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街中キャンパス  作者:
1/19

1.あなたの助けになる

一番初め、冒頭の部分です。

若干説明臭くなってしまった感はありますが、頑張って読んでほしいなぁ…なんて思ってます♪(←黙れ)

 夕方、街中のとある中堅大学にて。

 人気のない校舎裏に、一組の男女が向かい合って立っていた。

 落ち着いた雰囲気の青年が、ふんわりと優しく微笑む前で、女の子の方は緊張しているかのように縮こまり、しばらく黙ってうつむいていた。艶のある長い髪が夕日に照らされ、キラキラと輝いている。

 やがて彼女は意を決したように顔を上げると、青年をまっすぐに見ながら震える声で言った。

「あのっ……あたし、青柳(あおやぎ)先輩のことが好きなんです!」

 青柳先輩と呼ばれた青年――青柳(れん)は一度にっこりと笑って、

「ありがとう」

 と言った。しかしその笑顔は、みるみる哀しさを孕んだものへと変わっていく。

 そのまま静かな声で、彼は続けた。

「……だけど、ごめんね。僕は、君の気持ちに応えられない」

 女の子は時が止まったかのように、少しの間動かなかった。

 それから……がくがくと両足を震わせたかと思うと、ゆっくりと崩れ落ちた。夕日に照らされた長い髪がその動きに合わせて宙を舞い、震える彼女の背中に一房ずつ、はらはらと落ちていく。

 彼はやっぱり哀しそうに微笑みながら、そんな彼女を見ていた。


 ――その一部始終を校舎の陰からこっそり覗いていた東雲(しののめ)くるみは、落胆したように肩を落とし、深いため息をついた。

 唇をかみ、至極悔しそうな声でぼそりと呟く。

「……っ、また駄目か」


    ◆◆◆


 くるみは昔から面倒見がよく、皆をまとめるリーダー的存在だった。

 ゆえにあれこれ相談を受けることも多く……中でも特に多い相談が「好きな人がいる」というものだった。

 くるみはそのたびに相手を調べ上げ、どうやったらうまくいくかをレクチャーし、二人を近づけ……最終的には付き合うようにうまいこと仕向けていく。要は、恋のキューピッドのようなことをしていた。

 その成功率は、およそ七十パーセント。なかなかの実績を誇っているので、女子からの評判もいい。

では、上手くいかない残り三十パーセントは何なのか。

 それは単に運が悪かったとか、そういった安直なものでは決してない。原因は、全てある一人の青年にあった。

 くるみの失敗の責任を全て負うべき男――と、くるみは密かに呼んでいる――こと青柳蓮はくるみより年上で、大学の先輩にあたる。最近の若者にしては非常に落ち着いた性格で、礼儀正しくしっかり者の好青年。おまけに容姿もそれなり……となれば当然、周りの女の子たちにとってはあこがれの的となる。

 現に「好きな人がいる」とくるみに相談してくる女の子の実に三割ほどが、蓮の名前を挙げる。昔からずっとそうだった。これまでくるみが引き受けてきた中では最多といっていい。

 くるみは最初から調べるまでもなく、蓮の情報だけは余すところなく持っていた。理由は単純明快。くるみと蓮は幼馴染で、小さいころからずっと一緒にいるからだ。蓮のことなら、誰よりも理解している自信さえあった。

 ……にもかかわらず、である。

 くるみがどれだけ手をかけても、蓮に告白した女子は何故か必ずと言っていいほど玉砕する。色仕掛けをさせてみようが、ドジっ子キャラで攻めさせてみようが、純粋キャラで売りつけてみようが、無駄だった。

 思えば小学校時代――正確に言えば、人間が初恋を抱き始める時期――から、ずっとそうだった。彼のせいで初恋が散った、という女の子もたくさんいる。

 くるみはその現場を、全て見てきた。あの頃から一体彼は、通算何人の女の子を泣かせてきたことだろう。

 そのくせ自分から告白したり、彼女を作ったり……という噂も聞かない。そんなそぶりも見せない。まぁ、わざわざそんなことをしなくても、蓮ならば勝手にその辺から寄ってくるに決まっているのだが……。

