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お金の切れ目が縁の切れ目?そんな婚約者はお断り。噂の天才と領地を立て直します

作者: しぃ太郎
掲載日:2026/02/14

※本作は明確なざまぁ展開はなく、

領地再建と、不器用な天才との軽めの溺愛要素を描いたお話です。


 伯爵代理としての顔合わせと、婚約発表を兼ねて、二人は夜会に出席していた。


 リアナとヴィンセントはきらびやかな会場で様々な人に囲まれていた。

 新しく、伯爵代理についた運のいい男――。

 

 その視線の数々は、彼を値踏みして価値を落とそうとしているものばかりだ。


「知っていますか?ヴィンセントは教授に嫌われて、就職先を潰されたんですよ」

「平民のくせに空気が読めず、トップで卒業するから冷遇されて……」


 ヴィンセントはそっと視線を落とした。


 同じアカデミー出身なのだろう。

 細かい情報を嬉々として教えてくれる親切な貴族たち。


 リアナはそれを黙って聞いていたが、遮るように声を上げた。


「知りませんでしたわ。成績に空気を読む文化が必要?……そんなはずはありませんわ。皆様、素晴らしい方々ですもの」


 リアナは、そこでパチンと扇子を閉じた。そしてヴィンセントの胸元に手を添える。

 彼女の突然の行動に、思わず息を詰めてしまった。


「うちの未来の旦那様のお話を色々とありがとう。これでも不器用で可愛らしいのよ?それなのに、皆様に覚えてもらえるほど優秀だなんて。ふふふ」


「リアナ。アカデミー出身で勉強が出来ない人間はいないよ。……ただ、色々な人がいるだけさ」


 ——十年も隣にいながら、この人の価値を理解できなかった男がいるらしい。


 衝動を抑えきれず、彼女を抱き寄せて、首元にそっと口付けた。


 これも、惚れた弱みだ。

 彼女のために、価値を示し続けると誓った。


 リアナは、真っ赤になってしまった自分の顔を、扇子を開いてそっと隠した。


 ◇◇◇


 ――三カ月前。


 去年と今年の冷夏のせいで、領地の税収が激減した。

 本来なら、十年間の婚約を経て、結婚式の準備に入っているころだった。

 そんな時に、父親に呼び出され、我が家の財政状況を知らされた。


 持参金が払えない。

 相手方に待ってもらえるよう話を切り出したが、聞く耳を持ってくれなかったらしい。


 婿入りであっても、婚姻に伴う資金の整理は避けられなかった。


「トビアスは?」

「この手紙を預かってきた」

『――今回の事は本当に遺憾に思っております。しかし、当家も貴族として対応しなければなりません。困窮されていると聞き、慌てて金銭に換えたものです。少しでもお役立てください――』


 それは、ほんの子どものお小遣い程度の金額だった。

 慰謝料を請求されないだけ、ましだろうか。

 手紙を持つ手が、小刻みに震えてしまう。


「二年、その程度も待ってもらえないのかしら……」

「あの様子では難しいだろうな」


 本当に欲しい言葉も欲しいものもこれではなかった。

 優しい。

 しかし、その優しさでは何も変えられない。


「お父様、先立つ不幸をお許しください」

「リアナ!?そんなに思いつめなくても……!」


 父が慌てて止めてくる。

 私はその父に対して、両手を差し出した。

 一瞬、ぽかんとこちらを見る、父伯爵。


 ――あら、間抜け面だわ。私、お母様似だから大丈夫よね?


「先行投資です!先立つもの(お金)を早くお願いします!」


 先日、ご婦人の集会時にお母様が自慢していたではないか。

 うちの領地にアカデミーを首席で卒業した天才が帰ってきたと。


『血も涙もない冷血漢』

『女嫌いの天才』

『優秀だけど人格に問題がある』


 ここまで言われる人物だ。

 きっと普通ではないだろう。だからこそ、期待が持てる。

 きっと、天才らしく素晴らしい解決法を持っているかもしれない。


「女嫌いな人に好感を持ってもらえる服装ってどんな感じかしら?男装??それとも……。そもそも、女だと名乗らなければいいかしら」


 身分を偽ってみる?

