魔王、魔術学院に入学
今回のお話は少し長めになります。
「よし、完璧だ!」
私は部屋で人間に扮した自分の姿を見て満足気にしていた。
「ようジル、お前本当に魔術学院とやらに行くのか?」
「私はアークス・ジルスタインです。そう、ご覧の通りただの人間です」
「はいはい、それならジルでもいいじゃねーか」
「そう言うなよ。完璧に人間に扮してるだろ?気配も人間そのもののはずだ。これなら僕が魔族だとわかるまい」
(魔族どころか魔王だけどな…)
「さすがジル君だなぁ…僕や僕の育て上げた隠密部隊よりも遥かにすごいよ。ここまで完璧に人間になり切るなんて」
「さすがは魔王様ってとこだな」
「そう?そんなに難しいことじゃないと思うけど…」
「普通はそこまで達するのに何百年もかかるよ?君が特別なんだよ」
「結局お前はその魔術学院で何をしたいんだ?」
「フッ…体験してみたいのさ」
「あん?体験?」
「そう!いつぞや人間の書物で読んだ、青春というやつさ!学友と共に協力して困難を乗り越えたり、恋人ができたり!僕だって年頃の男子だ!色んな事を経験したいじゃないか!」
「年頃って…お前700歳は越えてるだろ」
「私アークス・ジルスタインは15歳だ。人間がそんなに生きてるわけがなかろう?」
「急にキャラ変えんな!さっきと違うじゃねーか!!」
「とりあえずこっちの方は今後脅威となりそうな魔術学院に魔王様自ら潜入してるということにしておくよ」
「ありがとう、ソギソン」
「でもジル君、君は人間の世界では身元不明だけど学院に入るのは大丈夫なの?」
「ああ、それなら心配ないよ!他の兵士学校や普通の学校だとそれなりの身分や紹介者がいないとダメらしいんだけど、魔術学院は関係ないらしくてさ。入学試験さえ通れば身分や身元は関係ないらしいんだ」
「そこまで調べてたんだね(笑)」
「さて、それじゃ行ってくる!留守を頼んだよ!」
「アイツ…楽しそうだったな」
「ふふ、彼は普通の暮らしにずっと憧れてたもんね。人間と魔族と共存できる世界があれば、ジル君は本当に幸せなんだろうけど」
「まっ、好きにやらせてやればいいさ」
「そうだね」
************************
こうして私は島を出てトロン王国に向かう。
飛空魔法で海を越え、トロン王国のある大陸へ。
あまり近くまで飛空魔法で行くのは目立ち過ぎると思い、トロン王国から少し離れた森の中へ降り立つ。
(ここからならちょっと走れば一晩で着くかな?試験まで三日もあるし問題ないな)
しばらく歩いているとある匂いに足を止める。
「血の匂いだ」
血の匂いのする方へ向かってみると、どうやら馬車が魔物に襲われていたようだ。よく見るとすでに数人やられているようだ。
「アエラ王女!私が命に代えてもお守り致します!」
(あれは…ヒドラか?おかしいな…今あんな強力な魔物は生成していないはずなんだけど…)
「私も戦えるわ!お願い、少しだけ時間を稼いで!」
「承知致しました!こっちだ!このバケモノめ!!」
兵士はヒドラに一太刀入れると距離を取る。どうやら自分に注意を引き付けているようだ。
(ヒドラは表面が硬い。彼の持っている剣では全く無意味だろう。彼女、魔法が使えるのか?)
