隠密部隊出動!
初の試みが失敗に終わった数週間後。
あれからまた魔物の生成を再開し、人間同士の戦争は落ち着いてきたかに思われたが、一部ではまだまだ戦争が終わらず、激化の一途を辿っているという。
(生成した魔物弱すぎたかな?)
数日前、私は四天王達に再び魔物生成を始めるよう指示をした。
「また生成を始めるのですか?」
「ああ、今度は弱めのもので構わない。君達もわざわざ根城を作らず魔法陣でここから転送すればいい」
「了解しましたー☆」
「任せてくれ!」
「…御意」
「……」
「フォティア?どうした?」
一人何かを考え込んでいる様子のフォティア。
「魔王様、これもまた何かお考えがあってのことで?」
「………」
(うーん、考えというか…人間に戦争やめて欲しいだけなんだけど…)
もちろんそんなことは言えない。
「…少し試したいことがあってね」
「…承知致しました、魔王様の仰せの通りに」
(とりあえず何とかなったのかな?)
フォティアは魔族の中でも特に頭が良く、隙を見せようものならこちらの心の内を暴かれかねない。
世界平和の為、内輪揉めなんてしてる場合じゃないからね!
さて、こちらはまた世界平和に向けて次の手を打たねば!と私はある部隊を謁見の間に呼んだ。
「魔王様、お声がけ頂き光栄です」
「何か特殊な任務でございましょうか?」
私の目の前にいる5名は魔族の部隊の中でも特に隠密行動に特化した者達だ。
「君達には色々調べてもらいたいことがあってね」
「と、言いますと?」
「まず君達全員、各地の主要都市に入り人間として生活をしてほしい」
「え?」と一瞬空気が変わる。
「人間としてというと、普通に日常生活をということでしょうか?」
「そうだ!そこで人間達の生活を知り、どのようにして人間達は部隊を作り上げているのか、戦争の原因は何かなどを徹底的に調べてきてほしい」
「な、なるほど…しかしまた何故このような細かいことまで?」
私はフッと笑みを浮かべ、
「ただ普通に攻略しても面白みがないだろう?敵を内側から知るというのも重要なのさ。それに人間達は我々魔族のような強大な魔力がない代わりに我々以上の知力があるからね」
「承知致しました!魔王様の仰せの通りに!」
「3ヶ月後に報告に来るように、各自連絡は通信魔法で行ってくれ!」
(うん、人間達の生活ってちょっと興味あるし、面白いことが知れたらいいなぁ)
そんなことを考えていると、私の気付かない物陰で一人恐怖に怯えている者がいた。
(魔王様、何をお考えかなかなか理解できず、今日も隠密部隊を動かして何を企んでいるのかと思えば…)
恐怖に震えていたのはフォティアであった。
(まさか人間どもの内部にまで関与しようというのか?牛耳るのか、しかも人間の日常生活まで知ろうとは…先代魔王マルト様以上と言われていたが、それ以上だ…本当に恐ろしい方だ!きっと我々の想像できないとてつもない事をお考えに違いない!)
フォティアは密かに私に更なる忠誠心を持ったようだった。
後日、廊下でフォティアに遭遇する。
「魔王様、お疲れ様でございます」
「ああ、フォティアお疲れ様」
「魔王様、私魔王様の理想を叶えるべく全身全霊、命を賭して励む所存でございます。魔王様の一番お近くで必ずお力になってみせます!」
「あ、ああ、そうか…期待してるよ、フォティア」
そう言うと満足そうな表情を浮かべ颯爽と去っていく。
(ものすごい熱量だな、まあ変に疑われてる訳でなければいいけど)
「…魔王様」
「うわぁぁ!!」
私の背後にひっそりと佇んでいたのはホーマであった。
私はいつもこのようにホーマには驚かされるが、彼の事は実はあまり知らないのだ。
「魔王様、少々お時間をいただけますでしょうか?」
「ああ、いいよ。珍しいね、ホーマ」
ホーマに連れられ彼の部屋へ。
(そういえば四天王の部屋に入るなんて初めてだな)
「で、どうしたんだい?ホーマ」
「魔王様が私の育て上げた隠密部隊を出動させたとのことでしたので…」
「ああ、そうだったんだね!勝手に呼びつけてしまってすまなかったね」
「いえ、構いません。ただ…」
ホーマは普段マスクで顔を覆っている為、表情はわかりにくいが何か言いづらそうにしているのは明白であった。
「……魔王様、本当に人間達の世界を手中にしようとなさっているのですか?」
「ッ!?」
私は心臓が跳ね上がるような感覚だった。
(え?まさか…ホーマ、私が平和を望んでることに気付いて?)