 しかし、こういう人間は怒ったら怖そうだ。嘘をつくのは悪手か……。でも、相手の出方が分からなければ対策も立てられない。


 ――行くか。


「ちょっとお待ちください」

「マリー?」

 乳母の娘で私の姉のような存在のマリー。彼女は私に帽子を被せ、日傘を手渡す。


「領地の視察に行ってくるわ。そして財政回復のヒントを探してくる。その為に、噂の天才、ヴィンセントが必要なのよ」


「なるほど。お嬢様らしいですが。日焼け対策はしてください。……住所は知ってるんですか?あと、彼に何を言われても、暴れないでくださいね」


 ◇◇◇


 彼と挨拶を交わした直後に、かなり手痛い歓迎の言葉をもらった。


「貴族のお嬢様のお遊びに付き合っていられません。お帰りください。大体、収穫量が落ち込んだ領地をすぐに復活させる方法?そんなものがあったらどこも困窮しないでしょう」


 くすんだ金髪に金茶の瞳。これが噂のヴィンセントか。なかなか整った顔立ちだ。怜悧な瞳がこちらを射貫いている。

 

 正論すぎてぐうの音も出ない。

 まぁ、いい。


「あなたには期待……してたけど、本当に用があるのはここのご夫妻よ!噂では品種改良に力を入れているとか」


 そう。外国出身のご主人が、色々と農作物を植えて居るらしい。そんな話を聞いてきたのだ。

 正直、そこまで土壌が悪いわけではない、この地方。

 ただ、ここ数年雨が少ない。

 比較的穏やかな気候なので、そこまで難しいとは思っていなかったのだが――。


 やはり優先的に小麦や大麦を植えている。

 ただ、それはそれとしてリスクを分散しないと今回のような事はまた何度も起きるはずだ。

 そして、土地は休ませないとすぐに痩せて生産性が落ちるらしい。


 ここまでは、うちの図書室で勉強ができた。

 しかし、本物の農作物を見ていない。

 特に、ある地方の本が面白かった。

 ただ、土地を休ませるだけでなく……。


「根菜に力を入れているそうじゃないの!」

「多少は調べてきたようですね。一応、父の畑を見ていきますか」


 ヴィンセントは私に、手を差し出して来た。

 ふむ。意外と面倒見がいい。


「もちろん、そのつもりよ。ついでに収穫量と収穫物を確認したいわ!美味しいかどうかも」

「しょせん、庶民の食べ物ですよ。お貴族様のお口に合うとは思えませんが……」


 その口調で試されているのを感じる。

 この人は、こうやって人を試して――勝手に失望し続けるのだろうか。

 捻くれている。

 しかし、もう体裁もない私にはどうでもいい。

 十年婚約してても、あっさりと捨てられるのが現実だ。


 今の私には、同じ目的を持つ味方が必要だから、性格の悪さには目を瞑ろう。

 夜中に枕を殴れば大丈夫。


「あなたこそ、色々と敵を作るわよ?――実際にはすでにその作物に価値があると認めているんでしょう。こうやって挑発する程度には」


 彼は一瞬黙り込み、軽く頭を振る。


「――なかなか図太いお嬢様ですね。婚約が駄目になったら落ち込みそうなものを……」

「あら。今度はちゃんと本音なのね。手切れ金が、子どものお小遣い程度だったから。私は私の価値を証明してみせると昨日誓ったのよ」

「……昨日」


 くっ!と笑いを噛み殺した彼は誤魔化すように咳払いして、私を家の中へ案内してくれた。