女性の方に目をやると、何やら集中してブツブツと何かを唱えている。
『灼けよ、灼けよ、 灰に帰るは…』
(え…)
その後十数秒程であろうか、アエラと呼ばれる女性から火の玉が放たれヒドラに直撃。しかし大したダメージは与えられていないようだ。
「ッ!?全く効いていない?」
「アエラ王女!逃げ…」
ヒドラは大きな爪で兵士を攻撃。残念ながら兵士は即死だったようだ。残るは女性だけとなってしまう。
「くっ…ここまでか…」
(まさか詠唱とは…あれでは詠唱中無防備になるから一人で戦闘は無理だ。それに今の火炎魔法は初級の魔法だ。あれでヒドラに立ち向かうには無理がある)
とりあえずこれ以上目の前で犠牲者を出したくない為、私は茂みから女性の前に飛び出して行った。
「あなたは!?」
「話は後です。下がっていてください。」
私はヒドラの前に立ちはだかり、ある波長を送る。
私は魔王であるという波長だ。生成された魔物であれば大人しく引き下がるはずだ。
しかしヒドラは引き下がるどころかさらに興奮状態に。
『グオオオオォォ!!!』と咆哮を放つ。
「ッ!?」
(咆哮だと?私が誰かわかっていないのか)
これを躱すと女性に被害が出てしまう為、私は魔法で障壁を作り自分と女性の身を守る。
咆哮が止むと辺りの木は消し飛んだようで、更地のようになっていた。
「え…私、生きてる?」
女性は周りの惨状を見て、自分が無傷である事に疑問を抱く。
(この人は一体…)
「どこかで覚醒しちゃったのかな?それなら仕方ない」
私は指先に魔力を込め、勢いよく振払う。
次の瞬間、ヒドラは真っ二つに。
ズズン!と大きな音を立ててヒドラは倒れた。
これでもう大丈夫だ。
「え…今一体何をしたの?」
「お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫ですが…護衛の者達は…」
彼女の護衛は先程やられた兵士を含めて五名いたようだが…
「私の国ではかなりの手練の者達でしたが…」
「…」
(さすがにあのヒドラ相手では厳しかったのだろう。ましてや剣での攻撃だけでは…)
「申し遅れました。私はカリテクニ国の王女、アエラ・カリと申します。窮地を救って下さりありがとうございます」
「私はアークス・ジルスタイン。そうか、王女。だから護衛の者が付いていたんですね」
「ええ、最近は強力な魔物が出ないと油断していました。まさかここまで強力な魔物に出くわすとは」
「そうですね、私も驚きましたが…ところで王女様が何故こんな所に?」
「トロン王国に向かっていました。魔術学院の入学試験を受けようと」
「そうでしたか!奇遇ですね、私も入学試験を受けようとトロン王国に向かっていたところです」
「え…あなた程の方が?」
「私なんてまだまだ未熟者です」
「未熟者…ね?」
(一瞬であの化け物を両断できる程の実力があるのに?)
「まあここでこうして会えたのも何かの縁です。良かったら一緒にトロン王国まで行きましょう!」
「…ええ、心強いわ。ありがとう」
(悪い人ではなさそうだけど…一応様子を見ることにしよう)
※彼は魔王です
「しかし困ったわ…馬車もやられちゃって、トロン王国まではまだまだだというのに」
「ん?一晩もあれば着きますよ?」
「あなた何を言ってるの?ここからだと馬車でも二日はかかるわよ?」
「え…あ、あぁそうなんだ」
(人間ってそんなに身体能力低いのか?あ、それなら…)
「それなら身体強化の魔法を使って走れば馬車よりは早く着くかと…」
「…私達これから本格的に魔法を教わりにいこうとしてるのよ?そんな魔法使えるわけないじゃない」
「お、おぉぉう…」
(やっぱりおかしいわ、この人…何者なのかしら?)
「うーん…試験に間に合わないのは困るな。仕方ないそれでは」
私はアエラを抱き抱える。
「ちょっ!何を!?」
そして自身に身体強化の魔法をかける。
「しっかり捕まっていてくださいね?」
「へ?」
「では行きます」
彼女にそう告げると、トロン王国に向けて猛ダッシュを始めた。【推定時速400km/h】
「きゃぁぁぁあああ!!!」
それから数時間走ったところで一度止まる。
「どうでしょう?ここまで来たら“普通に”歩いてもあと数時間程だと思いますが?」
