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邂逅

私は先日この町に先日引っ越してきたばかりだ。

生まれてからこの15年間(今年で16年だが)地元から出ていない私なのでこの町に知り合いなどいるはずはなく、友達もまだ出来ていない。大家さんはアパートとは別の所に住んでいるからそんなに親しくないし、部屋は角部屋、隣は空室なので隣近所との付き合いもない。


それならば、そんな私の手を握りしめ、久しぶり、会いたかったと連呼しながら感極まっている彼はどこの誰なのだろうか。


「嬉しい、嬉しいよ。俺ね、この時をもう何年も、何十年も、いや、何百年も待っていたんだ」


目の前の青年はどう見ても私と変わらない年齢に見える。若く見られる風体だとしてもおおよそ二十代だ。いや、十代といっても充分通るだろう。なぜ何十年、何百年なんてそんな言い方をするのか。


もしや、宗教勧誘?


「あの、あのう」

「ああ、もう。今なら俺幸せすぎてしねる。いや、しねない!だってやあっと会えたんだもん!!

ねえね、抱きしめてもいい?」

「へえッ!!?」


思わず上ずった声が出た。これは恥ずかしい。

…ではなく、何故見ず知らずの殿方にこんな道端で抱きしめられなければならないのか!

じわじわと顔を近づけてくる青年を突き飛ばして逃げたかったががっちり手を握られているのでそれは叶わない。うう、美形。

イナバウアーよろしく腰をそらせることで彼との距離を取ったがそれにも限界があり、喉元に軽く、口づけられた。


「ぎゃああああ!!なにするんですかああ」

「だって、百年以上我慢したんだよ。こんなんじゃ全然足りない」

「待って待って待って!絶対あなた人違いしてますううう。

私ってば4日前この町に越して来たばかりだし、知り合いもいないし!」

「………もしかして、俺の事覚えてないの?」


やっと離された顔を横目で覗き込むと、先ほどまでの泣きだす半歩前の笑顔ではなく、少し怒っているような、しかしそれでいて悲しそうな瞳で私のそれをじっと見据えていた。


「ど、どこかで会いました?」

「…俺の名前、いってごらん」

人違いだって言ってるのに!名前など分かるはずもなく唇は上下左右にさ迷う。そんな私の様子に絶望の色を濃く表した顔で彼は手を放し2、3歩離れた。

思わず喉に手のひらを当てて早くあの感触が消えるように擦る。俯き微かに震える彼に私はなんだかとても悪い事をしてしまったような気がしてその肩へ手を伸ばした。


ぱあん!と甲高い音がしてその手が弾かれる。


音の割に痛みはそれほど無かったがその衝撃と思わぬ出来事にその手をもう片方の手でぎゅっと握った。


「あの、あの、本当に私達どこかで会っているんですか?

私本当に地元から出た事無くて、ええと、九州なんですけど、あなたが来た事あるとか、「俺はさあ!」


俯いたまま張り上げられた声は確かな怒気に満ちていたけど、私は何故だか悲鳴に聞こえた。


「ずっとずっとアンタだけを待ってたんだよ、馬鹿みたいにさあ!

身を焦がすような思いでこの日を待ちわびていたのに、アンタはいとも簡単に約束を破ってくれた!」

「やく、そく」


ってなんだ。心臓の鼓動が耳にうるさいくらいに響く。こんなに彼が怒るほど大切な約束を交わしたのか?でも、そんな大切な事忘れるわけない。


「…俺、許さないよ、絶対、絶対だから」

「…そんな、せめてどこで会ったかだけでも教えてください!

そんな風に分からない事で責められても、私はどうしていいか分かりません!」

「『どこで会ったか』?

あれだけの時間を共に過ごして、互いに誓いあったのに、それが『分からない事』ならそれは俺にとって裏切り以外の何物でもないよ。

もう一度言う、


俺は、絶対アンタを許さない」


顔を上げた彼の瞳が濡れているかどうか、確認する前に走り去ってしまった背中を私は茫然と立ち尽くし、視線だけで彼を追った。






大昔に書いたもののリメイク作です。ライトに読めるものを目指して頑張ります!

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