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本音とともだち


「なっちゃん、ちょっと」


昼休み、珍しくまじめな顔で楢崎に呼び出された私はほのかな息苦しさを喉に感じながらその背中を追う。

楢崎は四階の廊下奥のまで行くと、奥の窓に手をかけ外に飛び降りた。突然の事に驚き慌てて窓から身を乗り出して外を見降ろすと、一メートルほど下で小さくうずくまりこちらを悪戯っぽい笑みで見上げる楢崎と目が合い、私は安堵のため息を吐くと共に思わず大きな声を出してしまった。


「馬鹿!何考えてんの!びっくりするじゃん!!」

「へっへー。ビビった?ここ穴場でさ。昔はよくここでサボったんだ」

「やっぱりヤンキーじゃん」

「だから違うって!中学生なんてそんなイキモノでしょ!」

「それこそ違うと思うけど」


窓枠にかけていた手をひかれて、誘われるまま私も思い切って窓から飛び降りる。あれ、でもこれ帰りどうやって帰るんだろう。もしかして、今度はよじ登るの?

そんな不安気な顔をした私をもう一度楢崎がくつくつと笑って指で右の方指し示した。首を伸ばして窺い見ると、そこには屋上へと伸びる梯子が取り付けられており、楢崎は慣れた様子でそこを上っていく。隠そうともしやがらない真上のアメコミ柄のパンツを複雑な思いで見ながら梯子を登りきり、初めて来る屋上を見渡した。


「でもなんであんなところに梯子が?」

「さっき降りた所に配電盤?みたいなのがあってたまに点検とか来てるんだよね。おっさん達は屋上から降りて点検してるんだけど、生徒に知られると格好のサボり場になるでしょ?だから屋上からはその梯子が見えないようになってんの」

「ふうん…。っていうか屋上に来た所で出られないんじゃないの?カギかかってるし!」

「だいじょーぶ!そこは私に任せとけばなんも心配いらないから!それより」


楢崎に任せるなんて心配しかないが、そんな軽口をたたく雰囲気ではなくなった声のトーンに、私も身を硬くする。


「座ろう。話がある」

「…うん」


四月末とはいえまだ風が冷たい。私たちは日向に並んで腰を下ろすと楢崎は空を見上げる。私は足元に散らばるすっかり茶色く変色してしまった桜の花びらを見つめながら言葉を待った。


「なっちゃんさ。最近片倉と毎日帰ってるみたいだけど、なんで?」

「………なんでって、別に、友達だし、変な関係じゃないよ」

「友達って…。じゃあ片倉よりももっと前からの友達である私たちになんで隠すの?コソコソするみたいで感じ悪いよ」

「………ごめん」


思い沈黙に俯いて上履きの先を見つめてたが、やがて楢崎が気まずそうな声を出したので恐る恐る横目でその表情を窺い見る。楢崎は私と違って真っすぐにこちらを見ていて、後ろめたさに思わず視線を外してしまった。


「…最悪私らにはさ、別にもういいよ。でも、みおりんは違うじゃん。今まで一番なっちゃんの事心配して、まもってきたじゃん。今だって、なっちゃんの様子が変だって気付いてるけど、何にも言わないのはなっちゃんが言ってくれるのを待ってるんだと、思う」

「………ごめん」

「それは、何のごめん?『言わないでごめん』?それとも『ごめん、言えない』?どっちのごめんでも納得はいかないけど、どちらにしろ謝る相手が違う。

片倉が友達っていうんなら別にそれでいいよ。つーか付き合ってても、それでもいい。止める権利は誰にもないし、でも、一言が欲しい。友達だからさ、私も不器用で、空気読めないけど、心配してるんだよ。私だけじゃない、皆そうだ」


言えるわけない。前世で私が光景を縛ってしまったから彼の願いを少しでも叶える為傍にいますなんて、私がもし友達に言われたら引くし、訳わかんないと思う。幻滅、するかもしれない。

どんな言い訳が通じる?どんな嘘なら納得してもらえる?私は折角出来た友達を失いたくない。


「…奪っておきながら、自分だけ失いたくないなんて、やっぱりずるい事なのかな」

「…どういう意味?それって例の“約束”と関係してんの?」


楢崎の問いかけに答える事が出来ず、ただ首を振った私はもう一度ごめんと呟く。楢崎の目は、見れなかった。


「………頼りないかもしんないけどさ、力になるし、相談にだってのるし、今じゃなくていいから、私じゃなくていいから、言ってよ。独りで抱え込まないでよ。それなっちゃんの悪いところだよ。

失いたくないんなんて大切なものなら尚更思うのが当然じゃん!悪いことをしても、取り返しのきかないことなんてない!」

「あるよ!」


こんな感情楢崎にぶつけたってしょうがないって分かってる、のに、止まらない。嗚咽のようにせりあがってくる感情をそのままみっともなくぶちまける。両手で顔を覆っているから楢崎の表情が見えないのが怖かった。でも、止まらなかった。