「は、はへ…へへへ」
※アエラは抜け殻になりかけています
「今日はここで夜営をしましょう。私が見張っていますのでアエラさんはゆっくりお休みください」
「あ、あなたあれだけ走って何でそんな平然としてるのよ!?」
「何でと言われましても…」
「まあいいわ。アークスでいい?私のこともアエラって呼んでちょうだい。これから同じ学院の仲間になることだしね」
「わかりました。でもまだ私が受かるとは…」
「受からないわけないでしょ!?すでに教官すらも超えてそうよ!」
「ははは…」
(全然大した事はしてないんだけどな…)
「ところであなたは何処から来たの?それにそれだけの魔法が使えるって誰に教わったのかしら?」
「ゔっ…えーと、私は孤児でして…生まれ故郷と言われてもわからないのです」
「そうだったのね…ごめんなさい」
「いえいえ、気にしないでください(魔王ですなんて言えないし)」
「魔法は?誰から教わったの?」
「えーと…私はある方に拾われまして、物心着く頃には世界各地を転々としながら魔法を教わっていた感じです」
「あら、そうなの?そのある方って?今は一緒じゃないのね?」
「(めっちゃ聞いてくるな…この人)実ははぐれちゃいまして…マーリンという方なんですけど」
(とりあえず昔の私の弟子だけど、それで適当に誤魔化しておこう)
「え…マーリン様!?アークス、あなたまさか大賢者マーリン様の弟子ということなの!?」
(あれ?何か反応が…)
「そんなにすごい方なんですか?」
「すごいなんてもんじゃないわよ!この世界において最高の魔法使いで、全ての魔法において彼女の右に出る者はいないわ!年齢は不詳で、魔法の力で数百年は生きてるとも言われてるの!」
「ほ、ほへぇ…(エルフだから長生きは当たり前なんだけど…)」
「マーリン様は世界各地を周り魔法を布教していたというけど、まさか弟子までいたなんてね。ちなみにそのマーリン様が魔術学院の学院長よ?知らなかった?」
(マジかよぉぉぉ!!!一応完全に扮したつもりだけど…いや、めんどくさいことにならなきゃいいな…)
「そ、そうでしたか。でもアエラさん、マーリンさんには私の事内緒にしておいてくださいね?」
「弟子なら隠すこともないと思うけど…わかったわ」
(まあバレなければの話だけどね…)
マーリンは孤児であった。300年程前であろうか、彼女の幼少期、ある悲劇に見舞われているところを、私が偶然人間の大陸に植物を採取しに来ていた時に出会ったのだ。
*************************
(こんなもんかな?綺麗な花だけど…僕達の島で育つかな?)
「こっちだ!足跡があるぞ!!」
(何だ?騒がしいな)
私は人間に見つからぬよう気配を消して様子を伺った。
(ん?強い魔力を感じるな…あの少女か?)
その少女は裸足で怪我を負っているようだが、必死に逃げているようだ。
(あの少女、エルフか?何故こんな所に?)
ふと周りを見渡すと、森の奥の方で火が上がっている。
(あれは…エルフの隠れ里か?)
「見つけたぞ!ここはコイツで最後だ!」
「や、やめて…お願い…」
しかし兵士達は少女に剣先を向け、
「黙れ!エルフは皆殺しだ!!」
(エルフ狩りというやつか?あんな少女まで手にかけようとは…これは見過ごせないな)
私は兵士達に緊縛の魔法をかける。
「ッ!?何だ?身体が動かな…」
「こんな小さな少女にいい大人が寄って集って…君達には兵士の誇りというものはないのかい?」
「なっ…ま、魔族!?」
「ヒッ…」
「もう大丈夫だよ?僕は君の味方だ」
少女はコクコクと頷く。
「さて、君達はどうしてこんなことを?さっき皆殺しとか言ってたけど、まさか他の罪のないエルフ達を虐殺したというのか?」
「そ、そうだ!エルフは皆殺しだと我らが帝王陛下からのご命令だ」
「それで?その帝王陛下からの命令だからとこんなに躊躇いもなくエルフ達の命を奪っていたのか?」
私は緊縛の魔法を強める。
メキメキと兵士達の骨が砕ける音が聞こえてくる。しかし兵士達は悪びれる様子もなく、
「そ、そうだよ!エルフはいい女が多いからな、しっかり楽しませてもらった後に任務を遂行したまでさ。こんな田舎に飛ばされてきたんだ…少しくらいいい思いをして何が…」
