番外編:波乱の新婚旅行!?――ワクワク、でもやっぱりドキドキの後編
波乱の移動を終えて、
新婚旅行の目的地に到着!
どんな旅行になるのかな?
ワクワクでドキドキの新婚旅行後編です。
柔らかな日差しに誘われて、ゆっくりとノーラの意識が浮上する。
心地よい身体のだるさが、昨夜の名残を物語っている。
「おはよう、ノーラ。」
すぐそばに、大好きな人の笑顔が広がる。
「おはようございます、旦那さま。」
なんだか照れくさくて、うつむいてしまった。
そんなノーラは、嬉しそうに見つめるテネシーの優しい瞳に、泣きたくなるほどの幸せを感じる。
日常になりつつある、ドキドキの朝だけれど、今日は少しだけ違う。
「今日は」
「あぁ、お楽しみの"お忍びデート"だ。」
ベッドに抱き起こして、手を引いて鏡台へと導いてくれる。
「お嬢さま、本日のご希望は?」
「あら、お嬢さまではなくってよ。」
「では、奥さま。髪型はどうされますか?」
テネシーの悪ふざけに付き合って笑いあう。
「自分でできるわ。」
今日のこの日のために、特別なワンピースを新調した。
ミミいわく、『町娘には見えないけれど、裕福な商家のお嬢さま風には化けられる』代物らしい。
せめて、若奥さまが良かったわ。
残念だが、どんなに頑張っても、奥さまという雰囲気にはならないんだそうだ……残念。
「先に着替えて、外で待ってるよ。」
言葉と同時に、ガウンを脱いでテネシーがノーラの目の前で着替え始める。
たくましい胸に、昨夜の熱を思い出して、思わず顔を逸らす。
「そんな反応をされると、離れ難くなるだろ。」
悪戯っぽく笑って耳元に落とされるバリトンが、腰に響く。
「駄目ですよ。今日は、ずっと楽しみにしていたんですから。
いくらテネシーのお願いでも、譲れません。」
きっぱりと断って、扉に押しやる。そうでもしなければ、この人の色気に負けてしまいそうだったからだ。シンプルな春色のワンピースに着替え、髪をハーフアップに整え、大きな帽子をかぶって外に出た。
***
まずは、戦場跡地の見学。開けた場所に、いくつもの石碑が立っている。国に管理されているこの場所は、花と緑に囲まれて、とてもキレイだ。風の音が響くほど静かなのは、この場所が"特別"だからかもしれない。
テネシーは、あまり乗り気ではなかったのよね。
行き先にこの場を希望した時の、少し戸惑った姿を思い出した。
けれど、王太子妃教育の一環で知ったこの場所に、訪れない理由は見つからなかったのだ。
国を守って犠牲になった人たちの慰安地。
わたしたちの幸せは、この場所が原点であると感じた。
「我儘を言って、ごめんなさい。」
突然の謝罪に、テネシーが不思議そうな顔をする。
「テネシーは、あまりこの場所には来たくなかったんじゃないかと思って……。」
愛しい人が、困ったように笑う。
「来たくなかったわけじゃないんだ。」
吹き抜ける風が、髪を揺らす。
「心配させてごめんな。」
テネシーの視線は、どこか遠くを見つめていた。
大丈夫だと言いながらも、その表情は、何かを耐えているような、苦しそうなものに見える。
そっと大きな手を両手で包み、そっと胸元に寄せる。
ノーラは、自分が隣で生きていることをちゃんとテネシーに感じてほしかった。亡くなった多くの命を前に、人を儚く感じるのは自然なことだ。でも、この彼の表情は、それ以上に"何かある"ような気がした。祈るような気持ちで、胸元の手のひらに力を込める。
ふと、視線を感じる。
「おかしなことをしましたか?」
「いや……君がいてくれて良かったと思って」
上手く言葉にできない。
でも、なぜかこみ上げる気持ちが抑えきれずに、テネシーを抱きしめた。
びくりと身体が跳ねて、固くなる。
「あなたは公爵で、王族です。背負うものが大きい。
わたしでは助けにならないかもしれません。それでも、わたしはここにいます。あなたの隣に……」
抱きしめる腕にぎゅっと力を込める。
「君がいてくれることが、俺を支えてくれるんだ。助けにならないなんて、言わないでくれ。」
声が……切なく響く。
包んだはずの身体に包まれて、テネシーが肩に顔をうずめる。
彼の肩がわずかに震えていることには、気づかないフリをした。
穏やかに風が流れ、静かな時間を押し流していく。
