魔王、入学する
ダークキャッスル内、大騒ぎをしているイードルを宥めるホーマの姿があった。
「ちょっとぉ!!ジル様が魔術学院に入ったってどういうことよ!?」
「……魔王様がご自身で行かれたのだ」
「何で私に一言もないのよぉ!!」
「魔王様が決めたことだ。わざわざ君に報告することもないだろう」
「だって……ジル様は……はっ!大変!!私もすぐに魔術学院に行かなくちゃ!!」
「ま、待て!何故君まで行くんだ?」
「だって……学校といったら……甘酸っぱい青春とか恋愛とか……嫌よ!!そんなの絶対許さない!!!」
「魔王様がそんなお考えで行くはずがないだろう?」
※そんな考えです
「むぅぅ……それで?ジル様はいつお戻りになるの?」
「さぁ?寮に入ると仰ってたから、当面帰らないと思う」
「……やっぱりダメ!私、トロン王国に行ってくる!!」
「お、おい!イードル!!」
イードルはホーマの制止も聞かず、城を飛び出していってしまった。
「はぁ……面倒なことにならないといいけど……」
その頃、トロン王国魔術学院では、入学式が行われていた。
私はアエラとクロマとは同じクラスのようだ。
(アエラもクロマも美しいなぁ……こんな子たちと青春というものを謳歌して、将来は結婚なんてことに……♡)
※恋愛する気満々の魔王
壇上では、学院長のマーリンが挨拶をしている。
(マーリン、本当に立派になったな……)
私は成長したマーリンを感慨深く見守っていると、思いもよらぬ言葉がマーリンの口から飛び出してきた。
「……以上が私からの挨拶です。それではここで、今年の入学試験を最も優秀な成績で合格した、私の愛しい愛弟子、アークス・ジルスタインより、新入生を代表して挨拶していただきます♡」
「はぁっ!?」
会場内はにわかにザワつく。
「あれ?マーリン様って、弟子を取らないで有名じゃなかったっけ?」
「何だか全然凄そうな奴には見えないんだけど……」
「というか、マーリン様の様子おかしくね?」
アエラとクロマは顔を合わせる。
「ねえアエラ、ジルスタインって凄い人なのよね?」
「ええ!間違いないわ!私はこの目でしっかり見たからね」
マーリンが私に向かって、壇上に上がるよう促す。
「さあ、アークス・ジルスタイン。壇上へ♡」
私は仕方なく壇上へ向かう。
(お、おい、マーリン!挨拶なんて聞いてないぞ!)
(ウフフ♡先生が私の魔術学院に来てくれたのが嬉しくて♡つい……)
(僕が人前に出るのが苦手なの知ってるだろう?)
(先生……そんなこと言わないで?私のこと……嫌いになっちゃいました?)
マーリンは子犬のような目で私を見る。
(わ、わかった!わかったからそんな目で見るな!!)
(ウフフ♡じゃ先生、お願いします♡♡)
私は仕方なく壇上に上がる。
「え、えーと、僕はアークス・ジルスタイン。先程マーリン様からあったように、少しの間ですが、マーリン様の弟子としてマーリン様の元で魔法を教えてもらっていました。とはいえ、僕はまだまだ未熟なので、皆さんと一緒にこれからたくさんの事を学べればと思います。マーリン様、先生方、そして、共に学ぶ仲間たち。
これから素晴らしい学院生活を送りましょう」
会場からは大きな拍手が巻き起こる。
「ああ♡ジル様、なんて素晴らしいお言葉!涙で前が見えませんわ!!」
何故か号泣しているマーリン。
いや、君が喋らせたんだろ……
そして、入学式が終わると、私たちは教室へ。
アエラとクロマとは近くの席だ。
「アークス、隣の席ね!」
「ああ、よろしくね」
「ジルスタイン、私も目の前だからね!」
「ああ、クロマもよろしくね」
少し離れたところから、何やら視線を感じた。
視線の方を見ると、一人の男生徒がこちらを見ていた。
(アークス・ジルスタインだと?聞いたこともない。マーリン様の愛弟子だなんて……マーリン様は僕のものなのに……しかも、あんなに可愛らしい女生徒と既に仲良いとは……許せん)
嫉妬の視線のようだ。面倒くさそうなので、とりあえずは気付かないふりをした。
この後は、明日からの授業についての説明だけで、終了となった。
