9 いざ、お誕生日会
今日は朝からてんてこまいに忙しい。正確に言えば昨日の夜中から忙しかった。
だって今日はクリスタちゃんのお誕生日会だから!
街で仕入れたきれいな紙を飾り切りにしたり、ねじったり丸めたり、「クリスタちゃん 六さいのおたんじょうびおめでとう♡」というボードをつくったりして部屋を飾り付けると、誕生日会の雰囲気になった。前世を思い出してちょっと胸が熱くなる。
テオくんは「なんだこれ」と戸惑いながらも飾り切りを手伝ってくれた。ややバランスの崩れた星マークはご愛敬。星って難しいんだよね。
異世界モノの知識だと「異世界で親に捨てられた子ども」は誕生日を覚えていないことも多かったけれど、クリスタちゃんは誕生日も年齢もちゃんと覚えていた。えらいねぇ。
息を潜めてリビングで待っていると、「今日は絶対にこれを着て!」と紫地に白いリボンがついたワンピースを私に無理やり着せられた主役がご登場。似合いすぎて可愛すぎる。
「クリスタちゃん、お誕生日おめでとう!」と声を張り上げると、彼女はぱちぱちと瞬きをする。
「たんじょうび…」
「そうだよ、誕生日!」
「たんじょうび…」
クリスタちゃんは顔を歪め、部屋から逃げ出した。なぜ?照れ?
照れにしては顔がおかしかったような…何かまずいことをしてしまったのかもしれない。とにかくあとを追わなければ。玄関のドアを開けると、紫の触手がもりもりとイトスギのように立ち昇っている。
「クリスタちゃん!!」
私はクリスタちゃんを抱きしめた。触手は勢いを失って小さくなって消える。
クリスタちゃんは硬い表情でどこともわからないところを見つめていた。怖がっているようでも、怒っているようでもある。
「お誕生日お祝いするの、嫌だった?」と聞くと、「誕生日は怖いから」と小さな声が返ってくる。
「怖い?どうして?」
「クリスタが生まれたとき、同じ部屋にいた人が全員死んだから」
思いもかけない言葉に、私はとっさに何も言えない。
この世に産み落とされてわけもわからず泣く赤ちゃん。微笑ましい限りだけど、クリスタちゃんの場合は違った。彼女の不安や不快に合わせて制御できない触手が伸び、周りの人を襲ったんだ。だからこの子は、自分の誕生日を「怖い日」として覚えている。きっと周りからもそう言われてきたんだろう。
クリスタちゃんが自分の誕生日を覚えている理由が、こんなことだったなんて。
私はただただ、クリスタちゃんの背中を撫でる。「もう怖くないよ。もう誰も死なない。だって今のクリスタちゃんは自分の魔力をコントロールできるし、私もいるでしょ?」と。
「サティはクリスタの誕生日、怖くないの?」
「怖くない。だって誕生日は、生まれてきてくれてありがとうの日なんだよ。クリスタちゃんが六年前のこの日に生まれたから、クリスタちゃんは私に出会ってくれて、私はクリスタちゃんが大好きになったの。だから私によってクリスタちゃんの誕生日は、すっごく大切で嬉しい日だよ」
「クリスタの誕生日は、サティの嬉しい日…」
「そうだよ。だから一緒にお祝い、してくれる?」
クリスタちゃんが少し考えてから頷いてくれて、私は小屋に戻って絵の具を紙を見せた。「手形」をとるのだ。
クリスタちゃんは、少しだけ不思議そうにしていたけれど、私がピンクの絵の具をぺたぺた手につけて「紙にぺったん!」というと、「ぺったん」と声に出しながら紙に手を押し付けた。
「できたね。可愛い」
「クリスタの手が?」
「そう。ちっちゃくて可愛いおてて」
だって子どもだもん。守られて愛されるべき子どもだもんね。
「毎年手形をとったら、クリスタちゃんがどんどん大きくなっていく記録になるよ」
「そうなんだ」
何だかしんみりしてしまったけれど、手を洗ってメインイベントだ。マリウスさんに「季節じゃないのはわかってるけど、どうしても真っ赤ないちごが必要」と泣きつき、おばあちゃんに協力してもらい、なんとか完成したホールケーキ。
「これ、食べ物なの?」
「そうだよ」
「こんなにきれいなの初めて見た」
クリスタちゃんは目をキラキラさせている。おばあちゃんが思わず鼻をすすって、私は笑って誤魔化す。ああもう、泣くのはやめておばあちゃん。私までうるうるしてきちゃうじゃん。
テオくんがぱちんと指を鳴らすと、六本のろうそくにゆらゆら火が灯る。いや少年よ、それはちょっとおしゃれすぎんか。
「誕生日おめでとうって言うから、クリスタちゃんはふーってして!お願い事をしながらろうそくの火を吹き消んだよ」
「誕生日おめでとう」のあとに、クリスタちゃんは息を吸いこんで「ふーっ」と吹いた。私とおじいちゃんおばあちゃんとテオくんが拍手する。
「おめでとう。生まれてきてくれてありがとう」
「…うん」
ケーキを食べ終わったらみんなからプレゼントをもらう。私からは靴、テオ君からはハンカチ、おじいちゃんおばあちゃんからは上着を。クリスタちゃんはその日一日中、手形とケーキとプレゼントの話をしていた。
添い寝をしていると、「サティ」と声をかけられる。またケーキの話かな?
「ん?」
「誕生日って、怖くないね」
「…そうだよ」
「また、来年も、誕生日する?」
「もちろん!」
「…楽しみだな」
私はクリスタちゃんを抱きしめて、小さな手と腕が抱きしめ返してくれる。紙の飾りが窓からほんの少し吹き込んでくる風に揺れて、かすかにカサカサと鳴る。その音がまるで「おめでとう」と言っているように聞こえた。