私の怒りは頂点に達し、彼らを更に締め上げた。
「…」
「あの…殺しちゃったの?」
「こんな奴らでも僕は殺生はしたくないからね。とりあえず気を失っただけだよ」
私は失神した兵士達に魔法をかける。
「何をしてるの?」
「回復魔法とこれまでの記憶を消す魔法さ。全身の骨を砕いちゃったからね。何故ここに居るのか記憶がなければこれ以上悪い事はできないだろう」
「そう…なんだ」
「…殺してほしかったかい?」
「わからない。でも私のパパとママ、他の人達はみんなこの人達に殺されちゃった」
「そうか…辛かったね?お嬢ちゃん、里まで案内してくれるかな?彼らに殺されたエルフ達を弔ってやりたい」
少女に案内され、エルフの隠れ里に着くとそれは酷い惨状であった。
私は魔法は使わず、一人一人丁寧に弔った。
「さて、僕はそろそろ行くとしよう。君は…どこかアテはあるのかい?」
少女は首を横に振る。
「そうか、なら僕と一緒に来るかい?僕の住んでいる所はちょっと辛気臭いけど」
「…いいの?」
「もちろんだよ!僕はよくこうやって世界を回って色んな植物や鉱石を集めたりしてるんだ。君も一緒に来るといい」
少女はコクコクと頷く。
「僕はジルだ。君は?」
「シルヴァリス」
「シルヴァリスかぁ…うーん、何か魔法使いっぽくないなぁ」
「?」
「そうだ、君は今日からマーリンって名前にしよう!」
「マーリン?」
「そうそう!大魔法使いっぽいでしょ?」
「…よくわからないけど、可愛い名前」
「うんうん、じゃ君は今日からマーリンね!マーリンには僕のとっておきをいっぱい教えてあげるからね!」
「…うん!」
こうして私にマーリンという名前をもらった少女はようやく笑顔を見せたのであった。
************************
(あれからどれだけ僕と一緒にいたかな?彼女は天才的才能の持ち主だったな。やりたい事があるって、僕の元を離れていったけど、まさかそれが魔術学院だったなんてな…)
「ねぇアークス、マーリン様はどんなお方なの?とても美しい方とは聞いていたけど」
「うーん…」
私の記憶の中のマーリンといえば、ちょこちょこと後ろをくっついて歩く可愛い存在で、教えた魔法はすぐに習得し、私に褒めてもらうのが何よりも楽しみに魔法を練習していたものだ。
(そういえば将来は僕のお嫁さんになりたいとか言ってたな…)
「まあ…優しい人でしたかね…よく世界中の綺麗な植物や鉱石を一緒に探してましたよ」
「そうなんだ?一緒に魔族と戦ったり強化な魔物を退治したりかと…」
「あはは…」
※彼は魔王です
そして話し疲れたのか、アエラは眠りにつく。
私は見張りをしながら彼女の寝顔見て、
(アエラ…こうやって見ると美しい人だな)
と、密かに恋心が芽生えていた。
(彼女のような美しい人を娶って、のんびり幸せに暮らせたら…)
※魔王は今アエラとの結婚生活の妄想をしています
そして夜が明けると、私達はトロン王国に向かって歩き始めた。
「ようやく森を抜けたわね!ほら、この街道の先に見えるのがトロン王国よ!」
アエラの指差す方を見るととても大きな街と城が見える。大きな建物もいくつもあり、その中の一つが魔術学院であろうか。
私達は歩みを早め、トロン王国に到着すると早速魔術学院へ。そこで試験の受付をするのだ。
「次の方、どうぞ」
「カリテクニ国のアエラ・カリです」
「カリテクニの…はい、結構です」
(カリテクニの王女か…これはこの学院の品位が上がりそうだ)
私は後ろからアエラにこっそり話しかける。
「アエラ、その札のような物は何ですか?」
「あら?あなた身分証を知らないの?」
「身分証?(そんな物があったとは…)」
「次の方、どうぞ」
「あ、はい。アークス・ジルスタインです」
「君はどこから来たんだ?身分証は?」
この男、よく見るととても憎たらしいというか、嫌な顔付きをしている。
「うーん、身元のわからない人はねぇ…学院の品位が…ブツブツ」
「地位や身分は関係ないのでは?」
「それは建前というかねぇ…」
「すいません、彼は孤児でして。我がカリテクニ国に属しております」
アエラが助け舟を出す。
「ふむ…しかし…」
男はニヤリと笑うと、
「まあいいでしょう」
(ん?大丈夫なのか?)