 素直じゃないけれど、意外と上手くやっていけそうだ。

『優しい人』より、よっぽどいい。


 ◇◇◇


 それから、私とヴィンセントは畑を周り、根菜について話し合った。

 保存がきくこと、加工次第では色々と未来が見えること。

 栄養価も高く、畑を休ませる時期に植えると無駄がないこと。もとは、外国から入ってきたもので、もっとやせた土地でも栽培可能だということ。


 領地の人々を飢えさせない、という目的にはぴったりだった。

 小麦、大麦よりも育てやすい。


「それは何をしているの?」

「日誌……ですね。日付けと天候、気づいた点、食物の様子などを毎日書き留めています」


 ある日、ヴィンセントがつけているノートについて聞いてみた。

 なるほど。確かに、うちの図書室にも似たようなものがあった。

 こういう積み重ねが、経験や知識となって後世に残るのかもしれない。


「細かいけれど……。こういう物を残す人間が必要なのね」


「お嬢様は、大雑把ですね。――それで、もう納得出来たでしょう?そろそろ、お遊びは終わりにして、将来を考えたほうがいい。伯爵領の為に、婿入りしてくれる人を探すんでしょう?」


「それは――」


 ヴィンセントは正しい。そうだ、そもそも持参金は用意出来なくてもいいじゃないの。私がここを継げばいい。

                       

 本来はトビアスと結婚して、彼が伯爵領を治めてくれるはずだった。

 それが無意味になった今、新しい婚約者を探さなくてはいけない。でも――。


「大切な領地を、信頼できない人間に任せたくないんだもの」


 そこで、私は、机に座っているヴィンセントの目の前で両手をついた。

 彼の視界を出来るだけ奪う。


「ねぇ助けてくれない?」

「お断りします」


「ねえ。助けてくれない!?白い結婚とか、契約結婚!そんなものでもいいから、助けてくれない!?」


 私は食い下がる。

 しかし、本当に簡単に断る男だな!少しは悩んでほしい。

 後ろでマリーが首を振っている。


「分不相応なのでお断りします。俺は人に頼られるような人間じゃありません」


 頑として、首を縦に振ってくれない。

 私はこの短時間に、二回目の失恋をしたのだった。


 落ちこんで、彼の家を後にする。

 その前に、マリーがヴィンセントに話があると退席した。私の代わりに怒ってくれるのだろうか……。


 それは、恥ずかしい。

 でもマリーの思いやりも嬉しい。

 まぁ、何を言ってもヴィンセントには響かないから大丈夫でしょう。



 ――彼女が去った後。


 静かな部屋に、お嬢様のメイドが戻ってきた。

 確かマリーという名前だ。

 ようやく……煩わしいお嬢様を追い出したのに……。まだ厄介事が。

 落ち着かない頭を振って、マリーを促した。


「まだ何か?」

「お嬢様は、自覚はありませんけど。社交界では人気があります。こんなに何度も振られる人じゃないんですよ。……ふん」


 それだけを自分に告げて、メイドは扉を閉めて出て行った。


 反射的に、誰もいない空間に言い返しそうになった。

 開いた口を静かに閉じる。

 そんな事はわかっている。


 ぐしゃりと前髪をかきあげ、静かに深呼吸した。

――自分には関係ない。

 

