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誘いを受ける

明日は金曜日。放課後は委員会だし美織を追い掛ける事が出来ない。しかも最悪な事に土日を挟んで月曜日を終えたらゴールデンウィークだ。

このまま連休に入るのは私の精神衛生上どうしても避けたい。

あの後家に帰って何度か電話やメールをしてみたが、美織と連絡が取れる事はなく私は一人ベッドに潜って沈んでいた。

こんな事になるならさっさと話せばよかった。自分が傷つく事を恐れて友達を傷つけるなんて最低だ。

明日は誰の呼び出しにも応じないぞ、と一人心に決める。そのタイミングでメールを告げるバイブ音が耳に入り、私は携帯に飛びついた。


『明日時間ある?』

『ありません』


多嶋からのメールに三秒で返信を返す。決意を決めた途端にメールを寄こすとは流石多嶋、相変わらず神がかった間を持つ男だ。


『はえーよ!じゃあ明日委員会の後一緒に帰ろうぜ!おやすみ!』

「勝手に決めんなよ!」


帰って来た自己完結メールに思わず部屋で一人突っ込んでしまった。嫌な予感がする。今日片倉を連れて現れたことからどうせ明日も奴に関することなんだろう。

ここでごねた所でどうせ帰り道は途中まで同じなのだからと押し切られるのは目に見えていたので私は起こした体をはぁ、と息を吐きながら脱力させて突っ伏す。

ああもうやだ。学校行きたくない。何にも考えたくない。

ふ、と片倉の言った一言が蘇り、私は拳を布団に叩きつけた。

“友達”。

何でこんなにイライラしてるんだろう。()()に望んだことなのに、私がそうしろと言ったことなのに。

今日多嶋に引きづられる片倉は年相応に見えた。傍から見てもごく普通の友達のじゃれあいだった。

私は確かに彼にそうなることを望んだのに、何故こんな感情が湧きあがるんだろうと自分で自分が分からない。

羨望?嫉妬?

過去から解き放たれて一歩踏み出した片倉に?

それとも、過去(わたし)から離れて行く光景に対する怒り……?


「ありえない」


ありえる訳が無い。()はそういった感情を片倉に抱いてはいない。そもそも私は奴のように過去に囚われていないのだから、本来ならばやっと“片倉光景”になろうとしている片倉の事を喜ぶべきなのだ。

これは、この感情は“奈津”のものなのだろうか。

本当に忌々しい。全て忘れてしまいたい。

でも、知ってしまったからそれもう許されない。カルマの報いを受ける時が来たのだから、私はそれを受け入れなけばならない。


「昨日からみおりん、なんかおかしいよね?体調悪いって言ってたけど、なんか私らのこと避けてるっていうか……」

「……ごめんなさい。私の所為です」


今日もHRや授業が終わるなり飛び出していく美織を本気で心配する楢崎と千夏ちゃんに黙っている訳にはいかなくて、私は正直に告げた。


「私がちゃんと話さなかったから、こじれちゃって、それをどうにかしたくて話す機会を窺ってるんだけど、見事に逃げ回られておりまして……」

「……そういう事か。うーん、みおりんの性格的に一回逃げたら合わす顔がなくって引くに引けなくなったって感じもしなくないし、後で私からちょっと声かけてみるよ」

「うん、ありがと千夏ちゃん」

「私も!私も行く!」

「楢崎が来ると余計に逃げられる気がするからあんたはなっちゃんと教室で待機」

「了解であります!隊長!」

「よろしい」


昼休み、そそくさと教室を出た美織の後を長い脚ですぐに追い掛けて行った千夏ちゃんにひとまずはお任せして、私は珍しく真剣な顔つきで二人が出て行った方を見つめる楢崎に視線を移した。


「なんか、ごめんね。本当にいつも迷惑かけてばかりで、空気も悪くしちゃって」

「ほんとにね」


うっ。

いつものように笑い飛ばしてくれるだろうと勝手な甘えが心の中にあった分、率直な楢崎の返事に私の心は抉られた。

お怒りはごもっとも、何も返す言葉がございません……。


「まあでも」


沈む私の頭に手をのせ、視線はそのままで楢崎が呟く。


「人生大なり小なり色んなことがあってさ、なっちゃんはそれが今に凝縮されてきちゃったのかもね。

こうなっちゃったもんは仕様が無い。

みおりんの事は心配だけど、今はとりあえず、千夏に任せよう」

「……うん」


楢崎とあまり会話のないまま二人で扉の方をチラチラと気にしながら昼休みを過ごしていると、不安げな表情で教室を覗きこむとある人物が目に入った。

いやな予感しかしない。

控えめに顔だけを教室に入れていた伊村さんだったが、私の姿を発見するなりあからさまにほっとした様子を見せ、こっちに来てくれないかなオーラを漂わせたので私は仕方なく席を立った。


