飯を作り始めています。
ふと夕飯を作る母の後ろ姿を見て思いました。
そういえば、母さんのごはんずっと食べてないや……。
一人暮らしを始めた僕はなかなか実家に帰ることをしませんでした。たまに地元に戻ってきても、それは友達と飲むだけで、実家はただ泊まる場所として寄るだけでした。朝起きて母に「朝ごはんどうする?」 と聞かれた時も「朝、食欲ないから」とだけかえして、さっさと自分のアパートに帰っていました。
今思えばあの時の母は、僕の分の朝ごはんを用意していてくれたのかも知れません。だって冷蔵庫に手をかけた状態で僕に訊いてくれていたんですから。
母が料理をしている横から何を作っているのか、覗いてみます。たまに意味不明な創作料理を作る母だけに油断は大敵です。そして作っていたのは……。
餃子。
餃子でした。母の作る餃子は僕の好物の一つで、そこらの中華屋さんの餃子より断然、僕は母の作る餃子の方が好きでした。
いつも沢山食べる僕の為に、母はいつも沢山焼いて晩ごはんに出してくれていました。そしてそれがクセになっているのか、母はもう僕がいないのに沢山の餃子を作っています。
なんだかそれが無性に嬉しくて、無性に悲しくなってしまいました。
母が僕の為に作ってくれていた好物の餃子を、今までと同じように作ってくれているのに、僕は二度とそれを食べることができない。そんな、どうしようもない悲しみが僕の心を締め付けます。
せめて。せめて一言、ありがとう。と伝えられたらいいのに……。
でも、先ほど検証したように、死者である僕の声が生者である母に届くことはありません。
よくドラマや映画でみる幽霊とはあまりに違いすぎる現実。成仏することもできず、かといって幽霊としてできることもなく、ただ、そこにいるだけ。
どうして、僕はこんな中途半端な幽霊になってしまったんでしょうか?
第二話です。
最後が少しシリアス風ですが、目指すはコメディーです。もう少し進んだら主人公のヒロくんも明るくなります。
よろしければ是非、評価や感想を頂ければと思っています。がんばります!