「アエラ、ありがとうございます。おかげで何とかなったようです」
「いいのよ。私はあなたに命を助けられてるんだし、このくらいの事はさせてよ」
その後私達は宿に戻り、明日からの試験に備えることにした。
(しかし解せないな。隠密部隊の情報では地位や身分は関係ないと…彼らが誤った情報を提供するとも思えないし、かといってマーリンがそんな事をするとも思えない)
私は受付での出来事を思い返していた。
すると扉を叩く音が。
「アークス、まだ起きてるかしら?」
「起きてますよ。どうぞ」
アエラが訪ねてきた。
「もしかしたら今日事を気にしてるんじゃないかと思ってね?」
「はは、私はなんと言われようと気にしませんが、あの受付の方、随分品位やら身分やら気にされてたようなので」
「確かに募集要項には地位や身分は関係ないと書いてたわね?あなたを見た目と身分だけで判断しようとしてたわ…」
「まあ試験で頑張れば認めてくれるでしょう」
「そうね、ましてやあなたなら問題ないと思うわ。ところで…」
「なんでしょう?」
「あなたはあれだけの魔法を使えるのにどうしてあなたから全く魔力を感じることができないのかしら?」
「えーと…まあなんと言いますか、先日倒した魔物もそうですし、相手が魔法使いとなると戦闘の際こちらの魔力を感じて動いてきます」
「魔物も魔力を感じ取ることができるの?」
「ええ、むしろ人間よりも感覚に優れていますし、強力な魔法を仕掛けるとなるとすぐに察知されてしまいます」
「そうなのね?私は魔法を撃つ時はどうしてもそこに魔力を込めないといけないから時間もかかるし、注意を引き付けてくれる人がいないと大変だわ」
「そうですね。なので魔法を放つ時以外は魔力を感じさせないようにします。仮に一人で戦闘をしなくてはならない場合、相手に隙を見せるわけにいきませんし」
「すごいわ…それもマーリン様の教えなのかしら?私が国の魔法使いに教わったものとは考え方自体が違うわ!」
「ま、まあ…そうですね」
(昔マーリンに教えたことだけどね…)
「私にもできるかしら?」
「もちろんです。誰にでもできますよ」
「あと勝手に魔法が出てくるあれは?」
「えーと…」
「私や他の魔法使いは詠唱をしないと魔法を使えないけど、あなたはいきなり魔法を使うじゃない?」
「あー、詠唱こそ無駄ですよ?その間無防備ですし」
「てことは…私でもできるのね?マーリン様もそうなのかしら?」
「もちろんできます。マーリンさんも無詠唱ですよ」
「あなたのこともっと早く知ってればわざわざここに入学しなくても、お城の中で色々教われたわね」
「あはは…私もまだまだ修行中の身ですので…(相手がアエラならそれはそれで楽しそうだけど、やっぱりせっかくだから青春というやつを謳歌したい!)」
「あ、遅くなっちゃうわね?明日に備えて寝ましょう。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
こうして眠りについた私達は翌日、私達は試験を受けに再び学院へ。
試験会場に到着すると、各自番号の入った札を渡される。アエラは6、私は1019だ。
(おかしいな…どう見ても1000人もいるようには見えないが?)
「アークス、あなたとは随分離れてしまったわね?一緒に行動できるかと思ったのに」
「そうですね、よく見ると私の他に1000番台の人が何人かいるようです。でも間の番号の人がいないようで…」
「何なのかしらね?」
二人で会話をしていると、教官と思われる者から号令がかかる。
「静粛に!これより入学試験を始めるがその前に、アスヒモス学部長よりご挨拶がある!各自番号順に並ぶように!」
(番号順?あっちは126までか…こっちは私が一番下の番号のようだ…1000から1019?)
「待ちなさい!君達の列はこっちだ!」
教官に促されるままに動くと、アエラ達126人とは離れた場所に並ばされる。
(なんで分けられたんだ?)
この状況に私と同じく1000番台の受験生の一人が声を上げる。
「すいません、何故私達は分けられているのでしょうか?」
声を上げたのは黒髪の可愛らしい女性であった。
(この人可愛らしいな...ちょっと気は強そうだけど、
こんな人と青春を謳歌できたら...)
※魔王は青春の1ページを妄想しています
しかし、教官から驚愕の言葉が返ってくる。
「黙れ、下民が!気安く発言をするな!」
「ッ!?」
(何だそれ...教官が言う言葉なのか?)
「静粛に!それではアスヒモス学部長よりご挨拶をいただく!」
すると壇上には見覚えのある男性が。
(あ、アイツは受付の時の...)
「私はネク・アスヒモス、この学院の学部長をしている。受験生の諸君には是非頑張って試験をクリアしてもらい、我々学院の一員となってもらいたい」
普通の挨拶のようだが、その目は明らかにこちらを向いていない。
「さて、諸君にはわかっていてもらいたい。いや言わずともわかるだろう…」
(なんだ?)
「魔法とは崇高なものであり、魔法使いとは高貴な者であるべきだ。だからこの学院も格調高い場所と言えよう」
(は?)
「魔法使いは選ばれし者がなれる。魔法は身分の高い者のみが扱える特別なものだ」
(彼は何を言ってるんだ?)