色とりどりの花が揺れ、この人の悲しみが癒えることと共に、この地に眠る多くの命の安らぎを祈った。
***
春祭りは、建国を祝うお祭りだ。面白いのは、各地域によって地元色が強く、祝い方が様々なのだ。その特徴が色濃く出るのが、屋台。
「う~ん、おいしい。」
テネシーは、串焼きを頬張ってうっとりとするノーラを、驚いた顔で見つめている。
「あっ。」
淑女とは程遠い行動に気づいて、ノーラがあわててうつむく。
「どうした?」
「ごめんなさい。はしたないわよね。」
曲がりなりにも公爵夫人だ。道端で屋台の食べ物を頬張っていいはずがない。
前世の記憶に引っ張られたのか、時々こうした"無邪気さ"が顔を出す。
「ちょっと驚いたけど、可愛いなって思ってたんだが?」
ノーラが手にしている串焼きにテネシーがかぶりつく。
「うん、美味い!」
にかっと笑った顔は、護衛の時の彼を思い出させる。
「いいの?」
「今日はお忍びデートで"普通"を楽しむんだろ?」
うつむいた理由を察したのだろう。テネシーが何でもないことのように笑う。
この人は、本当にわたしの心を拾うのが上手。
いつだって、この笑顔に救われてきた。
「じゃあ、遠慮なく。」
大きな口を開けて、もう一口かじりつく。
たっぷりとかけられたソースの香ばしさが、口いっぱいに広がる。
「最高!」
笑顔になるノーラの手元の最後の一口を、テネシーが素早く奪う。
「あっ!最後の一口だったのに。」
「これは俺のだろ?」
「ずるいわ。自分の分を買ったらいいのにっ。」
「ノーラの串焼きだから、美味いんだよ。」
たわいないやり取りで笑いあう。こんなデートは、前世でもしたことがない。でも多分、前世のデートに近いのかもしれない。立場や身分は関係なく、笑いあってからかいあって……純粋に二人の時間を楽しむ。
――この人を諦めなくてよかった。
心の底からそう思った。
ふと、音楽が流れだす。
広場に人が集まり始め、それぞれが音に合わせて踊り出している。
踊り方は自由なようだ。一人で踊るもの、パートナーと踊るもの、誰もが思うままに身体を揺らす。
「踊ろ?」
両手でテネシーの手を取り、広場へ歩み出る。
踊りは得意ではないが、音に合わせて身体を動かすくらいはできる。
当然だが、淑女教育の一環のワルツとは、全く違う動きだ。
こんなふうに、人前で、前後、左右に身体を揺らし、髪も揺らして踊るのは、初めてかもしれない。
「ほら、回ってみな。」
突然、テネシーが手を取ってリードする。
身体が自然に回転し、スカートの裾が翻る。
周囲の人たちから歓声が沸いた。
「リードがお上手で」
「君の方こそ、こんなダンスもできるんだな。」
「これは、前世の記憶だもん。」
「そうなのか?」
テネシーは、一瞬驚いた顔をしたけれど、嬉しそうに笑った。
前世の記憶と言ったって、人前で踊った経験はない。
でも、一人で音楽に合わせて身体を動かすことは好きだった。
「少しずつでいい、もっと前世のことも教えてくれよ。」
突然抱き寄せられて、囁かれる。完全に腰砕けだ。
「もう、ズルいです。」
「何が?」
確信犯は、ただ楽しそうに笑うだけだ。
「何もかもがですっ!」
少し拗ねてダンスの輪から外れる。
本当は、少し疲れたから広場を抜け出したのだけど、慌てて追いかけてくるテネシーがなんだかかわいい。
「怒ったのか?」
広場の端に用意された、簡易ベンチの丸太に腰掛けると、テネシーが心配そうに顔を覗いた。
「怒ってないよ。どっちかっていうと、嬉しかった……かも。」
「嬉しかった?」
隣に腰を下ろして、テネシーがそっと手をつなぐ。
「前世も知りたいって言ってくれて、本当にわたしの全部を受け止めてくれるんだって思ったら、嬉しくなっちゃった。」
「当たり前だろ。」
「そんな簡単に言っちゃっていいの?……きっと驚くわよ。」
「そっか?俺は楽しいと思うな。」
「楽しい?」
「淑女のお前と、そうじゃないお前と、いろんなお前が楽しめる。」
「ガチャじゃないんだから」
「ガチャ?」
「内緒」
唇に指をあてて、ウインクする。
前世の自分を知られることは、恐怖に気絶するほど怖かった。
それを楽しみだと笑ってくれる旦那さま。彼の懐の広さに愛しさがこみ上げる。
「ねぇ」
「ん?」
小さくつぶやいた声を聞こうと、耳を傾ける。
「大好き。」
近づいた頬に、軽く口づける。
