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第7話 主人公の居ない舞台で

 と、まぁ。斯くして、彼らは生き返った。


「はっ! 私は何を……!」

 まず目を覚ましたのは桜姫だった。彼女は金玉がキラキラと光っている隆盛と、部室の床に空いた穴の上でズタズタの火傷が再生していく凛、教室の外でひしゃげたドアとぶちまけられた大量の血液とともに光に包まれた陽菜を見て、顔を青くする。

 またやられた。

 吉岡はもう部屋にはいない。

「どうしてあんな戦いを……」

 桜姫は必死に考えた。なぜ自分たちがあんな意味の分からない殺し合いに本気になっていたのか。そして、考えるうちに考えがあっちこっちに飛んで、結局

「まぁいっか! 週末は競馬場だし!」

 と喜んだ。

「復活!! 俺復活!! ……ぬ?」

 隆盛がはち切れんばかりの筋肉を隆起させて立ち上がった。しかし金玉のピカピカはなぜか消えなかった。

 桜姫は隆盛の股間を見て、眩しさに目を細めながら、小さく噴き出した。

「あはっ。隆盛くん……ひ、光ってるよ……きんt」

「あああ!! ダメっす! ダメっす! 桜姫先輩! その先は言っちゃダメ!」

 廊下から飛び込んできた陽菜が、間一髪で桜姫の口を押えた。

 陽菜にとって、隆盛の金玉について桜姫の口から言及されるなど言語道断。彼女は隆盛をにらんだ。まぶしくて目を細めながら、叫ぶ。

「はやくその光止めてください!! 今日は月末の金曜日ではありませんよ!」

 などと言っていたら、一番重傷を負っていた凛が、黄金の光を身にまとったままようやく塞がった部室の穴だった部分に着地する。

「ふっ……またしても僕はこうして蘇ったわけ、か。イエスの再来だ……ね」

 彼が身にまとっている黄金の光に、隆盛が少しずつ引き寄せられる。

 ただしくは、隆盛の金色の玉が、引き寄せられている。

「おっ? おっ? おおおお? なんだ!? 俺の玉が引っ張られる! 凛の方に引っ張られているぞ!!???」

 桜姫は金色に光る隆盛の股間が、金色に光る凛に向けて少しずつ引っ張られていく様子に笑いをこらえられなかった。

「あははははは! なんでwww 凛くんも隆盛くんも何wwww 綱引き!? キンタm」

「だからダメっす!! その先を言わないでください!!」

 陽菜はこの場で起きている事をなんとか解釈した結果、先ほど乱れた風水のせい、邪霊のせいだという結論に至った。あとは、爆笑する桜姫先輩かわいい、などと考えている。

「隆盛パイセン! 邪霊っす! 邪霊が隆盛パイセンのキッタネェ玉を引っ張ってるっす!」

 その言葉を聞いた瞬間、隆盛はすべてを理解してしまった。

「邪霊か!!! クソっ! 凛! 協力して邪霊を追い払うぞ!!」

「違うよ陽菜、そして隆盛先輩。これは僕が精神と時の部屋で体得した、ゴールデン形態なのさ。気を極限まで凝縮し、練りあげ、身に纏う。そうすることで、」

 凜の言葉の途中で、隆盛は叫んだ。

「気の力かッ!! 邪霊に抵抗するために気を練り上げればいいんだなッ!!」

 彼は金玉が引っ張られた状態で、腰を落として数珠を擦り、適当に高速で手印を組みながら、何やらぶつぶつ呟いている。

「アブラハムには七人の子、一人はのっぽであとはチビ、みんな仲良く暮らしてた」

 その様子を今やただ一人の常識人(?)となった陽菜が、眉を寄せて糾弾する。

「なんの呪文っすかソレ!!! 童謡で気を練るなんて聞いた事ねぇっす! パイセン、もっとまともな呪文ないんすか! 破道の九十とか!!」

 桜姫が陽菜の後ろで口を開いた。

「それ知ってる! にじみだすこんだくのもんしょーってやつだよね!?」

「そうっすそうっす! って、桜姫先輩! 貴方はやんなくて良いですからね!」

 陽菜は三人を順番に糾弾し続けているが、もう体力の限界だった。いつもこうだ。

 いつも陽菜はこうして苦労に苦労を重ね、この部活動の形をなんとか保とうとしていた。思えば、今日は少しだけ楽だった瞬間があった。

 そう、朱陣幸がいた時、陽菜はこの糾弾をする側ではなく、ほかの三人と同じく好きに暴れるだけの側でいられた。