アスヒモス学部長はようやくこちらに目を向け、
「この場に相応しくない者がいるようだ。試験は受けさせてもいい。だがこの場所で学べるとは思わないことだ。君達のような下賤がまともな魔法など使えるわけがない」
(何か腹が立ってきたな…でもここで怒り狂って暴れるわけにはいかない。それは人として彼より下になってしまうからな)
※彼は魔王です
そしてアスヒモス学部長の挨拶が終わり、試験開始となる。
やはり1000番台の受験生は後に回されるようで、いつ試験を受けさせてもらえるのか、全く先の見えない状況となってしまったのだ。
1000番台の受験生はほとんどが帰ってしまい、ここに残されたのは私と先程の黒髪の女性だけとなったのだ。
「…君は残るのですか?」
私は女性に話しかける。女性は悔しそうな顔で、
「当たり前よ!私は魔法に自信がある、それに私が頑張らないと…魔法使いになって魔法部隊や研究機関に就職して家族を守らないと」
「…色々事情があるんですね」
「私はクロマ・イーリス。あなたは?」
「アークス・ジルスタインです。私は孤児で身元がありません」
「ジルスタイン...そう、だからあなたも…」
「クロマさんどう思います?私達このまま試験を受けさせてもらえると思います?」
「え?」
今会場では試験が行われているが、どうやら空中に不規則に飛んでくる的を魔法で当てるといったもののようだ。しかし、
「惜しいねぇ!よしもう一度いきましょう!」
本来であれば失格であろう者が何度もチャンスを与えられている。これではいつ我々の順番が回ってくるのか、もしかするとこのまま受けさせてもらえないかもしれない。
「どうやらこの番号、身分や地位の高い人ほど若い番号を渡されているようね?私達1000番台は人間ですらないとでも言いたいのかしら?」
(なるほど、だからアエラは6なのか…てか王女よりも上の身分って…)
「こんなの試験でもなんでもない!ただの差別じゃない!!私は自分が魔法を使えると知った時、必死に練習をした。この力を磨けば家族の生活を助けることができるって、必死に頑張った。トロン王国の魔術学院は力があれば誰でも入れると…私は更に高みを目指そうと思ってやっとの思いでここまで来たのに…」
彼女の目から大粒の涙が。それを見た私は立ち上がる。
「どうしたの?ジルスタイン?」
「…力を示すとしましょう」
「え?」
私は試験が行われている場所へ向かう。
「アークス?」
アエラが心配そうに声をかけてくる。
「アエラ、すいません。もう私は限界です」
「えっと…何をする気なの?」
不安そうにしながらも何故かワクワクした様子のアエラ。
私は試験真っ最中のアスヒモス学部長の元へ。
「何だ貴様は!試験中だぞ!」
一人の教官が私の肩を掴む。
「ぎゃああああ!!」
教官の手は黒く焦げていた。
「たかがこのくらいの事も防げないのですね」
「君は…カリテクニ王女と一緒に来た孤児か?」
「…一応覚えていたんですね?」
「ああ、身分証のないゴミは君だけだったからな」
「随分と何度も試験をやり直すんですね?戦場でやり直しなんてありませんよ?」
「黙れ!貴様らのようなゴミはこの学院に必要ない!品格が疑われるだろう。ここには由緒正しき人間、王族、貴族、上流階級の人間だけいればいい!」
「それじゃあ何のために試験なんかやってるんです?」
「そんなものは建前だ!いいか、貴様は試験が終わったら即刻ここから追い出してやる!二度とこの学院に足を踏み入れられると思うな!」
「よくわかりました。あなた、相当腐ってますね?とてもマーリンの部下とは思えない」
「貴様…誰に向かって…」
「耳まで腐ってるんですか?」
「貴様ぁぁ!!」
アスヒモス学部長は勢いよく立ち上がり、私に臨戦態勢を取る。他の教官達も同じように構える。
「貴様は私を侮辱し、あろうことかマーリン様をも侮辱したな?少々痛い目を見せてやる必要があるな」
するとアエラとクロマも飛び出してきて私に加勢する。
「ちょっと、受験生一人に教官全員でなんて…あなた達どういうつもり?」
「ジルスタインごめん。私の為にここまで…」
「カリテクニ王女まで…なら全員まとめて!」
『そこまでです!!』
大きな声が響き渡る。
(この声は...間違いない!)