不意打ちは、大人の彼にも有効のようだ。
テネシーの耳が真っ赤になった。
「ノーラ!」
照れ隠しで睨んでも、ちっとも怖くない。
「嘘は言ってないわよ。」
開き直って笑うと、テネシーの大きな手のひらが、突然首筋あたりをすり抜けて、頭の後ろに回される。
気が付いたら、深いキスに息ができない。
夢中で応えていると、ゆっくりと唇が離れていく。
「悪い子には、お仕置きだ。」
「やっぱり、ズルい。」
年齢の差は、経験の差なのだろうか。全く勝てる気がしない。
悔しくなって、うつむいていると、大きな手のひらが頭を撫でた。
「あまり、俺を振り回さないでくれ。」
予想外の言葉に、思わず顔をあげる。
もう一度、軽く唇を奪われる。
「俺は、お前に骨抜きにされてるからな。いつか、誰かに足元をすくわれそうだ。」
「それは困ります。」
「ま、そうはならないようにしないとな。」
「でも」
「ん?」
「夢中になってくれるのは嬉しいので、それも困ります。」
こぼした本音に、テネシーが盛大なため息をつく。
「お前な~。」
「何か、おかしなことを言いましたか?」
ため息の意味が分からなくて、首をかしげる。
「無自覚に煽るとか、勘弁してくれ。」
頭を抱えてつぶやいた言葉は、聞こえない。
何かやらかしたことだけはわかって、戸惑っていると、テネシーが真顔でつぶやいた。
「奥さん、今夜は責任を取ってもらいますよ。」
大きな愛犬が、突然獰猛犬になったようで戸惑う。
数秒後……前世の自分がその意味を察知した。
「あっ」
気づいた意味に、身体が一気に熱をもって顔をあげられなくなってしまった。
***
「ねぇ、テネシー。わたしね、前世のことを話すことが、ずっと怖かったんだよ。」
二人とも、小狭い部屋が気に入って、宿も部屋も変えないことにした。
宿に戻って寝支度を整え、ベッドの上でテネシーの胸に寄りかかる。
「怖いか……。」
自分の気持ちを想像しようとしてくれているのが嬉しい。この人のこういう優しさが、何度も壊れそうになった心を救ってくれた。
「真実味がないことはもちろんだけど、記憶の中の自分は庶民で、王族とは縁もゆかりもない。
あるのは、わがままで傲慢だった自分が、愛されなかったという疑似体験だけ。」
言いながら、身体が震えた。テネシーが受け止めてくれることが、どれほどの勇気になっているのかを今さらながら思い知る。
「どんな言葉を重ねても、お前の不安は消えないかもしれない。でもな、」
テネシーが、抱きしめる腕に力を込める。
「俺は、どんなお前でも愛せるし、そういうお前だから惚れたんだ。」
優しいキスが降ってくる。
「自分を信じられないなら、俺を信じろ。
俺は、お前の側にいる……これからも、ずっとな。」
首筋にちりっと痛みが走る。
「それ、今日私が言った台詞。」
「おう。嬉しかったから、お返しだ。」
いたずらがバレた子供のような笑顔。
「ありがとう。あなたに出会えて、良かった。」
「それは、俺の台詞だよ。俺を信じてくれてありがとう。幸せになろうな、二人で。」
「もう、幸せよ。」
「あぁ、知ってる。」
ろうそくの明かりが揺れる部屋で、笑いあう。
どんな未来があったとしても、二人でいられれば、笑いあえる……そんな気がした。
最後まで、読んでいただきありがとうございました。
新婚旅行という特別な時間を、あえて"お忍びデート"にした二人。
互いに思いあい、支え合い、小さな奇跡を積み重ねながら、
未来の幸せを確かめていく――
そんな二人の姿に、わたし自身もあたたかい気持ちに包まれていました。
少しでも、読んでくださったみなさまにも、そんな幸せが届いていたら、とても嬉しいです。
じつは今日、もう一つ
「喪女のわたしにどうしろと?~前世の記憶が戻ったのは結婚式の直前でした~」も
番外編を公開しています。
お時間があれば、そちらも是非、読んでいただけると嬉しいです。
そして、次回作ですが――
少し作風を変え、初のR15になる予定です。
戦闘シーンに、三角関係……これまでとは違う作品になりそうです。
まだ、公開予定までには時間がかかりそうですが、読んでいただければ嬉しく思います。
応援、ありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
ハッピー・ホリデー♪




