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呆れ顏


小さな嫌がらせは翌日も続いた。

放課後に上履きを持って帰った為ぬらす事が出来なかった代わりなのか、濡れた雑巾が中に入っていたり、社会の教科書の偉人達が皆太いもみあげと立派なヒゲが書き加えられていたり。体操着が裏返されているのはまだいいとして、ノートに書いた私の名前が全て“新澤ぴー奈っ津”とされていたのは地味に困った。提出しなければいけないノートもあるのだ。小さすぎる嫌がらせに呆れながら修正ペンで“ぴー”と“っ”を全て消した。


次の日の昼休み、うちのクラスに小早川さんと志倉さんがやってきた。

私は三人にまだこの可愛いけど地味に困る嫌がらせについて告げていなかったのでさり気なく抜け出して声を掛けられる前に彼女たちのもとへと向かう。


「小早川さん、志倉さん、どうしたの」

「どーしたもこーしたも、あんたの上履きの件に決まっているでしょ!」

「そうだよね、ってことでちょっと外でもいいかな。とりあえず教室から出よう」

「別に、いいけど」


二人の肩を押して教室を出る際、イヤ~な視線で私を見る三人分の視線を感じたが、とりあえずは無視をした。


「FCの会員全員と会員ではないものの片倉君を慕ってると思われる女子に探りを入れたけど、新澤さんを疎ましく思うという人はいても何かしたという子はいなかったの」

「あんた他になんかやらかしたの?」

「うーん。全然何も思いつかないんだけど、片倉くんも含め祖父崎くんや一応多嶋とか、学年のモテ男子と接する機会が多かったから、その事で恨まれてるのかなあとは少し…」

「多嶋?誰よそれ。それに祖父崎くんの場合は理解出来ないけど一応楢崎って彼女がいる訳だし、恨むならそっちなんじゃない?」

「それもそうかあ」


祖父崎くんの線は無いとして、多嶋を好きだという河南さんはあんなまどろっこしい事をするタイプではない。私は一体誰の恨みを買っているのだろうか。


「とにかく、私たちはもうあんたに危害を加えようなんて思っていないし、仮にそういう事をしようとする子がいてもそれはこっちで処理するからもう心配しなくて平気よ。でも他の事までは知らないから後は自分で何とかすることね」

「わざわざありがとう。志倉さんも」

「ううん、罪滅ぼしっていうか、恩返しというか。全然足りないけど何かまた困った事があったら遠慮なく言ってね」

「わ、私だって一応怪我をさせたし、悪いと思ってるからこうやって動いてるんだからね!」

「あはは、小早川さん。ありがとう」


教室に戻ると背中に楢崎がへばりついてきた。


「敵と何を仲良く話しておったのだおぬしは~!吐けえい!」

「小早川さんって結構可愛い性格してるよね」

「何それ全然分かんない。ここ数年で一番共感できない」

「ツンデレ萌えは楢崎にもないか。ところでさ、祖父崎くんておモテになるみたいだけど、楢崎は何かされるとかないの?」


私にへばりついたままの楢崎の代わりに半笑いの千夏ちゃんがそれに答えた。


「あー、ないない。愛美は周りから彼女として認識されてないし、されても『ああ、祖父崎くんって手のかかる子供のお世話が出来て面倒見がいいんだなっ』ぐらいしか思われないから」

「なんだよそれっ!彼女だって認識されてるわ!嫌がらせだって、…ないけど!ないけど偶に『こんなお子様ならすぐに飽きそう♪安心した~』っていう超失礼な宣戦布告を受けることはあるし!」

「愛美ちゃん、それ声を大にして言う事じゃないと思う」


うまく会話が流れたのでそのまま楢崎をからかいながら残りの昼休みを過ごした。


「新澤、多嶋。明日の委員会の事で渡すもんあるから終わったら俺んとこ来いな」


帰りのHRでそう言われた私たちはいやいや頷く。号令後に遅くなるかもしれないから先に帰っててと美織に告げて教員用の机でだれる菅先生のもとへと向かった。


「これ明日使うプリントな。変更あったから前もってきちんと目え通しとけよ。

特に多嶋。今読んだら忘れずに机に入れて帰れ。そうしないとお前は絶対に忘れるか無くすか破損させる」

「センセー、教師が置き勉推奨してもいいんスか?」

「俺は忘れてめんどくさくなるよりも置いて帰ってきちんと授業を受ける奴の方が好きだ」


だから菅先生の授業は宿題がほとんど出ないのだろうか。

貰ったプリントに目を通すと、そこには明日の議題が書いてあった。

明日は交流会の調理をするクラスをクジで決める事、予算についての説明、諸々の注意事項、お化け屋敷をするにあたってのペアとなるクラス分け、各作業の主担当決めなどをするようだ。

