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6話 スピンゲーム

 彼らは今、何をしているだろうか。


 彼らは今、ドッコイ猛烈ドスコイ熱血☆世紀の白熱スピンバトル~お前がやらねば誰がやる~をしていた。

 説明しよう、【ドッコイ猛烈ドスコイ熱血☆世紀の白熱スピンバトル~お前がやらねば誰がやる(以下スピンバトル)】とは、相撲とベイゴマを複合した猛烈に熱血するこの部活で大人気のゲームである。

 ルールは単純。腰を深く落とし、股関節を百八十度開く。その状態で両手を水平に肩の高さまで上げて、全員でグルグルと回転しながらぶつかり合い、先に倒れたものの負け。

「さぁ始まりましたね! 第六十五回、スピンバトルの開幕です!」

 新校舎から放送部員を拉致ってきた隆盛が、強引に実況をさせている。この不憫な実況者の名、吉岡。吉岡はしかし、このスピンバトルをオリンピック競技に出来ないかと画策するほどに熱中していた。だから問題はない。

 補足として、ルール上隆盛だけは武器の使用が禁じられている。体格がでかすぎるからだ。要するに、ほかの三人は武器を持っている。

 桜姫はチア部の手伝いをしたときに貰ったポンポンを両手に、凛はガスブローバックの東京マ〇イ製、グロック18を両手に、陽菜は剣道部からこのゲームのために借りてきた木刀二本を持っている。

「今回の武器を鑑みると、やはり前回王者の沖田陽菜が有力かァアア!」

 吉岡は部屋の隅に移動させられた長机とパイプ椅子で作った実況席から渾身の叫び声をあげた。叫びすぎて声が裏返っている。

「では! 位置に付いてぇええ??????」

 四人が部屋の四隅で腰を落とし、股関節を百八十度開いて見合う。

 みんな真剣だった。この戦いに全てが掛かっている。

 夏合宿の甘い思い出、苦心して開発した必殺技、精神と時の部屋での修行、その全てを出す時が来た。

 教室内の空気が張り詰め、重苦しくなっていく。いつもは柔和な桜姫の表情には、強い覚悟と殺意が籠っていた。彼女の青い瞳が見据えるのは、この辛く苦しい戦いの先にある景品。週末の部活動内容決定権である。

「はじめぇええええ?????」

 テンションが上がり過ぎて声が裏返った吉岡のコールと共に、全員が回転を始める。

「おっとぉおお? 隆盛選手いつもとは異なる構えだ! 右足を軸にして回るライトサイクロンではなく、左右の足を交互にちょこちょこと動かす事で回転する、イブンローテートの構え!」

 ちょこちょこちょこ。

 隆盛がゆっくりと、両足の踵とつま先を使って回転を始める。

「それは悠長っすよ隆盛先輩!!」

 叫んだのは陽菜だった。吉岡が現状を解説する。

「沖田陽菜! やはりこの女がまず仕掛けた! 右足軸半回転→左足軸半回転→以下ループによって移動する、ファステスッムーブメンッ! 隆盛の方へ向かっていく!」

 陽菜が両手に握る木刀が、彼女を軸に扇風機の刃のように回転している。彼女はそのまま、隆盛の頸部へと木刀を振った。

「ムンッ!!!」

 バキッ! という音とおともに、木刀がへし折れる。真っ赤になった首と痛みに耐えて目が充血した隆盛はしかし叫ぶ。

「システマ!! システマ!! ムンっ! っすー、っすー! 痛くない!」

「なっ! バケモンすか隆盛パイセン!? 赤く腫れあがってるっすけど!?」

 システマによって痛みを克服した隆盛は、攻撃直後で硬直している陽菜の腹部にちょんとこぶしで触れた。ちょんとしか触れない。ちょこちょこちょことしか移動できないから、勢いはない。

 しかしそれだけで、陽菜の体は教室の扉を突き破り、廊下の壁にまで吹き飛んだ。

「がはッ……流石っす……隆盛パイセン……」

 教室外で滝のような血を吐いてその場に伏せた陽菜に、実況吉岡が叫ぶ。

「リングの外にでた沖田陽菜は敗北! これで残るは三人だァああああ????」

 ピュンピュンピュンとBB弾の飛ぶ音がする。よいこは人に向けて撃ってはいけないBB弾を、人に向けて撃っている輩がいるのである。

「んふーッ! システマァッ! んっ! ンッ! システマッ! システマァアア!」

 凛は隆盛に向けてグロックの弾丸を撃ち続けている。

 そのたびに、隆盛は痛みを体から追い出す呼吸を繰り返す。

「システマの呼吸壱の型、疼痛霧散!!」

 隆盛は白目を向いて数珠を擦りながら、ちょこちょこちょこと両足を交互に二センチずつ前に進めて、凛に肉薄する。痛みを霧散できていないのか、両の瞳からは涙が出ていた。しかしシステマ柱こと九条隆盛は武器を持っていない。距離を詰める他無い。