「伊村さん。どうしたの?」

「度々ごめんね。あの、昨日市原さんと会えなかったでしょ?それで今日、放課後もう一度時間を貰いたいんだけど……」

「悪いけど、放課後は委員会があるから行けないんだ。

……昨日も思ったんけど、どうして市原さんの用事を伊村さんが取りつけるの?」

「えっ?あの、佐奈ちゃん、市原さんと私、班とか一緒で、塾も同じで、あんまり断れなくて……その」


用はうまく使われてるってことか。

と、はっきり目の前の彼女に言う訳にもいかないので、曖昧に笑って話を流す。

それにしてもその市原さんとやらは、こんな風に人を使ってる時点で好感が全く持てないばかりか、何様なんですかといいたくなる輩だ。

小早川さんのように真正面からぶつかって来る分にはこちらからアクションを返せるけども、こんな風に人を寄越すやり口は釈然としない。


「とにかく、今日は会えないって市原さんに伝えて貰える?というか、昼休みに彼女が来るのはだめなのかな。丸々潰れるのは痛いけど、言いたいことがあるんなら聞くから」

「ご、ごめんね、ごめんなさい。あの、失礼します」


少し泣きそうな顔で走っていった伊村さんに若干の罪悪感を抱きつつも、憮然とした表情で席に戻ると、一連のやりとりを見ていた楢崎がうーんと頭をひねっていた。


「伊村さんは、たぶん外部の子だよなあ。市原ってのは……うーん、内部にそんな奴がいたような、確か、少しぽっちゃりで、小柄の…」


伊村さんは、髪がくるっとしてて目がぱっちりしてる子と言っていた。

ちょっと待て、そんな奴、私見たぞ。


「………………あいつだ」

「え?知り合い?いつ知り合ったの?」

「……全部合点がいったわ。ようやく話す気になったのか」

「待って待って説明プリーズ!」


市原佐奈とはたぶん、私にこまごまとした嫌がらせをし、高場さんを探していたあの時に嘘情報で私を図書室まで走らせてくれたあの女子の事だろう。

パズルのピースが埋まり一人納得した私は、叱られる覚悟で楢崎に嫌がらせの件を伝えた。


「いや実はさ、私少し前からほんと全然ダメージを食らわない程度のせせっこましい嫌がらせを受けてて、たぶんその犯人」

「なんっっぞそれ!!きちんと言えっつっただろうが!!」

「申し訳ありませんでした。本当にちっちゃすぎてもはや嫌がらせというレベルのものでもなかったからさ……。『バーカ!』って丸文字で書かれた紙が丸めて机に突っ込まれてる程度の……」

「…なんか残念な奴だね、色々と。

で?やっぱり放課後行こうとしてるでしょ」


じと目で見られ、私は自分でも分かりやす過ぎるだろと突っ込みたくなるほど、うぐっと詰まる。もう完全に私の言葉を信用していない楢崎はこちらをひと睨みした後、携帯を取り出してメールを打ち始めた。


「えーと、一人で、大丈夫だよ?」

「いや、私も残る。今松太に先帰っとくようメールいれたから。向こうだって伊村さん引きこんでんだから二人には二人でしょ。これ、ケンカの鉄則」

「ケンカしに行くんじゃないから!」

「なっちゃんはそうでも向こうはそうじゃないかもしれないってこといい加減学習しろ!また怪我したらどうすんの!?倒れたら!?ちょっとは友達信用しろって!」


楢崎の一喝は、もう一度私の心を抉っていった。皆に心配をかけたくなかったから、だから私は一人で立ちまわっていたけど、それがまさかそんな風に思わせていただなんて思ってもみなかったのだ。

美織も、そうだったのかな。

私に信用されてないって、だから話して貰えないんだって……。


「うわあああああああああああ、私もうしにたい」

「許さん。責任とってもっと私らをイベントに参加させろ」

「ごめん、皆の事本当に信頼してます。大事に思ってるよ。ああもう私、馬鹿でごめんね」

「気付いたんならよし!まずは今日、一個片付けるからね」


やっといつもの笑顔で笑った楢崎に勇気づけられた私は伊村さん、または市川さんにやっぱり放課後会いますと伝えるべく二人で教室を出た。

しかしあれだ。二人ってどこのクラスなんだ。

ぼけぼけな私に代わって廊下を行きかう生徒に声をかけた楢崎は「市原さんって何組だっけ?」と聞いてくれた。流石の顔の広さ。パイセンパネエっす。

あれー楢崎って市原さんと仲良かったっけ云々カンヌンと顔見知りらしい女子と話す楢崎を後ろからひっそりと見守っていると、小走りで廊下の奥から伊村さんが走って来た。


「あっ」

「あ、あの、新澤さん、何度もごめんなさい。い、市原さんが、今日委員会終わりでもいいから会えないかって、待ってるからって」

「あの、はい。ちょうど今やっぱり会いますって伝えようと思ってたとこで……。どこに行けばいいかな?」

「えと、体育館倉庫の前で待ってるからって」

「分かった」


本当に皆何かにつけ体育館の裏辺りに集まるの大好きだな。

話がまとまりほっとした表情で去って行った伊村さんを見送り、振り返る。友達と談笑しつつも視線だけこちらによこしていた楢崎と目が合ったのでなんとなく頷いてみせると、楢崎は何故かウィンクを返して来た。


「きもっ」

「おいなっちゃん今なんて言った!」


ともかくも、放課後、頑張ろう。




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