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友達


昨日はなんと八時に寝入ってしまった。おかげで頭は痛いが入学式に遅刻なんて言う馬鹿げた事態は免れたようだ。昨日の出来事?そんなん忘れました。


「それにしても、早く着きすぎた…」


現在、七時二十分である。

ちらほらと生徒の姿は見かけるものの、その多くは入学式準備に奔走する在校生のようだった。

事前に送られてきていたクラス表に従って目的の教室を探索も含めて探す。1-2、それが私のクラスのようだ。

閑散とした廊下を歩き、自分の教室の前にやって来ると既に開いていた扉からそぉっと中を覗き見る。

中には女生徒と男子生徒がばらばらに座っていた。私もなるべく音を立てないように黒板まで近づき座席表にて自分の席を確認し、また静かにそこへ向かった。


「(うう、視線を感じる…。でも動くものを目で追ってしまうのは動物の本能だし、しょうがない)」


左から二番目、前から三番目の席に辿り着く一歩手前、私は思わず立ち止った。


―――――なんで三人しかいない教室で隣同士になるかな…


私の席の右隣には携帯をいじる男子が座っていて、そのまま座るのは躊躇われた。ちなみにもう一人の女子は一番右の列の一番後ろである。


「座れば?隣でしょ?」

「あ、うん。よろしく…」

「うん。俺は多嶋貴一(たじまきいち)、えーと、何サン?」

「私は新澤奈津(にいざわなつ)だよ、多嶋くん早いね」

「遅刻すんなって親に叩きだされたらここ着いたの七時十分とかでさー、まじ眠いよ。

でももっと早かったよね?一緒に愚痴ろうぜ」


多嶋くんはフレンドリーな性格のようで、人懐っこい笑みをのせて奥で本を読みふける女子に話しかけた。

彼女はそっと目線を上げてこちらを窺うと、しおりを挟んで机の上に置くとおずおずとこちらへ歩み寄ってくる。少し照れたその表情は堪らなく可愛かった。


「名前なんていうの?」

石村美織(いしむらみおり)、です。えと、よろしく…」

「石村さんはなんでこんな早かったの?家遠くて時間間違えたとか?」

「ううん、なんかどれくらいの時間に行っていいのかわかんなくて、八時十五分集合ってなってるけどその時間に行ってあぶれたらやだし…」

「ははっ、心配性だな~」


多嶋くんのコミュ力はパなかった。

私は会話のテンポに入っていけず、扇風機よろしく交互に二人の顔を見比べてる。

多嶋くんは真っ黒で短い髪がつんつんと立っていて、あれはワックスじゃなくて天然だと思う、少し大き目の瞳はその感情の豊かさを表すように見開かれたり、細められたりと忙しそうに動いていた。

変わって石村さんは肩上ぐらいの真っすぐの髪を揺らして多嶋くんの話に耳を傾けている。白い肌に色素の薄い瞳はまるで人形のように綺麗だ。首を傾げるのが癖なのか、右や左に動くたびそのさらさらの髪が宙に舞った。


「二人とも外部生?俺は外部入学なんだけど」

「あ、私は内部だよ、中学からだけど…」

「私は外部かな、九州から引っ越してきたばかりなんだ」

「まじ?方言喋って見せてよ!」

「…また今度ね」


内部、外部というのは、この学園が初等部からなる初中高一貫校のマンモス校である為、元々いた内部生と外部から受験をした生徒を区別して使われるようだ。

高等部ともなると外部生がぐっと増え、クラスは十を超える。少子化息してるか?ってくらい大きな学校なのだ。学科も様々で普通科、デザイン科、国際科、IT科、機械科とあり、私は普通科である。

クラスは基本的に学科別だが、IT科や機械科は人数が少ない為一緒になったと聞いた。


「でもなんで九州からわざわざ?親の転勤とか?」

「まあそんな所かな、二人とも家は近いの?」

「うーん、俺はバスと電車で一時間くらいかな、石村は?」


多嶋くん、さっそく呼び捨てんなんてすごい。でもそれが不快にならないっていうところがもっとすごい。

きっと自然体で呼んでるからなんだよね。


「私は割と近いよ、駅の近くだからバスで十分くらい」

「えっ、私も駅の近くだよ!もしかし近所だったりする?うちは商店街をすぎたコンビニの裏手のアパートなんだけど」

「ええ!?私はその手前の住宅街の方だよ!すごい、今度一緒に登校しようね」

「うん!」

「女子ばっかり盛り上がりやがって…。早く誰か来ねえかな」


不貞腐れた多嶋くんは体を扉に向けて、その方向をじっと睨むように固まってしまった。

そんな事はおかまいなしに私と石村さんは商店街にある鯛焼き屋さんのうぐいす餡が美味しいとか、スーパーに超早打ちのおばちゃんがいるとかいう地元トークで盛り上る。

そうしている間にちらほらと他の生徒も席に着き始め、八時に差し掛かるころには各教室はわいわいと騒がしくなった。

やはり内部生は勝手知ったるといったところで見知った者同士で寛いでいるが、外部生は所在無さげに入学案内を隅から隅まで熟読したり、寝入ったり、さみしい者同士で固まっている。

私たちは三番目だ。しかし多嶋くんは内部、外部の隔たりなど諸共せずにさっそく男子グループの中心となって騒いでいる。さすがすぎる。


「石村さんは内部で仲良かった子とかいないの?」

「美織でいいよ、わたしもなっちゃんて呼んでいい?」

「うん、美織」

「うちってマンモス校でしょ?仲良かった子達とは離れちゃったみたい。今度また紹介するよ」

「そっかー、うちの学年十二クラスもあるもんね」

「おい、席につけ~。ちょっと早いが出席取るぞ。自己紹介は式が終わってからするからちょっと待っててな」

「あ、菅先生だ」


生徒たちが席に着くのをけだるそうに教卓に寄りかかって待っているのが、恐らく私たちの担任なのだろう。あごひげを生やした三十半ばといった位の男性教諭だった。背は多分高い部類に入るのだろうが奈何せん猫背の為その魅力が十分に発揮されていない。眠そうな瞳は私たちに不安とある種の安堵感を与えた。

こいつが担任なら、何かとユルそうだ。と。


「よーし全員揃ってるな、じゃあ出席番号順に廊下に並べ~。体育館まで移動するぞ」


早速友達も出来たし、期待感を抱きながら私も席を立った。




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