 しかし何故、蓮はいつもそうなのだろう。

 くるみは蓮のことなら誰よりも理解している自信がある。が、その点だけはどうしても理解できないし、考えてもわからなかった。


 つまり……くるみのキューピッドの成功確率は、実質百パーセント。ただし蓮に対する告白だけはゼロパーセント。それを平均するとだいたい七十パーセントになる、というわけだ。


「うぇぇぇん……くるみちゃあん」

 先ほど玉砕した女の子が、泣きながらこちらへ戻ってきた。可愛らしく化粧された顔は、涙で見事なまでにぐちゃぐちゃになっている。

美咲(みさき)、泣かないで」

 哀れな彼女の肩を、くるみは壊れ物を扱うようにそっと抱いた。

「ごめんね、くるみちゃん……せっかく、協力してくれたのに」

「気にしないで。美咲は全然悪くないんだから」

 優しい声色で励ます。

「帰り、どこかで食べていこうか。あたし、おごるよ」

「うん……ありがと、くるみちゃん」

 ぐすぐすと鼻を鳴らす彼女の肩を抱いたまま、くるみは日が沈んでいく校舎を出るために歩き始めた。


 ――すっかり日が沈んだところで、二人は大学の近くにある少しばかり古びた店に入った。『お好み焼き屋』と書かれたのれんをくぐり、手ごろな席に座る。夜だからか、いつもより人は少なかった。

 注文を入れると、十分ほどで特大サイズのお好み焼きが二枚やってきた。間髪入れずに、女二人で食べ始める。

 女の子――美咲はすっかり泣き止んでいて、がつがつと文字通りお好み焼きにがっついていた。これが俗にいう『やけ食い』というやつだ。この様子なら、きっと立ち直りも早いだろう。

 くるみも同じようにお好み焼きにかぶりつきながら、頭の中では全く違うことを考えていた。

 いつも疑問に思ってはいたのだ。しかしそのたびに『次こそはうまくいくから大丈夫』なんて自分に言い聞かせて、先延ばしにしてきた。

 けれど……これ以上被害者を増やすのは、あまりにも彼女たちがかわいそうすぎる。蓮自身のためにも、よくないことだ。

 そろそろ皿を空にしそうな目の前の美咲を眺めながら、くるみは密かに決心を固めていた。

 やっぱり単刀直入に、本人に聞いてみるべきだ。

 蓮はどうして、彼女を作らないのか。

さぁさぁ始まりました、エセ大学が舞台のエセラブコメ!(←何のこっちゃ)

前作『街外れの塾にて』のスピンオフ作品となりますこのお話は、わりとゆったり進んだ連作短編集形式の『街外れの塾にて』とは違う感じの、ポップな青春系恋愛小説にしていこう!というコンセプトのもとで執筆しております。

これぞ連載物って感じですが。一応プロット自体はすべて完成しているので、何日か途切れはしても、途中で終わっちゃうとかそういうことはないと思います。

頑張ります。


今作も引き続き、サブタイトルに花言葉を使用しております。

初回となる今回の題名は、ムラサキケマンの花言葉。

ムラサキケマンとはケマンソウ科キケマン属の越年草(発芽してから一年以内に花が咲き、種子を残して枯れてしまう植物のこと)で、漢字では『紫華鬘』と書くそうです。やたらめったら難しい字ですね…肉筆で書くのは絶対無理そうです。


それから…何とこのムラサキケマン、毒を持っているそうですよ~。間違って口にしてしまえば、嘔吐・心臓麻痺といった症状を起こしてしまうそうです。怖いですね。

ちなみに植物体に傷をつけた時に出る汁は、ひどい悪臭がするそうです。きっと毒の臭いなんでしょう。


バラに棘があるのと同じように、ムラサキケマンには毒があるのです。

美しさとリスクを併せ持つ花には、何故か惹かれてしまいますね。

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