そこには先程帰ったはずの受験生を引き連れた一人の美しいエルフの女性が。
「マーリン様!」
(マーリン…えと…なんというか…めちゃめちゃ美人になったな!色気も…)
「アスヒモス学部長、私の目を盗んで随分と好き勝手してくれたようですね?」
マーリンは穏やかな表情をしているが、その声から怒りの感情が伝わってくる。
「何度も言ったはずです。ここでは身分も地位も関係ない。魔法の才があってやる気のある者であれば誰でも受け入れると」
(やっぱり...てことはコイツの独断だったのか)
「し、しかしマーリン様、やはり魔法は選ばれし者が...高貴な者だけが扱うべきで、この魔術学院ももっと格調高い場所にするべきです!」
「お黙りなさい!!」
マーリンの目が光ると、アスヒモス学部長の目の前に雷が落ちる。
「ひぃっ!」
「あなたは優秀な魔法使いと聞いていましたが...私の理念を全く理解してくれないようですね?」
「マ、マーリン様、これには理由が!」
「結構です。アスヒモス学部長、即刻この学院を去りなさい!あなたはこの学院に必要ありません」
「そ、そんな...マーリン様!」
何とか縋りつこうとするアスヒモス学部長。
「私の言葉が理解できませんか?」
マーリンは強大な魔力を露見させる。
「ひぃっ…も、申し訳ありませんでした!」
マーリンはアスヒモス学部長を取り巻いていた教官達に目をやり、
「あなた達は?アスヒモス学部長に唆されたのでしょうけど、今自分が何をしているかわかっていますか?」
「申し訳ございませんでした!」
先程まで臨戦態勢を取っていた教官達はマーリンに土下座をし謝罪する。
「あなた達の処分は追って伝えます」
するとそこに王国兵士がやって来る。
「ネク・アスヒモス!王国背任の容疑で同行してもらおう」
「へ?」
マーリンは冷たい表情でアスヒモスに、
「当たり前でしょう?この魔術学院の理念は王国の意思そのもの。あなたのしてきた事は背任罪以外のなにものでもないわ」
「そ、そんな...」
アスヒモスはそのまま兵士に連行されていった。
「さっさとここを立ち去ればもしかしたら逃げられたかもしれないのにね...馬鹿な人」
マーリンは受験生達に頭を下げる。
「さて、お騒がせして申し訳ありませんでした。改めてまして、トロン魔術学院学院長のマーリンです。受験生の皆さん、本日はようこそお越しくださいました。これより試験を最初からやり直します」
試験をやり直すという言葉に会場内はザワつく。
「簡単な試験です。私と面談してもらいます。その場で合否をお伝えしましょう」
更に会場内はザワつく。
(一体何を考えてるんだろう?)
面談用の席が準備されると、早速先程の番号札順に面談が開始された。
「では、1番の方からどうぞ」
「はい、僕は...」
「...あなたは不合格です。お帰りください」
「なっ...まだ僕は何も...それに僕は大貴族の息子で...」
「お帰りください」
「納得できません!」
「...ではあなたには今見えていますか?」
「は?」
マーリンはため息をつき、
「あなた、先程の試験では己の魔力ではなく魔法石を使っていましたね?高価なものですが、大貴族というならいくらでも手に入るのでしょう」
「ッ!?」
「では次の方、どうぞ」
大貴族の息子という者は諦めたのか、大人しく会場を後にした。
(さすがマーリンだ。魔力のあるものにしか見えないようにしてるのか...しかし...あれは...)
マーリンは“あるモノ”を自身の背後に露見させていた。魔力の強い者である程それがハッキリと見えるのだろう。なので私にはハッキリと見える。
「次の方、どうぞ」
「はい。カリテクニ国のアエラ・カリです」
「まあ、カリテクニの?」
アエラはもちろん魔力があるので、マーリンの後ろの
“あるモノ”が見えているようだ。
「あなたからは才能ある魔力を感じます。しっかりと見えているようですね?」
「は、はい!マーリン様、この方は?」
「フフフ、私の大事な方、この世で最も尊敬する方です。アエラ・カリさん、合格です。ようこそ、トロン魔術学院へ」
「ありがとうございます!」
ここでアエラが今回初の合格者となった。
その後も面談は進み、最初の126名のうち合格したのは15名であった。不合格の中には最初の受験生のように魔法石での不正がバレて不合格になった者、来年また是非挑戦してほしいと言われる者と様々であった。
「では、次は1000番台の方達ですね?あなた達二人以外はもう既に面談をさせていただきましたので、全員合格です」
(そうか、それでさっきはマーリンが彼等を引き連れていたということか。確かにこの1000番台の者たちはクロマさんを始め、皆素晴らしい才能があるようだ)
「ではまず1018のあなたからどうぞ」
「は、はい!クリオ諸国のアナトリ村から来ました、クロマ・イーリスです!」
「あら、あなたは素晴らしい才能があるわね?非常に強い魔力が潜在しているようです」
「あ、ありがとうございます...その、マーリン様?後ろの方ですが...もしかして魔族ですか?」
「あなたにはとてもハッキリ見えているようですね?そうです。彼は魔族です。私の命の恩人なのです」
「そ、そうなんですね...魔族ってなんていうか、もっと怖いものだと...」
「魔族全てが悪とは限りません。彼はとても心優しい、素晴らしい方です」
「...私もその方とお会いしてみたいです!」
「フフ、私も彼と再会できるのを楽しみにしているのですよ?クロマ・イーリスさん合格です。ようこそ、トロン魔術学院へ!」
「ありがとうございます!」
クロマは合格者達の中へ。
「おめでとう!これからよろしくね!」
アエラがクロマに声をかける。
「あなたは先程の!ええ、よろしく!クロマ・イーリスよ」
「アエラ・カリよ。よろしくね、クロマ!」
二人は固い握手を交わす。遠くでその様子を見ていた私は何だか嬉しくなった。
(いいなぁ...これが青春ってやつかな?)