「どうしようもないんだよ!私が、私がやらなきゃ苦しむ人がいて、私が間違えたから、私があんな事言ったから、だめにしたんだよ!人の人生だめにして、それなのに取り返そうなんて、したくてもできないよ!」

「だめなんて、誰が言ったんだよ!たかがなっちゃんごときのひと言でだめになる人生ってなんだよ!言葉なんて相手の受け取り次第でどうにでも解釈できるし、言っちゃったんなら撤回すればいいだろ!」

「撤回なんて、そんな無責任なこと出来ない!」

「責任なんてなっちゃんが勝手に感じてることじゃん!相手に責任取れって言われたの?それにしたって今なっちゃんがやっていることは間違ってると思うし、やってしまった事と自分の感情は別物じゃん!

私だって松太に色々迷惑かけたり、嫌な事とかどうしようもない事言ったりしたりしちゃうけど、反省するよ!反省して、謝って、仲直りして、気を付けるよ!人との信頼ってそういうことじゃん!信じてもない相手に勝手な償い押しつけたって意味ない!!」


いつもは聞いていて気持ちのいい正論な楢崎の啖呵だが今はただ、胸がいたい。

私のしている事が押し付けなら、間違いなら、一体何が正解なの?私はどうしたらいい?

声をあげて泣きたい気持ちだけど、そんなずるい行為は私を思ってくれている楢崎の前で出来るはずもなく、噛み締めた唇から鉄のあじがした。


「………言い過ぎた、ごめん」

「…楢崎は何も間違ったことなんて言ってないよ。謝る必要なんてない」

「ある。私はバカだから、直線でしか物事考えらんないけど、全く違う人間が生きてるんだからそれが全てじゃないんだってよく千夏からも言われる。

…今だって、なっちゃん苦しんでるのわかるのに私、追い詰めた」


むしろ私より泣き出しそうな楢崎に先ほどとは違う意味で泣きたくなった。追い詰めたのは私のほうだというのに。

片倉と菅先生のいくつもの生を私の所為で無為にしてしまったのだとしたら、ここで楢崎を突き放して私は独りになって全てで償うべきなのかもしれない。

だけど、となりで私の為に泣きそうになりながらも必死になってくれている友達を否定する為の言葉など発する事が出来る訳もなく、私はもう一度ごめんとつぶやいた。すると楢崎はまだ言うかとばかりに眉を顰めて鋭い目つきでこちらを見たが、私は顔を上げて首を横に振る。


「心配掛けてごめんの、ごめん。…少し、頭の中整理するから。それで、ちゃんとまとまったら絶対話すから、だから、待っててくれると嬉しい。

私も今、何をするのが正解でこれからどうしたらいいのか分からないまま行動してて、でも、そんなんじゃ何にも解決しないよね。だから、えっと、とりあえず美織には私からちゃんと話をするから、それで、何かいい方法が思いついたら、皆にも報告する」

「…わかった。でも私は気が長くなんてないし、ああみえて千夏だってそうとうモヤモヤしてるからね。校舎裏に呼び出される前に私に優しく呼ばれたこと、感謝してよね」


ニヤ、と悪戯っこの様ないつもの楢崎の笑顔に、私も自然に口角が上がる。

冷たいコンクリートの上に長い間座っていた所為で冷えてしまったお尻をはたいて私たちは立ちあがると、屋上のドアに向かって歩いた。


「そういえば、任せとけとか言ってたけどどうやって出るの?屋上って鍵かかってたよね?やっぱりあの窓登るの?」

「ふっふーん。ここの屋上は鍵がかかってるんじゃなくて壊れてんの!だからコツさえ知ってれば誰でも開けられるんだよ!」


そう自慢げに言った楢崎はドアノブを両手で掴むと体ごとノブを扉に押し付け、ぶら下がるような格好で下にひいた。


「今だ!なっちゃん引いて!」

「え!?」


楢崎の手の上から私もドアノブを掴んで引っ張るも、扉はびくともしない。誰も見ていないしと足をあげて横の壁につく格好で私も体重をかけながら扉を引くと、ずず、と鈍い鉄のこすれる音とともに少しずつ扉が開いた。楢崎もぶら下がるのをやめて二人で歯を食いしばりながら引っ張ると人がギリギリ通れるくらいのスペースを確保できた。


「はあ、はあ、なんで、こんな事になってるわけ…」

「…いや、うわさによると、はあ、さぼりが見つかったある生徒が、扉をタックルで閉めたら、こんなややこしいことに…、はあ」

「っていうかそれ絶対楢崎でしょ!!」

「さあ昼休みが終わるといけないから教室に戻ろうなっちゃん!」


急に元気よく隙間に体を滑り込ませた楢崎に続いて私も額の汗をぬぐって続く。というか、開けたからには閉めるんだよね、これ。


「さあもうひと頑張りだよ!」

「まじふざけんなよ、楢崎!」


さっき言ってた配電盤を点検するおじさんたちも毎回数人がかりでこの作業をしているらしい。





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