7,遠足日和 5
迷彩柄のパンツに、ボーダーのノースリーブを合わせただけのスポーティーな彼女は、先ほどからチラチラと丘のほうを見ていた。
担任の小野寺と宮下と千尋の三人であの小さな丘に座り込んでいる。小野寺の方は仰向けに寝転んでいて、たぶん本当に寝ているんだろう。彼女、加奈子は千尋が心配だったのだ。かなり重症の人嫌いな上に、今日は朝から機嫌が良くない。
団体行動の団の字もできない人間だが、今日は何とか引っ張ってきた。そして彼女の予定ではクラスのメンバーとこの遠足を機に少しでも親しくなってもらおうという考えだった。
いくら千尋自身が友人を作ることを拒んでいるとしても、自分が千尋に居たとしても、彼女は我慢できなかった。少しばかり変わってはいるが、根は優しい良い子なのだ。もっと友人をたくさん作り、みんなでわいわいはしゃぐことの楽しさを知ってもらいたい。そしてそれ以上に千尋の良さをもっといろんな人に知ってもらいたい。そう思っていた。
誰が持ってきたのか、青と黄色の混ざった競技用バレーボールが宙を舞っていた。いや飛びかっていた。クラスの女子の半分は円陣バレーをしていたのだ。加奈子もその中の一人だが千尋のことを思うと気が気ではなく、自分の所に来るボールは半分以上落としていた。
「あぁ、もう、加奈子ったらまた落とした」
加奈子の目の前に居た友人が言う。
「あ、ごめん!」
「何?加奈子らしくないんじゃない?」
もう一人の友人も言う。彼女はバレーには参加していない。円陣のすぐそばでその様子を眺めていた。
「そうかな」
加奈子は自分の前に落ちたボールを拾う。なんでもないかのように振舞いまっすぐ前に標準を定めてボールを飛ばす。
「……そりゃあ、しょうがないんじゃない?」
「へ?何々?何がしょうがないの?」
もう一人そのバレーを眺めていた美園は、何か含ませたような言い方で言う。
何かありそりそうな雰囲気を読み取ったのか、興味津々な様子で先ほどの友人が聞き返した。
「だって、見なよあれ」
美園は首だけである方向を示した。その方向には小高い丘があり、千尋達がいた。
「あれって、あの三人?」
友人が返すと、美園は面白くなさそうに目を細めて「そうそう」と言った。
すると、円陣バレーをしていた生徒がみんな、なんだ?と言うようにバレーを止めて、丘の方と美園をきょろきょろと見はじめた。
「あぁ、宮下くんと羽野さんでしょ?あの二人あやしいよねぇ〜」
「え?あんたも思ってた?」
そのやり取りを機に口々に二人はあやしいだとか、それと同様の下世話な話が飛び交う。
「羽野さんが宮下くんを狙ってるんでしょ?」
「っていうか、誘惑されたんじゃない?ほら、前も隣のクラスの人と噂になったじゃん。羽野さんって結構遊んでるんでしょ?」
加奈子はそんな心の無い会話を呆然としながら聞いていた。
なんで?どうしてそういうことになってるの?
そんな加奈子をみて美園が言う。
「宮下くんだけじゃないじゃない。小野寺先生もそうだわ」
「小野寺?そういえばそうかも。なんか羽野さん、ヒイキされてるよね。何かといえば羽野さんが呼ばれるし……」
美園のその一言でみんなの話題が変わり、小野寺と千尋の話へと移った。
美園はその様子を見てくすりと笑いさらに言った。
「やっぱ犯罪者の妹は普通の子と違うみたい。犯罪者の兄に男を誘惑する手管でも教わったんじゃない?手取り足取りってやつ?やだ、不潔〜」
加奈子は頭の中が沸騰したような、そんな感覚に見まわれた。
何か強いショックを受けたように彼女は固まってしまった。頭の中にいろんな言葉が浮かぶ。加奈子は混乱していた。
この女は何を言っているのだ?千尋のお兄ちゃん。何故そんなことを知っている?何故この場でそんなことを口に出せるのだ?何故?バカじゃないの?
その瞬間加奈子は美園の頬をひっぱたいていた。
あれほどざわついていた周囲がサッと静まる。叩かれた本人の美園はキツイ目で加奈子を睨み付ける。
「ちょ、何すんのよ!」
「それはこっちのセリフよ!……ちょっとこっち来なさいよ」
そう言って加奈子はその場から美園を連れ出した。
読んで下さっていた方々、長い間サボっていてすみませんでした!!これからは定期的に更新していきたいと思いますので、よろしくお願いします!!




