不貞寝
短いです
持っていたコンビニ袋をテーブルに置き、鍵を壁に取り付けたフックにかける。鍵に付いたくまのキーホルダーについた鈴が鳴った。
私は電気も点けず、いや点ける気にならず、焦点の合わない眼でぼんやりと落ちゆく夕日を見詰めながらゆるゆるとへたりこんだ。
さっき会った青年の眼差しが瞼に焼き付いて放れない。
「なんだっていうんだ…」
震える声も、手も、全て記憶にないもの。
懐かしさが込み上げる事もなく、あるのは困惑と疑問だけだ。
始めこそ彼の背中に罪悪感を覚え後悔の念が頭を占めていたが、状況、会話が整理されていく内に沸々と怒りが沸き上がって来た。
「そもそも冷静に考えればおかしい事だらけだよね。
あたしはあの人の事知らないし、そんな人に喉にき、きすされるし、揚句の果てに『許さない』『裏切った』だなんてあの人の勘違いによる勘違いの勝手な被害妄想じゃん!」
行き場の無い怒りを手元にあったクッションにぶつけ私は夕飯も食べることなくベッドへ潜り込んだ。
「こうなったら睡眠だ、睡眠。眠れば明日には学校始まるし忙しくってあんな男の事なんて忘れられるよきっと!」
だってもう会う事もないんだろうし。
明日からは念願叶って合格した学校に通えるのだ。楽しい学園生活の事でも考えながら眠ろう。
心の中の呟きはやがて瞳の奥を覆っていく暗闇とともに深い所に消え行った。
その日私は不思議な夢を見た。
燃え盛る炎の中で私は一人佇んでいた。誰かに名前を呼ばれて振り返るも、その相手の顔は黒い煙のせいで全く見えない。
その声はどこかで聞いたような、懐かしい響きだった――――――…