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第12話

 どうも。佐藤博人です。

 ミラさんの言うとおり、どうやら僕の慌てすぎなだけでした。

 結果だけ申し上げましょう。僕たちは全員水没しました。が、誰一人何の問題もありませんでした。

 そりゃそうだ。だって僕たち幽霊だしね。いまさら溺れるわけないよね。だって呼吸してないんだもの……。

 水底を歩きながらほろりと一滴の涙が流れた気がします。

 そんな僕をイリヤさんは「私も! 私も最初は慌てましたよ!」と言ってフォローしてくれました。本当はこの人、幽霊なんかじゃなくて、実は天使なんじゃ……?

 まぁとにかく。とにかく僕たちは今、水底をゆっくり歩きながら『ルピナス』に向かっています。

先導するのはミラさんです。その後ろを僕とイリヤさんが並んで歩きます。


「そういえば今向ってる『ルピナス』には何人くらいの僕たちと同じ人がいるんですか?」


横を歩いているイリヤさんに聞いてみます。

あ。いまさらですけど、水中でも会話は何の問題もなくできます。僕たち幽霊は実際に口を動かして喋っているのではなく、意志を相手に直接伝えているので、口がきけないような空間でも会話ができます。


「私とミラさんを抜かして、『ルピナス』には六人の幽霊さん達がいます」

「女子が四人と男子が二人だね」

「皆いい人たちですよ」


ミラさんとイリヤさんが少し楽しそうに説明してくれます。

それがとってもいい笑顔に見えて、


「へー。じゃあ皆、きっと仲がいいんですね」


と言うと、


「なんていうか……家族みたいなものかもしれませんね。血のつながりとかそういったものじゃなくて、もっと……こう……上手く言葉にできないですけど」


家族って言葉を使ったイリヤさんは少し照れくさそうに笑いました。


「どうして……」

「はい?」

「どうしてイリヤさんとミラさんは僕に声をかけてくれたんですか?」


 ずっと不思議に思っていました。どうしてイリヤさんとミラさん見ず知らずの幽霊一人のために、こんなことをしてくれるんだろうって。

僕は別にまだイリヤさんやミラさんの仲間でもないのに、どうしていろいろな事を教えてくれたり、こんなところまで連れてきてくれるのか……。


「寂しそうに見えたから……」

「え?」

「ヒロさんが一人で寂しそうに見えたから、です」


 寂しそうに見えた?


「実はあの日、私とミラさんはやることがあって夜の九時前くらいに、あの駅前の広場にいたんです」

「そこでボクとイリヤは君を見つけた。

その時、君はずっと、ずーっと駅前に集まる人たちを羨ましそうに見つめてたよ。少し悲しそうにね」

「私たちが移動して、何時間たってもヒロさんは同じ場所に」

「ボクがイリヤに教えたんだ。君のことをずっと気にしてたからね。彼が今も居るか見に行ってくるって」

「だからお願いしたんです。ミラさんにヒロさんを連れてきてくださいって」


迷惑でしたか? イリヤさんは首を少し傾げて僕に聞いてきました。


「全然! というより……」


本当になんていうか……。


「ありがとう」


ある日、突然幽霊になりました。

誰からも認識されなくて、誰にも言葉が届かなかった、あの時間。

少しバカなことしたり、思い出に一人で浸かったり。

なにかを紛らわすためにウロウロしていたあの時間。

……本当は寂しかった。この先、自分がどうなってしまうのか不安でしかたなかった。

だからあの日の夜にミラさんやイリヤさんに声をかけてもらえて、とれだけホッとしたか。


「今更なんですけど」

「「?」」


「ミラさん、イリヤさん、本当にありがとうございます。声をかけてくれて……」


不安に押しつぶされそうだった時に声をかけてくれて……。


「本当に。本当にありがとうございます」


今の僕には言葉でしか伝えられないけど。

だからせめて真摯に、伝えないと。


「本当は不安だったんです! だから声をかけて貰えて嬉しかった。ホッとしました。だから本当にありがとう!」


「〜〜〜ッ!」


はて? ボンとイリヤさんの顔が赤くなりました。


「あの、はい。どういたしまして……」


シドロモドロにイリヤさんが言います。


「あ、あの……イリヤさん?」

「ひゃい! なんでしょうか!? ヒロさん!」

「え、いやー。急にどうしたのかなぁ〜、と」


僕の質問にはミラさんが笑いながら答えてくれました。


「あー。気にしなくていいよ、ヒロくん

イリヤはね、照れ屋なんだ。真正面からお礼を言われたり褒められたりすると、すぐ挙動不審になるんだよ」

「違いますよ!? 変なこと言わないでください!

私はいたって普通! 普通ですから!!

それより! ほら着きましたよ!!」


いつのまにかコテージの前に着いていました。

少しわたわたするイリヤさんを見ながら、

次はどんな人たちと会えるんだろ?

なーんて、少しワクワクしながらイリヤさんがドアを開けてくれるのを眺めていました。

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