「ば、化け物! 来ないでおくれッ!」

「んむぅ!! システマァ! システマァ!!」

 凜はこの隆盛を前に、自分の過去を想起した。ここで負けてはいけない。勝たなくてはいけない。凜は自分の気持ちを奮い立たせ、隆盛を倒す手段を思いついた。

「んむッ!????」

 金玉狙い撃ちである。このスピンバトルのレギュレーションでは必ず股関節を百八十度開いている必要がある。

 凛はそこに活路を見出した。

「やっ! やめろォオオ! 降参! 降参だァあああ!」

 隆盛は股間を抑えて床に転がった。

「おっと!! 冴羽選手が巨漢隆盛をダウンさせたぁあああ????? これで残るは二人! 白鷺選手と冴羽選手の一騎打ちかぁあああ????????」

 凛の残酷すぎる下法の技を見て、桜姫は顔を青くしていた。股間狙い撃ち。さすがの凛も桜姫にするつもりはないが、彼女はこの勝負に真剣だった。真剣だったからこそ、彼の行いを糾弾しないし、自分も股間を狙い撃ちにされると思っていた。

 しかし、凜はここである失敗に気づく。

「あはぁ。ゴリラ先輩の玉を撃ってたら弾切れちゃったぁ」

 カチカチと引き金を引く音だけがする。しかし弾は発射されない。

 占めた! 桜姫はチャンスと見て移動を開始する。桜姫の移動はライトサイクロン。

 右足を軸にして高速回転しつつ、凛の居る方向に重心を向けて少しずつ移動する。

 そう、少しずつである。その間に、凛は何やらゴソゴソとポケットから取り出した。

「んふ。桜姫先輩が相手でも容赦しないよ。僕はもうリロードを終えた!」

 凛が桜姫に向けて弾丸を発射する。しかし、桜姫は回転しながら両手に持っているぼんぼんでBB弾を受け止め、衝撃を殺す。

「なっ! 役に立たないと思っていたボンボンがッ!」

 凛は目を見開いた。

「これはぁあああ???? この競技の歴史に残る世紀の決着が見れそうだぁあ!」

 桜姫の高速回転は目にも止まらない。彼女は残像を見せながら笑った。

「あはははは! 凄い! 私凄い! すっごい早い! すご……うぷっ」

 しかし、その速さが仇となった。

「おっとぉおおおおおおおおお? 激しい回転を続けていた白鷺選手! いきなり動きを止めて口を抑えたぞぉおおおおおお?」

 読者の皆さん、グルグルバットの経験はおありか?

 人間は、回転を続けると三半規管がやられるのである。

「おろろろろろ!!」

 白目を剥きながらふらついて床に倒れた世紀の美少女の口から、虹色の液体が床に広がる。美少女は吐しゃ物ですら美しいのだ。しかし、勝負の世界は無常。勝ったのは――

「今回もまた!! 冴羽選手の勝利だあああ!!!」

「……残酷だね。神様は僕を愛している。凡人の君らに勝ち目なんてなかったのさ」

 凛は頭頂部を床につけてグルグルグルとブレイクダンスのように回り始めた。

 喜びが爆発したのである。プロ顔負けのヘッドスピンだ。しかし、その回転がはやすぎた。ホストのように尖った頭髪が床に穴を開け始めたたのである。

 吉岡が「お、おい! どこに行くんだぁああ????」と声を裏返す。

 しかし、凛は頭髪ドリルで床を貫き、校舎の基礎を貫き、地面を貫き、岩盤を貫き、マントルに突入した後、すぐに燃え尽きて死んだ。

 かに思われた。

「それは残像さ。本物の僕はここに居る」

 吉岡は旋律した。死んだはずの凛の声が自分の斜め後方上部から聞こえてきたのだ。

 彼は振り返り、クモのように天井に張り付いた本物の凛を発見する。

 彼は笑みを浮かべ、実況吉岡の前に着地した。

「さぁ、景品を頂こうか。僕の美貌に相応しい供物を! ね」

「……いつから残像だったんですか?」

 吉岡が額に汗しながら、インタビューした。残像が戦っていたことなど、気づかなかったのである。このスピンバトルを六十回実況してきた彼でさえ。

 凛は腰を高速で宙に向けカクカク動かしながら天を仰いだ。

「最初から、さ!」

「じゃあ失格!! 優勝者は繰り上がりで白鷺選手ううううう???????????」

 凛は吉岡の言葉にショックを受けた。

「そ、そんなぁ! この分身を体得するために精神と時の部屋で何年も修行したというのに! 分身がダメなんて聞いてないよ……。でもふふっ、これも神の思し召し、かなぁ」

 彼は今度こそ本当に頭髪ブレイクダンスドリルで床を掘り進め、マントルに飛び込んで自害した。

 景品の今週末の部活動の内容を決める権利は桜姫が獲得してしまった。

 なので、週末は競馬場だ。

 最初に散った沖田陽菜、残念だったね。

 ちなみに。

 この後、吉岡が用意した聖杯からは竜の化身が現れた。

 吉岡はMCLの魂をこの聖杯に食らわせる事で、長大な魔力を得る儀式をしていたのだ。彼は現れた緑色の竜と相対する。

「ワイがお前の望みを一つ叶えてやるで」

 猛虎弁の竜に吉岡は口角を上げて呟いた。

「今の戦いで亡くなった人々を蘇生してくれ」

「ええで」

 緑色の竜がにっこりと笑い、この競技で犠牲になったMCLの部員全員を蘇生するという願いを受け入れた。

 黄色い光に包まれて息を吹き返していくMCLの部員を眺め、吉岡は満足げに頷いた。

「これで、来週またこいつらのスピンバトルを見られる」

 彼は、毎週行われるこのスピンバトルを見ることが生き甲斐になっていた。

 ただ、残念吉岡。このスピンバトルはもう恐らく行われる事はない。

 

 とにかく、まぁ。斯くして、夢うつつのような体験をした彼らは、ふたたび生き返って日常に戻る。


 


もう何がなんだから書いてる自分もよくわかりません

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