 しかし、彼女の無邪気な声と笑顔が何度も脳裏に浮かび、ずっと苛々として落ち着かなかった。


 ◇◇◇


「マリー。振られちゃったわ。あぁぁ~……。しくじった。もっと色気で押すべきだったんだわ……」

「色気」


 屋敷に閉じこもって三日。

 ずっと雨が続いている。

 畑は大丈夫だろうか……。いや、もう私は邪魔なのかもしれない。

 専門家を呼び寄せよう。

 あ、ヴィンセントにお金を払って正式に雇えばよかったのかもしれない。

 でも、それだと話すら聞いてくれなかった気がする。


「お嬢様。雨がやみました。うざったいので、領地の見回りにでも行ってきてください」

「誰も彼も私に厳しい〜〜……」


 久々に、領地を歩く。

 幼い頃から育った場所だ。

 顔見知りも多く、領民のおじさん達が声をかけてくれる。


 母と交流のあるご婦人方も気軽に声をかけてくれる……が、お見合い話が大半だ。


 もう。お母様のお陰で私は、『失恋令嬢』と呼ばれているのではないだろうか。

 恥ずかしい。


「あ、川の流れ……。雨が続いたから、危ないかもしれないわ。近隣の子どもに、しばらくは近づかないように声をかけてあげないと」


 道行く人に、川の増水に注意するように声をかける。

 さすがに地元の人たちだ。

 私なんかよりも詳しい。その辺りは心得ているようで、笑って頷かれる。


 私の存在意義はなんだろうか……。

 専門知識もない、実務経験もない。

 だから、こんなにも役に立たないのかもしれない。


「マリー……。私、落ち込んでるわ……」

「お嬢様。お嬢様にも魅力的なところがたくさんありますよ。周りの男は見る目がありません」


 マリーが優しい声で慰めてくれる。



『川が穏やかに見えても、一気に増水して流されるという事例が多いんです。川が濁っていたり流木があると要注意です』


 前に、日誌を捲りながら、ヴィンセントが教えてくれた。

 それを役立てようにも、みんな私よりも知識が豊富だ。


 ふと、微かに悲鳴が聞こえた気がした。

 私が周囲を確認すると、川の方から助けを呼ぶ声がする。


「まぁ……マリー!大変よ、子どもたちが中洲に取り残されているわ!……川の水も濁ってる……!」


 流れも速くなっている。一刻の猶予もないのかもしれない。

 私は、近くの家に走って行った。


 ◇◇◇


 ――ヴィンセント視点――


「助けてくれない?」


 平民にすぎない自分にも、簡単に頼るお嬢様。

 すぐに人に助けを求める。


 俺が嫌いな人種だ。

 そういう人間は、他人を利用する事しか考えていない。


 ——少なくとも、俺が今まで出会ってきた貴族は、そうだった。

 そのはずだった。

 だから、即座に断った。


『大切な領地を、信頼できない人間に任せたくないんだもの』


 その言葉を聞いた時に、少し心が揺らいだ。

 無知で、まだ幼さが残る貴族のお嬢様。

 その彼女が、意地を張らずに人を頼ることは悪いことなのだろうか……。一瞬だけ迷いが生まれた。


 しかし、その提案を受けることだけはしたくなかった。

 今まで、自分の力と努力でやってきたのだ。

 いきなり、貴族のお嬢様に取り立ててもらって身を立てる?

 そんな生き方は自分には似合わない――。


 自分の力だけで、出世する。

 そのためには、そろそろお嬢様とは距離を置くべきだった。

 ズルズルと付き合ってしまったのは、意外と努力家な彼女に絆されてしまったからだろうか。


 だが、これでお嬢様も諦めただろう。

 もう三日も、姿を見ていない。

 毎日、ここに通っていた彼女が来ない――つまりはそういうことだ。

 

 ちくり、と胸が痛んだ。何故――?

