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街中キャンパス  作者:
13/19

番外3.おせっかいな人

今回は奈月から見た友人・東雲くるみのお話。また独白になっちまった…←

藤野奈月視点でお送りいたします。

 中学時代。

 厳格で冷たかったおとうさんの影響もあってか、そのころのわたしには、愛嬌とか、他人とのコミュニケーション能力とか、そういうものが根本的に欠落していた。

 ほぼ表情を変えることがなくて――ただ単に変え方を知らなかったからなのだが――明るくもできないし、気の利いた喋りすらできない。そんなわたしに近寄る人なんて、事務的な用がある人以外にはほとんどいなかった。

 わたし自身もそれで別にかまわないと思っていた。昔からずっとそうだったし、いい加減こんなことには慣れっこだったから。

 だけど……そんなわたしに初めて、親しげに声をかけてくれた人がいた。

『藤野さん、成績よかったよね。勉強の邪魔して悪いんだけど、ちょっと分からない所があるんだ。教えてもらってもいいかな』

 大きな茶色の瞳をくりくりとさせながら、人懐っこそうな笑みを浮かべる彼女。可愛らしい声を紡ぐつやつやとしたサクランボのような唇からは、リップクリームでも塗っているのか、とても甘い香りがする。明るい茶色のボブカットが、彼女の動きに合わせてふわふわと揺れ、彼女の活発さを際立たせるようだ。

 あぁ、とわたしは思った。

 彼女は……よく中心となって、積極的にクラスを引っ張っている子だ。クラスのみんなも彼女のことは信頼しているようで、よく相談事を持ちかけていたりするのを見かける。

 そう。名前は確か……東雲くるみ、といったっけ。

 なるほど、色々とうまい世渡りの方法を知っていそうだ。実際教師たちからの受けもいいようだし。それに今時の女の子、といった感じで友達も多そうだし、話題の中心にもたやすく上っているようだし。

 しかしそんな彼女が、何故わたしなんかに声をかけているのだろう。わたしの存在など、知らなくても何ら不思議ではないはずなのに。

 不審に思って辺りを見回してみるが、みんなこちらの方には興味もない様子。どうやら仲間内で催された、ジャンケンか何かの罰ゲームでわたしに……などということではなさそうだ。

 まだちょっと疑わしいところはあるけれど、とりあえず答えておくこととしよう。

 そう冷静に分析し、わたしは彼女に向かってぶっきらぼうに言った。

『……どこがわかんないの。見せて』

 ――これが、彼女との最初の会話だった。


 それ以降、わたしの何が気に入ったのかは知らないが、彼女はたびたびわたしに勉強を教えてほしいと言ってくるようになった。

 最初はただ単にそれだけの関係だったのだけれど、だんだんそれ以外でもわたしと彼女は一緒に過ごすことが多くなって……呼び方も最初は『藤野さん』『東雲さん』だったのが、いつからか『奈月』『くるみちゃん』なんて呼び合うようになっていた。

 くるみちゃんは気さくで、わたしに対しても細やかに気を配ってくれた。わたしが話さない時には楽しい話をして盛り上げてくれたり、わたしが話をする気になったときは、黙って相槌を打ちながら聞いてくれたり。

 その辺にいる同じような派手な女の子と、くるみちゃんはどこか違っていて……一緒にいて、とても安らぐことができた。

 そのころ母親の存在を知らなかったわたしだけど、それでもそんな彼女の姿は、どことなくおかあさんに通じるような気がしてならなかった。

 三か月ほど経った頃には、学校以外でも会うようになっていた。

 だけどおとうさんが『友達を作る』という行為自体に反対していたので、おとうさんに隠れて会わなければならず……人の多いところには遊びには行けないため、街中の奥にある人気のない喫茶店が主な拠点となっていた。

 それでもわたしは十分だった。くるみちゃんも『奈月と一緒にいられるだけで楽しいからいいんだよ』と言ってくれた。

 おとうさんが亡くなってしまったことで、高校は離れてしまったけれど……それでも、わたしとくるみちゃんの交流が途切れることはなかった。


 ――思えば、わたしがまた笑えるようになったのは、このおせっかいな友人のおかげでもあったのかもしれない。

 確かに当時のわたしの笑顔は、まだまだだった。顔が強張って、思うように動いてくれなくて……『怖い』って言われても、仕方ないくらい。現に、くるみちゃんにも苦笑されたし。