 陽菜は気づいた瞬間、立ち上がって隆盛の金玉を蹴り上げ、輝く凛の顔面をつかんで壁に押し付けた。

「ぎやあああ!」「んんふっ!」という二人の叫びを全く無視して、彼女は気づいた。

 暴力によって強制的にこの場を粛清した彼女は、茫然とした顔で呟く。

「必要だ……この部活にはアイツが……逃げられたけど、捕まえないと」

 陽菜の後ろから、桜姫が両肩に手を置いた。

「陽菜ちゃん」

「な……なんすか?」

 陽菜が振り返ると、そこには頬を膨らませた桜姫の顔があった。陽菜は一瞬で今考えていた事が頭から飛んで、『怒ってる顔の桜姫先輩かわいすぎ』一色になる。

「暴力はよくないって言ったよね!」

 桜姫は両のこぶしを胸まで上げて『ぷんすか』している。

(いや、さっきまで私ら、殺し合いしてましたよ!?)

 彼女は言うべきことを言えず、本能に従って桜姫を褒めた。

「桜姫先輩、ネイル変えました? ちょー似合ってます!」

「え!? 気づいた? えへへ、ありがとー」

 桜姫が満面の笑みで萌え袖からはみ出た爪を見せびらかす。

「うわ~かわいいっす! まじで! 持ち帰って撫でまわしたいくらい!」

「ほんと~? 持ち帰られちゃおっかにゃ?」

 桜姫が照れた様子で自分の後頭部に手を回しながらも、満更でもなさそうな様子で笑みを浮かべる。もう一方の手は招き猫のように、萌え袖からはみ出した部分を軽く曲げていた。

「か、かわいすぎ……犯罪的っすよ桜姫先輩……」

 彼女はこういう動作を狙って行っているわけではない。ナチュラルに行う。自然な様子で、かわいさを強調し、見るものの心を奪う。

 陽菜の鼻から一筋の血が流れた。頭に血が上り過ぎている。脳が完全に目の前のかわいい生物に支配され、陽菜はこのままだと一生彼女とイチャイチャしてしまう勢いだ。

 彼女も、気づいている。気づいているが抗えない。白鷺桜姫の美貌と愛嬌に!

(あ~もう! 桜姫先輩とイチャイチャするの楽しすぎ! 幸? だっけ? もういいや! あいつどーでもいい!)

 この通り。彼女は全くやる気を出さない。

「桜姫先輩、この後いっしょにクレープ食べ行きましょ?」

 部室で二人の男がぐったりと気絶しているというのに、陽菜はまったく気にしない。さっさと桜姫と一緒に遊びたいのだ。教室の外を指して、自分のカバンを拾う。

「クレープ!? うう……うんっと、でも私、今お金が……」

 桜姫は競馬に全財産つぎ込むために、節約している。ギャルの嗜みたるメイク用品やオシャレには金を使うが、それ以外は出来るだけ、競馬に金を使っている。

 いや、それっておかしいんだよね。だって競馬で増やすつもりなんだよ桜姫は。増えるなら減らないって事のはずなんだ。しかし桜姫は、今週末の中央競馬用資金を絶対に使えなかった。財布のひもは固くて緩い。つまり、桜姫は競馬をすると金が減る。

「私が奢るっす! あったり前じゃないですかそんなの!」

「ええ? 悪いよぉ」

 桜姫は本心から首を振った。良識的なところがまた、陽菜の心を鷲掴む。

「いいっすいいっす! 私が先輩と行きたいんですから!」

 桜姫は相手の厚意を無碍にできないと思って、渋々頷いた。

「うん。……勝ったら次は私が奢るからねっ!」

 勝ったらである。ギャンブルをやっている奴の頭の中なんて、基本こんな感じである。勝てないのに、勝つ前提で生きている。

 陽菜はそんなダメ思考を持つ桜姫を、より一層熱の籠った目で見ていた。

「もー! 勝ったらってなんですかー。勝てなかったら奢ってもらえないんすかー?」

 桜姫は痛い所を突かれて目を反らす。

「だ、大丈夫だもん。勝つもん。ルメールに全ツするもん」

 などと。拉致の開かない百合展開を続けていても仕方がない。

 廊下からドタドタと足音が聞こえてきた。急いで走っている。その足音の主は、ピンク色の花々が舞う教室のドアを勢いよく開けた。


「何時になったら俺を呼び止めに来てくれんすかっ!! このままじゃ俺、適当に囲碁将棋部とか入っちゃいますよ!?? 神の一手極めちゃいますよ!?」

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