A&D
とある時代、とある場所に、一人の少年。
あまり裕福とは言えない家に一人息子として生まれた少年は、いつも働いている同年代の子供たちを横目に、ただ空を眺め、ただただボーっとしていた。
彼は生まれた時から手足が不自由で、両親からもすでに見捨てられ、孤児院で施しを受けてひっそりと生きていましたのでした。
しかし彼は心清らかで歌を歌えば清廉で滑らかなもの
ある日彼の歌声に誘われた天使と悪魔がいました。
彼を見つめ、天使は言いました。
「彼は心清らかですね。いずれ幸せになるでしょう」
悪魔は言いました。
「奴は何も持たない。いずれ不幸せになるだろう」
お互いがお互い自分の主張を言い合い、彼が幸せになるか、それとも不幸せになるかの口論を始めましたが、しばらくし、天使は言い合いは醜いと話をおりました。
悪魔はそれでも白黒をつけたいと、少年に目をつけ、天使に話を持ちかけました。
こうして天使と悪魔は賭けをすることにしました。
彼が幸せになるか、不幸せになるか
天使は彼のもとへ降り立ち、ささやきました。
「このまま何もせず、何も知らず、心のままにずっと歌っていなさい。そうすれば幸せになれます」
次に悪魔が彼の前に仁王立ち、忠告します。
「足掻け、精一杯動け、醜く這えずることになろうと一人で生きろ。そうすれば幸せになれるぞ」
少年は迷わず天使の言葉を信じ、毎日歌いました。
何も変わらない日常が数日過ぎ去ったが、少年は純粋に天使の言葉をただひたすらに信じ、歌い続けました。
そしてある日、歌声を買われ聖堂院に入り、そこで一人の少女と恋をしました。輝かしい賞賛の声に、いとしい少女との蜜月の日々、少年は幸せになりました。
天使は悪魔に言いました。
「ほら、彼は幸せになりました」
されど、少年はいずれ青年へ、青年から大人へ
美しい神を讃える歌声は清廉なソプラノから、しゃがれた声へ。
すでに少年でもなく、かつての美しい声もない元少年は聖堂院に居残ることもできず、場所を追い出されるように聖堂院を去り
力のない手足からでは人並に働くこともままならず、生活も苦しくなった。そしてあんなにも蜜月を重ねたのに、少女は彼を見切り、知らず知らず内に彼からひっそりと離れて行った。
こうして彼はこれで一人きり。
悪魔は言いました。
「ほらな、不幸せになったろ?」
愛を知り、希望を知り、夢を味わった少年は、ただ一人絶望と悲しみと虚無の奈落へ
こうして彼には何も残らなくなった。
天使と悪魔のやり取りを見ていた神は小さく、風の吐息のようにつぶやきました。
「お前たちこそ、なんと幸せで……不幸せなんだろう」
―――― と