 この後わたしが自然にちゃんと笑えるようになったのは、別の人の尽力があったからなのだけれど……まぁ、この話は割愛しよう。

 だけどね、くるみちゃん。

 わたしがまた笑ってみようって思えたのは、くるみちゃんがいてくれたからなんだよ。くるみちゃんがあの日――たとえほんの気まぐれであったとしても――わたしに声をかけてくれたあの日から、わたしの変化は始まっていたんだよ。

 わたしが救われるきっかけになったのは、くるみちゃんの存在なんだよ。


 だからね……今度はわたしが、くるみちゃんを救ってあげたいの。


 いつも人のために頑張ってくれるくるみちゃん。

 いつも自分のことは全部後回しにして、人のことを一番に優先しようとする。人が幸せになるためなら、どんなことでも惜しまずやろうとする。たとえそれが、自分にとって不利になるようなことであったとしても……構わないとすら思っている。

 そんなくるみちゃんは、当然のようにみんなから愛されていた。きっと昔から……ずっと、そうだったのだろう。出会った時の彼女が、すでにそうであったように。


 だけど……それを間近で見ていくたびに、わたしは苦しかった。

 いつかくるみちゃんが壊れてしまうんじゃないかって思って、怖かった。


 そして案の定、蓮さんに恋をしていると自覚したくるみちゃんは悩み、苦しみ……こちらからもはっきりと分かるほどに、音を立てて壊れていった。

 それをわかっていながら、わたしはただ見ているだけで……どうすることもできなくて。

 あなたの手を、つかもうとしてもつかめなかった。

 だってほかでもないあなた自身が、救いを求めようとは……その手を伸ばしてこようとは、決してしなかったから。

 限界を超えて倒れてしまうまで、くるみちゃんは誰にも――きっと誰にも、助けを求めようとしなかった。


 だからわたしは思ったの。

 いくら待ってもその手が伸ばされてこないのならば、無理にでもこちらから掴んでしまえばいい、って。

 助けを求める叫びが聞こえてこなくても、助けてあげればいい、って。


 それはやっぱり、おせっかいになるのかな?

 ……別にいいよね。お互い様だもの。


 くるみちゃんが倒れた時、『してほしいことがあったら何でも言って』って言ったけど……くるみちゃんはきっと言ってこないだろうな。これからもいろいろ我慢して、あっさりと限界を迎えちゃうんだろうな。

 だけど、ちゃんと助けるから。

 無理やりにでも、その手を掴んで引っ張ってあげるから。


 わたしは誰よりもおせっかいなあなたの、誰よりもおせっかいな友人になってみせるよ。かつてあなたがわたしの恋に首を突っ込んで、まっすぐなアドバイスをくれたように。


 まぁ、蓮さんが傍にいれば、わたしが改めて何かする必要はないのかもしれないけど……それでも、ちょっとくらいは頼ってくれたら嬉しいな。なんて。

独白話は書くのが楽なので、つい重宝しちゃいます。うーむ。

また一部『街外れの塾にて』を読んでいただかないと分かりにくい部分があるかもしれません。奈月が割愛した詳しい部分を知りたい方は、ぜひぜひ読んでみてください(ちゃっかり宣伝)


そろそろアレですね…くるみと蓮の子供時代の話なんて、書いてみても面白いかもなぁ…しかし誰視点にしようか迷う。

また『街外れの塾にて』からゲスト呼んじゃおうかな…ふふふ←


さて、今回の題名はルコウソウの花言葉。

ルコウソウとはヒルガオ科サツマイモ属の多年草…ですが、非常に寒さに弱いため、園芸では春蒔き(つまり春に種を蒔くっちゅーことです)一年草として扱われているようです。

星形の小さな花が咲き、色は赤、白、ピンクなどがあります。葉っぱはアサガオの一種であるマルバアサガオに似ているのだとか。

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