「アークス、あなた寮なのよね?」
(寮?そういえばソギソンがそんなこと言ってたな)
「あ、ああ。アエラも同じ寮なのかな?」
「アエラは王女様よ?私たちと同じ寮なわけがないわ」
「そ、そうなの?」
「ええ、敷地内の屋敷なんだけど……一人で住むには広すぎて……」
「えー、いいじゃん!私なんかベッドしかない4人共同部屋よ?」
「あ、それなら……クロマ、私の所で一緒に住まない?」
「ええ!?嬉しいけど……私そんな所に行っていい身分じゃ……」
「だって、この学院では身分は関係ないわよね?私がいいんだから大丈夫よ」
「ほ、ほんと?そしたらお言葉に甘えちゃおうかな……」
「うん!そしたら荷物を持ってきてね!クロマに部屋を一つあげるわ」
(うーん……部屋か……どうしよう……一度城へ戻ってソギソンに手配してもらうべきか……)
「アークス・ジルスタインはいるかしら?」
そこへマーリンがやってくる。
「マーリン様!」
アエラとクロマは姿勢を正す。
「フフ、そんなに緊張しなくていいわ。さあ、アークス・ジルスタイン、行きますよ」
「え、えっと……どこへ?」
「あなたの部屋よ?私の可愛い愛弟子ですもの。ちゃんと用意してあるわよ」
「あ、そうなんですね!」
(た、助かった……でも、何か嫌な予感がする……)
すると、またも刺すような視線を感じた。
先程と同じ男生徒のようだ。
(何でアイツばかりマーリン様に…!)
「さあ、愛しのアークス、行きますよ」
マーリンは私の手を引き、足早に歩き出す。
「あ、ちょっ……アエラ、クロマ、また明日ね!」
「え、ええ……また明日……」
アエラとクロマは顔を合わせる。
「どうなってるのかしら?」
「まあ、マーリン様の愛弟子ですものね……」
マーリンに手を引かれやってきたのは、敷地内にある地下へ続く階段であった。
普段は隠蔽魔法で隠しているらしい。
「先生、ここが私たちの愛の巣です♡」
「あ、愛の巣って……」
「ほらほら、早く行きましょ♡」
マーリンに背中を押され、階段を降りていくと、中はそれなりに広く、しっかりとした生活空間という感じになっていた。
「へえ、ここをわざわざ僕のために用意してくれたのか?」
「え?何を仰っているのですか?先生。ここは私の部屋です♡今日からここで、私と先生は同棲を……♡」
「はぁっ!?」
「先生♡」
マーリンは私にピッタリと体を寄せる。
「マ、マーリン!」
「先生は私の事、嫌いですか?」(子犬のような目)
「だからその目はやめてくれ!!」
「大丈夫ですよ!ちゃんと先生のお部屋は用意しておきました」
マーリンは壁に手をやると、新たな部屋が出現する。
「ホントに君は素晴らしい魔法使いになったね」
「あぁ♡先生に褒めてもらえるなんて……♡♡」
(褒められると異常に喜ぶのは昔と変わらないようだ……)
「本当は先生と同じベッドで寝たかったですけど……」
「うん、寝る時は自分のベッドで寝させてくれ」(即答)
こうして、この魔術学院にいる間は、マーリンの部屋で過ごすこととなってしまったのだ。
(今度城に戻ったら、ソギソンに家の手配をしてもらおう)
その頃、トロン王国から遠く離れた地。
「ちょっとぉ!トロン王国はどこなのよ!!」
「知らねぇよ!大体、何で俺まで行かなきゃいけねーんだ!!」
イードルは見知らぬ地でイルと共に迷子になっていた。
「当然でしょ!ジル様はあなたの主なんだから」
「主じゃねーよ!俺とアイツは親友だ!!」
「どっちでもいいわ!とにかく、早くジル様の元へ行かないと、大変なことになるわ」
「大変なことってなんだよ?」
「……ジル様に恋人ができちゃう!(泣)」
「別にいいじゃねーか」
「ダメよ!何百年ジル様のことを想い続けてると思ってるの!?やっとマーリンってあのエルフが居なくなって、ようやくジル様を独り占めできると思ったのに!!」
「あ、ああ……そうか」
「さあ、行くわよ、イル!きっとトロン王国はこっちよ!」
「……それ、さっき来た道じゃねーか?」
二人のトロン王国への道のりは、まだまだ険しそうだ。