 今さらじゃないか。自分から突き放した。


 ――くそ!彼女の事を早く忘れたい。


 自分も王都で、職を探さなければ……。せっかくアカデミー入学の費用を賄ってくれた方々に申し訳が立たない。


「ヴィンセントさん!大変です!川に子どもたちが……!」


 突然、お嬢様のメイドのマリーが家に飛び込んできた。

 最悪の事態を想定する。

 しかし、準備をしなければ。

 うちの倉庫に杭とロープがあったはずだ。一刻を争うかもしれない。


 状況が見えない中、俺は鞄に全てを詰め込んで、マリーの後に続いた。





「最悪だ……!」


 いつ、子どもたちが流されるか予想もつかない。

 ハンマーを持つ手が震える。

 杭を上手く打ち込めないで、何度か失敗する。


 だがなんとかしなければ――。

 子どもが三人。

 一人で全員助けられるだろうか……。

 いや、考える前に行動しなければ。


 絶望的な気分の中、場違いに力強い声が響いた。


「お待たせしました!救出部隊結成してきましたわ!」


 後ろをふりかえると、お嬢様が屈強な男たちを引き連れて駆けつけてきた。


 彼らの連携は素晴らしいものだった。

 持ってきた杭でロープを固定し、木にもくくりつける。

 長さが足りない分のロープをさらにくくりつけて長く伸ばしていく。


「……彼らは」


 すでにロープを結び終え、川に入っていく姿を見送る。


「木こりと猟師と大工の皆さんよ!こんな時こそ、皆に協力を求めなくては。専門家が集まれば出来ることが増えるわ」


 いつものように、『助けてほしい』と頼んで回ったのだろう、お嬢様。小綺麗な服は汚れ、汗で髪は顔に張り付いている。


 お世辞にも、美しい姿ではなかった。

 ――だが、その立ち姿は、とても眩しく見えた。




 子どもたちは無事に助かり、再会できた親に泣きついていた。

「ありがとう。みんなのお陰だわ」

「はははは。あの小さかったお嬢様が一丁前に頭を下げるなんてな!」

「本当だ。助けて〜!っていつも木の上で泣いてたのが昨日のことのようなのに」


 周りの男性にからかわれて顔を赤くしているリアナお嬢様。

 昔から、彼女は変わらなかったらしい。

 そして領民から愛されて育っている。


「お嬢様。この間の返事を撤回させてください」

「え?ヴィンセント?」


 この人をそばで見守りたい――初めてそう思ったら、言葉が止まらなかった。


「白い結婚、契約結婚でもいいから、助けてほしい……と、おっしゃいましたよね?」


 周囲がざわめくが気にもならなかった。

 自分の実力を試すには丁度いい。


 伯爵代理?

 最高かもしれない。


「待って!あなた、歳はいくつだっけ?後、白い結婚は言い過ぎたかも……!絶対に頷かなそうだったから、つい口から出たのよ」


 思っていたよりも、ずっと可愛らしい妻と、生まれ育った領地を守って育てる。それはとても素晴らしい未来のように感じた。


 彼女の細い指を手に取って、自分の口元へ持っていく。


「先日のプロポーズ、お受けさせてください。もちろん、白い結婚は撤回でいいですよ」


 瞬時に真っ赤に染まった顔のお嬢様と、悲鳴をあげるマリー。

 値踏みするような視線を寄越す中年男性など、様々な反響に溢れたプロポーズ場面になったのだった。


 面白い。これから、彼女の隣に立つ為に価値を示し続けなければいけないらしい。

 生来の負けず嫌いが顔を出して、思わず口元に笑みが浮かぶ。

 ――案外、こういう形が自分の性に合っているらしい。


 ◇◇◇



 結婚から一年後。


「今日もお疲れ様。ふふふ、旦那さまは今日も大変だったみたいね?」

「愛しいお姫様と子どもがいるから頑張れるよ」


 ヴィンセントはあれからとても頑張ってくれている。

 私の愛すべきパートナーだ。


「うー……!好き……!」

 見た目も好みなのに、この不器用な愛情がとても愛しく感じる。

 マリーにはたまに呆れた目で見られるが。


 二人で日誌を書くこの時間は、ゆったりとした一日の終わりだ。

 ヴィンセントは今日の天気と小麦の状態を書く。

 少しずつ収穫量も回復して、また領地は豊かさを取り戻しつつある。


 私は、育児日誌を付ける。

 今日の天気と、ミルクの時間。体調。


 そして、ベビーベッドであうあう言ってる赤ちゃんの様子も一言書いていく。


『今日も元気そうにミルクを飲んで、その後、大量に吐いた』


 隣で、フッと笑う気配がした。

 ヴィンセントは優しい瞳で私に聞いた。


「じゃあ、今日の奥さんの様子は?」

「愛しの旦那さまと一緒で幸せです、まる」


 日誌を閉じる手に、ヴィンセントの手がそっと添えられた。


 

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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