1,2人きりで
見上げる空はいつも新鮮で
私の心と正反対
青くて広くて
キレイだった
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「…羽野さん、好きな人いるの?」
静まりかえった教室で私は黙ったまま窓の外を見ていた。
今教室にいるのは同じクラスの宮下と私だけ。
なりたくもなかった2人っきりの寂しい係。補助係って何?必要なわけ?ただの先生の雑用係じゃない。
担任に渡されたのは大量の印刷済みの用紙と、ホッチキス2つに一箱の針、そして見本の冊子が一冊だった。
2人で黙々と、いや、1人は何もせずにボーっとしているので彼は1人で手際よく冊子を作っていた。
何も答える気になれなかった。
「…………」
「羽野さんって無口だよね」
日頃彼自身も無口だと言われているのだが、この場合どう返せというのだろう。
「…………」
「……」
宮下が短く息を吐いた。そして
「空、そんなにキレイ?」
彼は、目線をずっと手元にあわせたまま言った。
私は答えなかった。
「そういえば今日は夕方くらいから天気が悪くなるって言ってたから早く終わらせて帰らなきゃね」
彼は手を休めなかった。
私は空を見ながら重い暗い雲がずっと遠くの空にあるのを見て、ああ、そうなんだと宮下の言ったことに納得していた。
沈黙が続く。
しかし、そんな沈黙を破ったのは私の方だった。
「宮下は傘持ってきた?」
一瞬彼の動きが止まったように感じたが、すぐにホッチキスのパチンという音が聞こえるようになり、彼は答えた。
「いや、持ってきてない」
「……なんで?天気悪くなるって知ってたくせに」
「天気が悪化する前に帰れば良いんだよ」
彼の顔を見ると薄い笑みを浮かべていて、少しだけ嬉しそうだった。
「……そうだね」
私は窓の方に向けていた体を宮下の方へ向き直して用紙を手に取った。
「それ、印刷してある方を出すようにして真ん中で折ってくれる?」
私が顔を上げて彼の顔をみると、先ほどと同じような薄い笑みでこっちを見ていた。
「早く終わらせよう」
「……そうだね」
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次の日、私は学校を休んだ。
あれから全て終わらせるまでかなり時間がかかってしまい雨の中びしょ濡れになって家に帰った。
私の場合、自業自得なのだが宮下には悪いことをしたと思う。
もう少し早く私が手伝っていれば濡れずに帰れたかもしれない。いや、帰れたのだ。
38度8分。
実際、ここまで熱が出ると動けなくなるものなんだ。風邪を引いてもあまり熱が上がらない質なので、こんなに熱が出たのは初めてだった。
「千尋、あんた病院いったほうが良いんじゃない?」
母が体温計を見て言った。
たしかにいった方が身のためだとは思うが、熱からくるだるさと頭痛で病院へ行く気力さえ失せていた。
「いい、行かない」
「そう?」
母は私の額に手を当心配そうにこちらを見たが、私は気丈に笑ってみせた。
「ん……じゃあ薬飲んで大人しく寝てなさい」
「うん」
母が部屋から出て行き私はベットに一人きりになった。
窓の方へ顔をやったが窓はカーテンが閉まったままだった。
雨の音が聞こえるので、昨日からの雨がまだ降り続いているのだろう。
すぐ空を見ようとするのは私の癖だった。
小さい頃から気付くと空を見上げ、その度に違う顔を見せる空に一種の逃避を味わっていたのだ。
移り気な空は人と似ているが、空は何も語らない何も求めない。そんな何も縛ることのない広い空が好きだった。
『…羽野さん、好きな人いるの?』
なんで宮下はそんなことを聞いたんだろう。
高熱の朦朧とした意識の中で私はそんなことを考えていた。