一番下の欄には担当の希望があれば決めておくようにとある。振り分けは調理、備品貸出、買い出し監督、小道具係などで、十二クラスからの委員が二人ずつで計二十四人を六人ずつで分けるらしい。

片倉と一緒は嫌だなあと思いながらプリントをまじまじと見ていると、大きなこぶしが眼前に現れた。

驚いて顔を上げるとそれを出したのは菅先生で、私が気付いた事でその手を引っ込めると多嶋のおでこを指ではじいた。


「いてっ」

「お前ら、今読むなよ。俺が行ってから読め。でないと俺が帰れねーだろうが」

「だからってデコピンはねえだろお!?体罰だよちくしょう」

「訴えてもらって大いに結構。俺はもう行くから、新澤はともかく多嶋はちゃんとプリント置いて帰れよ」

「なんだよ、信用ねえなあ」


どんな教師だよ。

多嶋は唇を突き出して文句をいいながらもたたんだプリントを机に仕舞った。私も忘れて貰いに行くのは面倒だったので同じように畳んで仕舞う。多嶋と二人で帰るのは微妙だったので奴が他の男子と話している間にそうっと教室を出て独り昇降口を目指した。

靴の中には画鋲が一つ、ころんと入っていた。せめて針を上に向けるとかしろよ!と心の中で突っ込みながら、玄関手前にあるお知らせ掲示板に画鋲を差す。


「あんた、何やってんの?」

「え?」


振り返ると、そこには制服姿の河南さんがいた。

明るい髪をサイドでハーフアップで結び、耳には可愛らしいサクランボのピアスが揺れている。このシャレオツで可愛い人が多嶋を好きなんて何の冗談かと思う、なんて事をぼうっと考えながらまじまじと河南さんと見ていると不機嫌そうに眉根を寄せて、昇降口を出て行ってしまった。

返事も返さずに失礼なことをしてしまったとその背中を追いかけると、足音に気付いたのか河南さんがくるりとこちらを振り返った。


「何なの?私を無視するのか追いかけるのか、どっちかにしなさいよ」

「すいません、前会った時は私服だし名前しか聞いていなかったから。同じ学校だったんだなあって」

「そんなの前話した会話の文脈から読み取れるでしょ。ほんっとどんくさいっていうか、なんであんたみたいな可愛くない上にどんくさい子がいいのか全然理解出来ない。それに!なんで化粧してない訳!?私が折角選んだっていうのに買わなかったの!?」

「いえ、買ったんですけど、クマもだいぶ良くなったししていないだけで」

「そういえば、前に会った時よりはだいぶマシになったかもね。だからって少しは女らしくしなさいよ。髪だってただ下ろしてるだけだし」


相変わらず不思議な人だ。河南さんは怒りながらも私の髪を掬いあげて高くポニーテールのように持ち上げたり、サイドに流したりして髪型を探っている。美意識が高い人なんだろう。

ベストの状態を見つけたのか、私の目をキッと見つめると、「シュシュ持ってないの?シュシュ!」と言って来たが、生憎髪をまとめる習慣のない私は落ち歩いていなかった。ない事を告げると呆れたような顔をして自らの鞄からシュシュをいくつか出してきて私の髪に当て始めた。


「この色がいいわね」


そう言って髪をささっとまとめた河南さんは満足げに私に鏡を突き付けた。

そこに映る私は髪を高めの位置でサイドテールにしていて、いつもとは違った雰囲気に見えた。


「すごい、なんだかこの前といい、ありがとうございます」

「別に。前も言ったけど私あんたなんか眼中に無いし、身だしなみをしない女子ってあり得ないと思ってるから」


そのまま去ろうとする河南さんを慌ててひきとめる。私の髪はまだ括ったままで、つまりは河南さんのシュシュをまだ付けたままなのだ。


「河南さん!シュシュ、シュシュ忘れてます!」

「はあ?忘れてなんかいないわよ。それ別に使ってないし、あんたにあげる。持ってないんでしょ?」

「そんな、悪いので…」

「じゃあ新しいの見に行くわよ。あんた今日はお金あるんでしょうね」

「に、二千円くらいなら」

「ほら、さっさと行くわよ」


再び河南さんのペースに乗せられたままさっさと歩きだす彼女の背を慌てて追った。




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