「では最後の君、どうぞ」
「あ、はい。アークス・ジルスタインです」
「ッ!?」
「え、えーと...何か?」
(バレたか?!)
「あ、ごめんなさい。あなたは見えてますか?」
「あ、はい。見えます」
(バレてないようだ...)
「そ、そうなんですね...えーと、ハッキリは見えてないですね?」
(うーん…どう答えるのが正解だろう...)
「ジルスタイン、大丈夫かな?マーリン様が何だか困惑しているようにも見えるけど...」
「アークスなら大丈夫よ!彼は凄いんだから!!」
「そ、そうなの?アエラは彼と面識が?」
「ええ、そうなのよ!あのね...」
アエラは私との出会いやここまでの事をクロマに話す。
「ええ!?そ、それは大変な事じゃない!!」
「アークスには内緒にしておいてくれって言われたんだけど...でも変ね?マーリン様自分の弟子がわからないなんてことは...」
「えーと...まだ何か聞かれるんでしょうか?」
「...」
マーリンは考え込んでいた。
(おかしいわ...この子の目にはしっかりと私の等身大愛しのジル先生【※マーリンの超大作】の姿がハッキリと映っているはず。なのにこの子からは微量の魔力も感じられない...どういうこと?)
すると様子を見ていたアエラとクロマが近づいきて、
「あ、あの...マーリン様?」
「あら、アエラにクロマ。どうしました?」
「アークスからは口止めされてましたけど...彼マーリン様の弟子なんですよね?」
「え?」
「あばばばばば!!!」
「ごめんなさいアークス、でも何だか随分時間がかかってたようだし、何かあったのかなって」
「いえ、彼から全く魔力を感じなかったので...でもこちらは見えているようですし...」
「あれ?だってマーリン様がお教えになったんじゃないんですか?」
「どういうことです?」
「ア、アエラ!も、もういいから!!」
「良くないわよ!あなたは本当に凄い人なんだから!!こんなとこで終わるなんて許さないわよ!!」
するとアエラはマーリンにここまでの出来事や、宿で話した私の魔法論等を全て話した。
「あ、あなたは...」
マーリンの手が震え出した。
「マーリン様?」
(はぁ...仕方ない、ここはマーリンにも付き合ってもらおう)
私はマーリンの脳内に直接話しかける。
『マーリン、久しぶりだね?彼女にここまで言われないと気付かなかったって事は僕の隠密魔法もなかなかだったかな?』
『や、やはり!ジル先生でしたか!!』
『おっと、飛び込んでくるなよ?彼女達に変に思われるだろ?』
『むぅぅ...』
『理由あってこの格好でここに来たんだ。まさか君がいるとは思わなかったけどね?とりあえず僕は君の弟子という事にしておいてほしい』
『わかりました。ジル先生がそう仰るなら...理由は今度ゆっくりお聞かせくださいね?』
『ああ、わかったよ』
すると、マーリンは私の目の前に来て自分の胸元に私を抱き寄せた。
「あぁ…私の愛しの弟子アークス、こんなに大きくなって!!」
「ッ!?」
※アエラとクロマは絶句しています
『マーリン!?』
『いいじゃないですか!優しいマーリン様が可愛い可愛い弟子との再会を喜んでいるシチュエーションです!』
単に自分が抱きつきたかっただけじゃないかと思ったが私はもう何も言わなかった。
「アークス・ジルスタイン、もちろんあなたは合格です。ようこそ、トロン魔術学院へ!」
(わかったから離してくれ…)
こうして無事魔術学院に入学できたわけだが...この先一体どうなることやら...