「…」
ホーマはマスクを外し優しく微笑む。
「ジル君、思い出してもらえたかな?」
「あ!君は!?」
思い出した。彼は幼い頃、親とはぐれ魔獣に襲われそうなところ私が助けた魔族で、その時はソギソンと名乗っていた。
よく城を抜け出しては彼とイルと3人でよく遊んでいた。
「よう!ソギソン、ついに正体明かしたのかぁ?」
ケタケタと笑いながらイルが姿を現す。
「え?イルは知ってたのか?」
「だってどう見たってソギソンの魔力じゃねーか。お前気付かなかったのか?」
「ごめん、ソギソン…」
「全然大丈夫だよ!あ、今は3人だから昔のように話させてもらうね」
「もちろん!僕もそのほうがいい!」
「ありがとうジル君」
聞くと彼は先代の土の四天王からホーマの名前を譲り受けたとのこと。それならすぐに話しかけてもらいたかったけど、まあ何か理由があってのことなんだろう。
「で、ジルに何か言いてえことあんだろ?」
「うん、ジル君とは昔色々話したから…その上で改めて聞きたいんだけど」
私はうんうんと頷きながら彼に真剣に向き合う。
「ジル君は昔平和な世の中で暮らしたい、だからこんな大きな力もいらないってよく言ってた。今はどうなの?本当に人間達から世界を奪う為に人間と戦争をするつもりなの?」
「ううん、僕の考えは昔から変わらないよ!僕は平和な世界でのんびり暮らしたいんだ」
「やっぱりそうなんだね!良かった…」
ホーマは安堵の表情を浮かべた。
「まあ他の四天王や血の気の多い連中にバレちまうとめんどくせぇことになるからな」
「うん、僕もそう思う」
「ジル君、さっきの隠密部隊だけどね、彼らは力はあるけど、全く戦闘向きの性格じゃないんだ。だから隠密部隊として戦闘とは関係ない任務を任せれるようにしたんだ!」
「そうなんだね…あ!もしかして?」
「うん、完全に魔力も隠せるように訓練したんだよ!君が僕に気付かなかったようにね?」
「やっぱり!でもイルはよくわかったなぁ」
「ケケケ!俺の目はそう簡単に誤魔化されないぜ!」
イルは元々本当に優秀な悪魔だったのだろう…今はマスコットのような可愛らしい見た目だが…
「彼らならきっといい報告をしてくれると思う!ジル君、楽しみに待っててよ!」
うんうんと頷き、その場は解散した。
私の理想とする平和な世界に向けて心強い仲間ができた。
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3ヶ月後、一人の隠密部隊から報告を受けることになる。
「魔王様、これまでのご報告をさせて頂きます」
「ふむ、どうだった?」
「まず戦争に関してですが、各国争いを止め
協力して魔物の討伐をしようというところ、デスティヒーア帝国という国が話し合いに応じず、未だ各国に兵士を送り込んでいるそうです」
「なるほど、デスティヒーア帝国…」
(なんて奴らだ、この国の王を説教してやりたい)
「あと兵士の育成ですが、各国兵士を養成する施設があるようで、国によって長けている武力が違うと」
「なるほど、国によって戦術が違うのはそこにあるのかもしれないね」
「あと小耳に挟んだ情報ですが、トロン王国という国に魔術学院たる施設があるようで」
「魔術学院?人間に魔力はないのでは?」
「そう思ったのですが、どうやら一部ではそうでもないらしく、今魔術を使う人間が増えてきていると…」
「それは脅威だね…」
(人間の知力に魔術まで使われたら…これはとんでもない事になりそうだ)
「わかった、ありがとう。ところで他の4人は?」
「…えーと、、申し上げにくいのですが」
「構わない、遠慮なく言ってくれ」
「…皆人間の土地での生活が快適すぎて、そのまま永住するとのことです!」
「へ?」
「中には人間の娘と結婚した者もいます」
「お、おぉぉう…」
「実は私も…妻がおりまして…」
「……」
「今度子供が産まれる予定なのです」
(みんなしっかり幸せに暮らしてるぅぅぅぅ!!!平和な暮らしうらやましすぎる!!!)
「魔王様!大変申し訳ございません!このような形になってしまったこと、お許しください」
彼は恐怖で酷く震えているようだ。そりゃあ普通に考えたらねぇ、でもよく一人でここまで報告来てくれたもんだ。
「…構わないよ、ホーマから話は聞いている。君達は戦闘向きでないんだろう?だったらこのまま平和な場所で幸せに暮らすといい」
「ッ!?魔王様!ありがとうございます!!」
「何か困ったことがあったら遠慮なく言ってきたらいい」
「魔王様!本当に!本当にありがとうございます!」
何度も泣きながらお礼を言って足早に去って行った。
(いいなぁ、帰りを待つ妻がいるのかぁ)
「…魔王様、良かったのですか?」
私はホーマにだけ聞こるように小さな声で、
「じゃないと彼のせっかくできた家族が悲しむだろう?」
「フッ」とホーマは微笑む。
「さて、魔術学院かぁ…ちょっと興味あるなぁ」
「…まさか」
私はホーマに対してニヤリと笑ってみせた。
よし、今度は私が自ら魔術学院に行ってみよう!




