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第13話

さて唐突では御座いますが、僕こと佐藤博人は只今壁際で絶賛ピンチです。


「おい、てめえ話し聞いてんのか!?」


目の前には 、そう言って凄んでくる一人のイケメンがいます。

その顔の作りたるや、ちょっとやそっとじゃお目にかかれないレベルです。まさにイケメンです。くそぅ。女の子にモテモテなんだろうなぁ。

……すみません。私情が入りました。

と、思わず恨みがましいことを思ってしまうくらいに顔の整ったイケメンことケンさんが僕を敵意のこもった視線でジロリと睨みつけてきます。ヤバイです。ちびりそうです。幽霊ですから排泄なんてものは無いですけど……。


「も、もちろん聞いております。はい!」

「いいか? 先に一つだけ言っておくぞ。イリヤは優しいんだ」

「そ、そうですね! 優しい人ですよね!」

「てめえ、なに分かった風なこと言ってやがる!?」

「ヒィ!」


 僕の後ろにある壁をドンと叩きながらケンさんが距離を詰めてきます。って、ちかい! 顔がちかいよ!?

こ、これがいわゆる壁ドンか!

ただ、少女漫画で見るようなドキドキしたようなものではなく、どちらかというと、狩りものの方ですけど……。もちろん狩られるのは僕です。あ、そんな説明いりませんでしたか?


「イリヤは優しい。それもかなり優しい。まじで優しい。

だからな? 勘違いするなよ? 分かったな? 分かれよ。ゴルァ!」

「はい! 全力で分かりました!!」


 ああ……どうしていきなりこんな展開になったんだ……。

 事の始まりには少し時間を遡ります。



「ただいま戻りましたー」


 イリヤさんがドアを開けて中に入ると、そこには二人の女性と一人の男性がいました。


「おかえりぃ! イリヤー、って冷た!?」


女性のうちの一人、中学生くらいの女の子がイリヤさんに抱きつき、イリヤさんが濡れていたことに驚いた様子で下からイリヤさんを覗き込みます。


「もしかして水の時間にあたっちゃったの?」

「はい。つい先ほど」


イリヤさんが少し困ったように笑いました。

うわー。大当たりだぁー。なんて言う中学生くらいの女子の後ろから


「あれはいつも唐突だもんね」


と言うのは僕たちと同じ年くらいの黒髪ロングの女性です。


「サヤさん」

「おかえり、イリヤ」

「はい、ただいま戻りました。

あ、さっそくご紹介します。こっちの私に抱きついている女の子はアカリさんで、こちらがサヤさんです。男性の方はクロイワさんです。

皆さんこちらの方が昨日話した、ヒロさんです」

「……イリヤ、紹介してくれるのは嬉しいが、まず身なりを整えてきたほうが良い。俺たちは風邪をひいたりしないが、落ち着かないだろ?」


 最後に紹介された男性の……クロイワさんが苦笑しながら着替えをイリヤさんに促します。


「え、でも……」


イリヤさんが僕の方をチラリと見て言いよどみます。


「なにもとって食ったりしないさ。ヒロ……くんだっけ? にもこっちでタオルとか用意しておくから」


しばらく迷うそぶりをみせた後、イリヤさんはコクリと頷き、


「わかりました。それじゃあお言葉に甘えますね。ヒロさんのことお願いします」

「ああ」

「イリヤ―! 早く一緒に飾り付けしようねー!!」


はーい。とイリヤさんは明るく返事をして階段を上って行きました。

ふむ。

どうやら上の階が居住スペースになっているんでしょう。イリヤさんの姿が見えなくなって、改めて辺りを見回してみます。

目に入ってくるのは、リビングの中央に置かれた大きな机と、壁際の暖炉。そして幾つかのソファーです。

どれもこれも別段に変わったものはなく、その他にもごくごく普通の家具や雑貨ものが置いてあるだけです。なんか幽霊が集まってるわりにはアットホームな感じです。


「ヒロくんだっけ? ほら、よかったら使ってくれ」


そう言ってタオルを差しだしてきてくれたのは、先ほどイリヤさんが紹介してくれたクロイワさんです。

身体の大きさもさることながらガタイの良さもあり、すこしビビりながらタオルを受け取ります。


「あ、ありがとうございます」

「ははは。辺りを見回したって特段に変わったものはないぞ?」


みられてましたか。


「まぁ、気持ちは分かる。幽霊なんて存在が集まる場所って雰囲気じゃないもんな」


俺も初めてきたときはいろいろ落ち着かなかったよ。と笑いながらきさくに話しかけてきてくれます。

……あ。この人、いい人だ。


「ねぇーねぇー、お兄さん?」

「はい? えっと、君は……?」

「私、アカリ! アカリです!!」


クロイワさんから借りたタオルで頭を拭っていると(というより、なんで幽霊が濡れたり、頭を拭ったりしているのだろうか? という、ささやかな疑問はとりあえず置いておきます)おそらく中学二年生くらいの女の子が満面の笑みで僕に話しかけてきます。


「お兄さんはイリヤの恋人さんなんですか!?」


そのまんま爆弾発言。


「どこまでイッたんですか!? A? B? もしかして……キャーッ!! もう! 言わせないで下さいよ!?」


なに言ってんの!? 君!!


「いや、ちょっと待って。えっと、アカリちゃん? 君は勘違いしている。僕とイリヤさんは決してそんな関係なんかじゃないよ!?」


 そもそも出会ったの最近だよ? 年齢=彼女居ない歴の僕には数日で女性を落とすのはハードルが高すぎる!?


「とか言って、私みちゃったんですよ? イリヤとお兄さんが二人で手を繋ぎながら階段を上ってくるところを!!」


……あの時か! あの時なのか!? たしかに僕の右手をイリヤさんは引っ張るようにしてコテージの階段を二人で上ったけれども、それは直前の会話の内容にイリヤさん照れ出して、その照れ隠しのためにおもわず手を取ってしまったというのが本当のところなのに!


「男の人と他を繋ぎながら顔を真っ赤にしたイリヤなんて初めてみたよぅ! 」


比喩的な意味で目の中に星を散りばめたかのようなキラキラした瞳と笑顔で女の子がグイッと迫ってきます。

助けを求めて辺りを見回してみるとクロイワさんはやれやれといった感じで片手で顔を覆い、サヤさんは苦笑。ミラさんに限っては欠伸をして前足で顔を毛繕い(?)している始末です。

お願いします。誰か助けて下さい!?

だけども僕の願いは誰に届くこともなく……。


「あれは間違いなく恋する乙女の顔だったよぅ!」

「……おい、それはどういうことだ?」


ドスのきいた声が響き、「え?」と振り向くと其処には両手鍋を抱えたイケメンさんが一人、


「あ、リンちゃん! 聞いて聞いて、イリヤがねぇ~」


楽しそうなアカリちゃんが僕が止める間もなく勝手に話しだして……それがさらなる最悪を呼び込むのでした。

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